軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第87話 緊張

「み~んなぁ~、勝ったわよぉ~ん(はぁと)」

試合に勝利し、メンバーの下へと帰還したグロスティーナはご機嫌だった。猛烈な速度でスキップし、その勢いのまま皆の下へと駆け寄る。

「さっ、勝利の抱擁をお願い!」

皆の直前で急停止、目を閉じ両手を広げ始めるグロスティーナ。しかし、待てども待てども、お待ちかねの抱擁が来る気配はない。

「……あらん? ねえ、抱擁はぁ?」

「いや、しねぇよ」

「す、すみません……」

「私もパスね~」

グロスティーナが目を開けると、部屋の端にまで離れた仲間達の姿があった。変人変態揃いのS級冒険者達も、流石に 抱擁(それ) は避けたかったらしい。

「もう、照れ屋さんなんだからん!」

「ハッハー! だが、俺らの初勝利には変わりない! マスター・ケルヴィン、俺達はやったぞ! そしてスズ、仇は取ったぞ!」

「ああ、その点に関しては素直に称賛するよ。リオンと竜王相手に、よく勝てたもんだ。 ……本当に強くなったよ、本当に。リオンを倒してくれた礼も、いつかしないとなぁ」

「はい、お二人とも素晴らしい戦い振りでした! ……本当に、素晴らしい戦いで、嫉妬しちゃうくらいです。羨ましい」

「ハッハッハ―、そうだろうそうだろう!」

両手を腰に当て、豪快に笑うオッドラッド。師と同期の弟子に褒められたのが、よほど嬉しかったのだろう。しかしその裏で師の口は若干吊り上がり、同期の弟子はジェラシー染みた圧力を放ち始めており…… 大きな功績を残した筈が、なぜか将来に暗雲立ち込めるオッドラッドであった。

「うげー、まさか試合の後にも働かされるとはねぇ……」

そうこうしているうちに、バッケが舞台の魔力補充係から解放されて帰って来ていた。

「ああ、バッケもお帰り。喜んでくれ、第三試合は勝ったぞ」

「知ってるよ、それなりに間近で見ていたからね。激戦の後で悪いけど、グロスとオッドラッドはあっちに…… って、そういや二人とも、MPは高いのかい?」

「あら、突然の質問ねん。でも答えちゃう! 殆どないわん、魔法は使わないもの!」

「同じく、MPはないに等しいぜ! 俺はこの拳、そしてゴルディアがあれば十分だからなぁ!」

「あー、やっぱりかい。なら、別に向かわせなくても良いか」

「うん? 一体何の話かしらん?」

「いや、こっちの話だ。ま、タッグバトルであっちも二人いるんだし、何とかなるだろ。それよりもシン、次はアンタの番だっけ? ギルドの総長様が負けるんじゃないよ」

シンに活を入れようとするバッケ。しかし、当のギルド総長はというと。

「すぱ~…… え、何だって?」

懐から葉巻を取り出し、呑気に喫煙していた。シンが口から煙を吐き出すと、器用にもその煙は輪っかの形となって宙に舞い上がって行く。

「ったく、相変わらずマイペースなこって。最古のS級冒険者同士の戦い、精々堪能させてもらうとするよ」

「おいおい、レディに向かって歳の話をするとは失礼な。言っとくけど、アートの方が全然年上なんだからね? そこは忘れないでほしいなぁ。すぱ~……」

「ハッ、そんだけ強気なら大丈夫か! アタシはひと仕事した事だし、ここで酒でも飲んで見物させてもらうよ。なあ、誰か酒樽を持ってないかい?」

スパスパと葉巻をふかすシンと、ガブガブと酒を飲み始めるバッケ。ここが学園であるという配慮は、どうやらこの二人にはないらしい。

「スズ、シン総長ってそんな昔からいるのか?」

「私も正確な年齢は知らないのですが、少なくとも私が生まれる前から総長ではありましたね。噂によれば、パーズのミストギルド長よりも全然年上だとか―――」

「―――はーい、そこ! 私の話を聞いていたのかな? 試合前に私のやる気を削ぐような事はしないように! 歳の話、駄目絶対!」

口に葉巻を銜えながら、腕で大きく×を作り出すシン。

「ハァ、まったく。あがり症で人見知りな私だってのに、気分を落ち着かせている暇もないようだ。じゃ、そろそろ行って来るよ。ケルヴィン君、間接キスみたいになっちゃうけど、葉巻の残り吸う?」

