軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第86話 勝者と敗者は紙一重

それからの戦いは魔法抜き、ゴルディアによるオーラ抜きの、純粋な近接戦闘での勝負となった。

魔法は使えないものの、リオンとラミには序盤で施した 稲妻超電導(ライトニングヴァスト) の効力が、そして魔剣カラドボルグには灯した稲妻がまだ残っており、能力の底上げという観点においては、リオン達が有利に立っている。また、ラミの 息吹(ブレス) は生命エネルギーを変換して使う事もできる為、攻撃の手段もこちらが豊富だ。

一方、元より近接格闘術を主とするグロスティーナとオッドラッドにとって、この状況は願ったり叶ったりの好条件である。相手が魔法による補助効果を従えているとはいえ、それは獣王祭でも同じようなものだった。殴り合う前に使われた魔法ごと、敵を愛し粉砕する。そのスタイルこそがゴルディアなのだと、二つの筋肉は踊り狂う。

「うおおー! 手に汗握る素晴らしい戦いです! 昨今の戦闘は魔法が飛び交い、これこそが華と言わんばかりの試合が大多数でしたが、やはり試合は殴り合いの斬り合いに限りますね、ミルキー教官!」

「私に同意を求められても困ります。と言いますか、そろそろ落ち着いてくださいね、ランルルさん? 段々と貴女の趣味趣向がダダ漏れになって来ていますよ?」

「おおっと、これは失礼致しました! 獣国ガウンの獣王祭を思わせる熱戦に、つい興奮の高まりがテンションマックス! 誰かガウンの就職先斡旋をしてくださーい!」

「ハッハッハ、良いぞー!」

「ランルルー! うちの倅の嫁に来ーい!」

最早ミルキーが忠告しても、ランルルの興奮が治まる気配はない。気高い位にいる筈の観客達も、そんなランルルの気質に当てられて、少しばかり羽目を外して来ている。

「もう…… まあ、保護者の方々には好評のようですし、大目に見ますか。この試合が終われば、直ぐに元に戻るでしょうし」

「踊れ筋肉! 迸れ青春!」

「……戻りますよね?」

一抹の不安を覚えるミルキーであったが、そんな彼女の不安を余所に、試合は今も進行していく。

「やるわねぇ、リオンちゃん! 獣王祭で見せていた迷いや甘さ、完っ璧に克服してるじゃないのぉ!」

「グロちゃんこそ、いつの間にオッちゃんとのコンビネーションを鍛えたの!? ケルにいも大喜びしているんじゃない!?」

「おうよ! 最近、俺を見るマスターの目が怖いぜ!?」

「やっべー、ギルド側って変態しかいないわー」

ケルヴィンの事はさて置き、リオンの指摘の通り、グロスティーナとオッドラッドの連携はずば抜けていた。互いが互いをフォローし、まるで本当に踊っているかのように…… というよりも、本当にダンスをしながら戦っているのだが、これが侮れない。社交ダンスの如く相方の腰に手を回し、無駄とも思える回転を続け、手を組みながらの同時攻撃を放ち、時に相方を投げ飛ばす――― このように次に何をして来るのか、行動が全く読み取れないのだ。その上、一見ふざけているようにしか思えないこの戦闘法も、なぜか異様に噛み合っていた。

もちろん、リオンとラミの連携も非常に高いレベルで纏まっている。現ルミエスト側のメンバーで、彼女ら以上に結束できる組み合わせはないくらいだ。しかし、しかしだ。そんなリオン達と比較したとしても、呼吸を合わせて二人の力を十全に発揮させるという意味では、グロスティーナ達が数段以上に上手と言わざるを得ない。純粋な実力ではリオン、ラミ、グロスティーナが拮抗し、その数段下にオッドラッドがいるという格付けだが、ゴルディアの結束はその実力差をイーブンへと押し上げていた。

「こっ!」

「のう!」

「なん!」

「のう!」

斬撃打撃の嵐が激しく交差する。互角、何度やり合っても戦況は互角だ。攻撃を受けて傷付き、そのお返しに同等のダメージを与える。もうそんなやり取りが数え切れなほどに続いている。双方とも、この戦いで勝利をもぎ取る為にはもう一手、あと一手が足りない。

「なんとー! 拮抗が崩れなーい! まさかこの勝負、第二試合と同じく引き分けになってしまうのかぁー!?」

「とはいえ、両チームともそろそろ限界は近いでしょう。互角とはいえ、ダメージがない訳ではないのです」

「なるほど、決着は近いと?」

「恐らくは。疲労と共に蓄積した痛みは、一歩一歩着実に肉体を蝕んでいきますから」

ミルキーの解説は的を射ている。前半の魔法と気のぶつけ合い、そして後半の接近戦を経て、舞台上の四人は限界間際にまで達していた。あと一発でも攻撃をまとも受けてしまえば、戦闘不能に陥っても何らおかしくない状態だ。

……そして、勝負の決め手となる最後の一手が、ここに来て漸く訪れる。

(あ、あれっ……?)

