軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第85話 劇薬

二つの月が交わる直前、グロスティーナは自らの肉体を強く抱きしめ、『ゴルディア』による気を全開に解き放っていた。紫のオーラは彼の全身を包み込み、美しくも逞しい、剛健なる乙女(?)の抱擁を体現する。

「「輝けッ!」」

―――カッ!

グロスティーナを飲み込みながら融合する双月が、一つの大きな雷星へと変貌。燦々(さんさん)と輝く太陽のお株を奪うかのように、空にて太陽光の代わりとなる眩い電撃を放出する。二つのS級魔法が元となった 電磁双星(マグネティックノヴァ) は、当然その威力も強力無比。雷竜王の加護の効果までもが加わって、更に凶悪な攻撃となっている。如何に屈強なるゴルディアの使い手でも、これでは跡形も残らないのではないか? と、自然とそんな考えが過ってしまう。神の雷に観客達は恐れ 戦(おのの) き、中には自身の安全を祈る者まで出る始末であった。

「やべぇ、今日一番の派手花火じゃねぇか! 姉弟子、死んだかっ!?」

舞台上の唯一の味方であるオッドラッドも、空を飛ぶ手段がない為、応援に駆け付ける事ができない。絶体絶命、万事休す。味方を含め、誰もがそんな思いを抱いていた。そんな中、不意に 電磁双星(マグネティックノヴァ) が弱まり始める。

「リーちゃん、そろそろMP的にキツいし……! MP切れも、お肌に悪いし……!」

「だ、ね……! 少し早めに切り上げようか……! 消耗が激しいの、改善しないと……!」

どうやら、リオンとラミの魔力に限界が訪れたようだ。星々の爆発を思わせていた雷撃の放射と轟音が次第に弱まり、遂には消滅。次いで、消え去った 電磁双星(マグネティックノヴァ) の中より、黒焦げの何かが落下した。当然ながらそれは、グロスティーナである。

「お、おおっとー!? リオンさんとラミさんの極大魔法が炸裂し、対戦相手のグロスティーナさんを丸焦げにしたぁー!? 流石に戦闘続行は不可能か、というか生きているんでしょうかぁー!?」

「至急、医療班の手配を。ええ、治療は現場で」

あまりに凄まじい光景であった為、暫し実況の口が止まっていたランルルであったが、グロスティーナの身の危険を感じてなのか、マシンガントークで実況を再開させた。解説役のミルキーも、通信機で治療の手配を進めている。戦闘不能者が出た事により、第三試合はルミエストの勝利で終了。そんな宣言が下される間際になって、ある男が遂に動き出した。

「ふんぬぅーーー! まだだぁーーー!」

緑のオーラを纏った筋肉、オッドラッドである。オッドラッドは叫びながら大きく跳躍した後、落下の最中にいたグロスティーナを見事にキャッチ。お姫様抱っこになってしまった点が絵面的に悲惨だったが、その後の着地までをスムーズにやり遂げていた。

「オッドラッドさん、相方のグロスティーナさんの救助に向かったー! これは熱い展開です!」

「暑苦しいの間違いでは?」

「そうとも言いますが、実際にこれは舞台への衝突からグロスティーナさんを助ける、素晴らしい行為と言えるでしょう! 残念ながら試合で活躍する機会のなかったオッドラッドさんですが、最後の最後に仲間気遣う、良きチームプレイを見せてくれました! 心から拍手を送りたいです」

ランルルの目には、オッドラッドがグロスティーナを助けたように見えていた。実際、その認識は合っている。合っているが、試合が終わっているかどうかは、また別問題である。

「だから、まだだと言っていると言うに! なあ、姉弟子!」

「……ぶっはぁーーー!? げふっ、ごほっんんんっ! ンンンッ!」

なんとオッドラッドの腕の中で、黒焦げ状態のグロスティーナが息を吹き返したのだ。体内から大量の黒煙を吐き出し、涙目になりながらも意識を覚醒させている。

「ハァッ!? 死なないようにちょっち手加減はしたけどさ、私らの 電磁双星(マグネティックノヴァ) の直撃を受けて、何で起き上がるしっ!? アレ、本当に人間!?」

「おかしいな。落下している間は、確かに瀕死状態だったと思うけど……」

上空より舞台へと落雷したリオンとラミが、グロスティーナの復活に驚く。この頃には黒焦げになっていた筈の肌までもが完治しており、元の筋肉美を曝け出す余裕まで見せていた。