「悪いけど、俺は 葉巻(そういう) のは吸わないんだ」

「あら、残念。ぽいっと」

シンはそう言って、持っていた葉巻を宙に放り投げてしまう。

「おい、ポイ捨てなんてするな――― っと!?」

すかさずケルヴィンが注意しようとするが、次の瞬間、その葉巻は宙に溶け込むようにして消えてしまっていた。当然床にも葉巻は落ちておらず、辺りを見回してもどこにも見当たらない。

(葉巻が消えた、いや、どこかに転移したような消え方だったな。総長の能力か?)

「アートが相手か~。ちゃんと蜂の巣にできるかな~っと」

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「クッソ―、負けたぁーーー!」

「とっても強かったーーー!」

ルミエスト側のメンバー控室に戻ったリオン達は、到着するなりそう叫んでいた。ルミエストにとって初の敗北となってしまったのが、よほど悔しかったのだろう。

「皆、ごめん! 負けちゃいました!」

「うー、でかい事言って負けちゃうとか、情けないし! …… GM(ごめん) 」

同時に、仲間達に向かって頭を下げる。

「リオン君、ラミ君、頭を上げ給え。私達の中に君達を責める者なんていないさ。いや、それにしても見応えのある、良い戦いだった」

「そうね。私と違って格下が相手だった訳でもないし、勝負内容自体どちらに転んでもおかしくないものだったわ。というか、 変態(あんなの) が相手だった事を、心から不憫に思っているくらいよ」

「そうでごわすなぁ。拙者も勝利を持ち帰られなかった身、お二人の事をとやかく言える立場にありませぬ。そもそも、言う必要も皆無じゃけぇ」

そんなリオンらに対し、メンバー達はむしろ素晴らしい戦いであったと、温かく迎え入れてくれた。

「えと、す、凄い試合でした、です……!」

但し、最後の試合を任せられているクロメルだけは、少し落ち着かない様子だった。頑張って笑顔を作ってはいるが、どこかぎこちなさが拭えない。

それもその筈だろう。対抗戦におけるこれまでの成績は、一勝一敗一引き分け。アートが担当する第四試合がどのような結果になったとしても、ルミエストが勝利できるかどうかは、クロメルにかかっていると言っても過言ではなくなってしまったのだ。

「クロメル、勝負を決められなくてごめんね? 僕達で少しでも負担を減らせれば良かったんだけど、逆にプレッシャーをかける結果になっちゃって……」

「マジ GM(ごめん) 、クロちゃん! 私ってばマジ駄目な子!」

「そそそ、そんな事ないです! わたわた、私は大丈夫ですですし!」

見るからに大丈夫ではなかった。ラミに抱き着かれ頬ずりをかまされるが、その間もクロメルの表情は非常に硬い。

「あ、私、ちょっとお花を摘みに行ってきますね。失礼します、です」

そう言って、クロメルはとてとてと控室を出て行ってしまった。

「……緊張されておりますなぁ」

「仕方ないよ。最後の試合なんて、僕だって緊張すると思うもん」

「いえ、今のリオンならそんな事ないでしょ。嬉々として戦うでしょ」

「そ、それこそ、そんな事はないよ!?」

「むー、尚更負けたのが悔しいし。あんの筋肉お化け~~~!」

「……教官とは学生を支える為の存在。ならば、私がその本分を果たそうじゃないか。クロメル君の負担が少なくなるように、次の試合は私が必ず勝利する!」

颯爽と立ち上がるアート。その姿は指導者として正しく、非常に頼りになるものであった。

「では、行って来る。私の勝利を祈っていてくれ給え」

「「「………」」」

……全身が金ピカでなければ。