(う、っそ、このタイミング、で……?)

それは微かな、ほんの微かな眠気だった。本来、高揚するこの戦場で起こる筈のない、とんでもなく場違いな睡眠欲。それらがこの肝心な場面で、リオンとラミを襲い始める。

意識が一瞬微睡みに囚われながらも、リオン達は攻撃の手を緩めなかった。普通であれば、この程度のラグは隙になり得ない。が、今回の戦いは互角の者同士が行う死闘、些細な過ちは取り返しのつかない失敗となり、自らに返って来る。

「あくまで保険のつもりだったのだけれどぉ、まさかここまでの熱戦になるとはねん」

「熱戦、良い言葉じゃねぇか! 俺は好きだぜぇ!」

「「―――ッ!」」

二人の攻撃が同時に弾かれ、大きな隙を晒してしまう。当然、この絶好のチャンスをグロスティーナ達が見逃す筈はなく、渾身の一撃をもって試合の幕切れとした。

「「オォラァッ!」」

一寸の狂いもなく放たれるは、猛烈な後ろ蹴り。リオンとラミの腹部に衝突した猛撃は、彼女らを舞台周りの結界にまで、容易に吹き飛ばした。

「き、決まったぁーーー! テンポが早過ぎて残像しか見えませんでしたが、これ以上ないほどにクリティカルな当たりに感じられました! ミルキー教官、これは……!?」

「ええ、ここに試合終了を宣言します」

その瞬間、会場に歓声が湧き上がった。最初こそ観客は皆、リオン達を応援していた訳だが、これだけの素晴らしい試合に魅せられた後となれば、誰が勝利したかなんて、今はもう関係ない。ただ燃え上がる心に従い、勝者と敗者、その双方に声援と拍手を送る事で頭が一杯なのだ。それだけ観戦する側も満たされる戦いだった。

「……あんだけ崩れた姿勢から、やられる間際にカウンターを狙って来やがった。後一歩でも深く踏み込んでいたら、逆に俺がやられていたかもしれねぇ」

「私が攻撃した親友ちゃんもよぉ。もう、最後の最後に尻尾の変身を解除して、尾を叩き付けて来るなんて…… ホンット、ファンタスティック!」

そう言うオッドラッドの左胸には、浅く剣で斬られた切り傷があり、一方のグロスティーナの頬も猛烈に叩き付けられたのか、大きく腫れ上がっていた。

「親友ちゃんが本当の姿で戦ってくれていたら、また違った結果になったかもね~。慣れない姿でチーム戦って、難易度高過ぎよぉ?」

「まあまあ、良いじゃねぇか! それよりもマスターの妹よ、姉弟子の毒が効かねぇとは、凄まじい能力じゃねぇかぁ! だが、薬はちゃんと効いたようだなぁ! 安心したぞぉ!」

試合の序盤、オッドラッドのみが舞台に取り残されたあの場面。観客達までもがオッドラッドから目を離す最中に、彼はこっそりと 憤怒を食らう懇篤魔人(ヴァージャイフリート) でとある薬品を空気中に放っていた。先ほどリオン達を襲った微睡みの正体は、正にそれだったのだ。

「とはいえ、使ったのはただの 風邪薬(・・・) だけどなぁ! 危険な薬物はマスター・ケルヴィンが使わせてくれんかった!」

「風邪薬って、服用したら眠くなるものねぇ。まっ、刺激のない薬だったからこそ、最後の最後まで気付かなかったのかしらん? ケルヴィンちゃんに感謝しなく――― あらん?」

くねくねと体を捻らせようしたグロスティーナであったが、不意に片膝を舞台へ付けてしまう。口調はいつも通りだが、肉体は正真正銘、限界であったようだ。

「……紙一重。そう、どちらに転んでもおかしくない、紙一重の勝負だったわん。でーもー、ちょっとだけ運が私達に味方して、ちょっとだけ下準備も勝っていたみたい。更なる成長を楽しみにしているわよぉ、小さな勇者さん♪」