「ななな、なんとグロスティーナさんが復活ぅーーー!? これは一体どういう事だぁー!?」

ランルルの叫びと同じように、会場の観客達も同じ疑問を抱いていた。そしてその疑問は、思いの外早くに明かされる事となる。

「ふーっ、マジで危なかったわん、これ。川の向こうでゴルディアーナお姉様が手を振っていた気がしたもの。寸前のところで防御形態に移行できた私の肉体に、そして手加減してくれたリオンちゃん達に感謝しなくちゃ」

「ハッハー! 姉弟子、こっ酷くやられたな! 前以って仕込んでいた回復系の薬、今のでなくなっちまったぞ!」

「回復系の、薬……?」

オッドラッドの台詞に違和感を覚えるリオン。自由落下中のグロスティーナをオッドラッドが助ける場面はもちろん、地上に着地してからも、リオンは二人を注視し続けていた。しかし、オッドラッドが回復薬の類を使うようなシーンは、そのいずれにもなかったのだ。

「……もしかして、それがオッちゃんの力?」

「おお、その通りだぁ! よく分かったなぁ、マスターの妹ぉ! 俺の固有スキルは『 薬壺(やっこ) 』! 肉体に薬の効力を宿し、適切なタイミングで放出する事ができるんだぁ! 今俺が宿している薬はマスターから貰った秘蔵の品、そして 憤怒を食らう懇篤魔人(ヴァージャイフリート) を使えば、更に効力が増していくぅ! まあ、回復系は姉弟子の復活で使い切ったけどなぁ!」

何もそこまで聞くつもりはなかったリオンであるが、勝手にオッドラッドがネタばらしをしてくれたので、何から何まで理解する事ができたようだ。

「な、なるほどね。グロちゃんが毒を撒いているのに、オッちゃんが平気そうにしているのは何でだろうって思っていたけど、その力で解毒していたんだ」

「その通ーーーり!」

「ちょっとー! オッドラッドちゃんったら何でもかんでも答えちゃって、いくら何でも紳士過ぎぃ! それに、こうして長話をしている間にも―――」

話の途中であるが、リオンの手に、そしてラミの口元に、急速に魔力が集まっていく。

「―――また魔法を使われちゃうわよん?」

「 轟雷落土(フューリーボルト) !」

「 不和招く吐息(フォールアウト) !」

残り少ない魔力を掻き集め、リオンとラミは勝負を決めにかかった。剣先の一点に雷のエネルギーを圧縮し、その剣を振るう事で稲妻が走り出すリオンの 轟雷落土(フューリーボルト) 。体内にて帯電させていた電気を、息が続く限り 息吹(ブレス) として全て吐き出すラミの 不和招く吐息(フォールアウト) 。リオン達の攻撃はここでも混ざり合い、一本の光線となって敵に向かって行った。

「 番熊手掌打(くまさんふうふのて) !」

「 番熊手掌打(ばんゆうしゅしょうだ) !」

閃光の如き魔法と 息吹(ブレス) に対し、グロスティーナ達の反応は迅速だった。予め攻撃が来る事を予想していたんだろう。息を合わせ、波長を合わせ、対になる形でオーラを掻き集めた掌打を放ったのだ。巨大化した紫と緑の掌打が稲妻の光線と真っ向から衝突、その瞬間に舞台全体に亀裂が走り、結界内が光で満たされる。

「もうこの試合何回目か分かりませんけど、また眩しいっ! 目が、目が痛いレベルですっ!」

「クッ……! で、ですが、その光も消えるようですよ……!」

「な、なんとっ!」

ミルキーが指摘した通り、舞台上の眩い光は徐々に弱まり始めていた。それから数秒もしないうちに、光は完全に消失。舞台の様子がまるっと見えるようになる。

「……やべぇ、本気でやべぇ威力だったぜ。思わず気を全部使っちまった。俺はもう、素っ裸だ」

「私もよん。で・も! それはリオンちゃん達も同じみたい」

「うげぇ、ぎっづぅ……!」

「………」

双方、無傷のまま健在。舞台自体はその全てが修復中という酷い状況だが、先ほどの攻防は完全に互角で終わったようだ。但し、双方とも消耗は激しいようで、グロスティーナ達のオーラは完全に消失し、リオン達に至っては欠片の魔力も残っていない様子だ。

「私達はゴルディアの気を使い切った。リオンちゃん達は魔力の底が尽きた。じゃあ、ここからは純粋な斬り合いの殴り合いねん。私達の団結力、見せつけちゃうんだからっ!」