作品タイトル不明
第59話 空の神柱
「中身が空って…… どういう事、ベルちゃん?」
ベルの言葉を受けて、首を傾げるリオン。ラミも意味を理解していないのか、頭上に巨大な疑問符を浮かべながらポカンとしている。
「そのままの意味よ。さっきまでグラハム達にも説明していたけど、神柱の中に封印されている筈の半神がいなくなっているの。その証拠に…… ほら、私が触っても何も起きない」
ベルはそう言って、げしげしと柱を軽く蹴ってみせた。確かに悪魔であるベルが触れても、神柱は何の変化も見せない。
「本当だ。パーズやガウンの時はセラねえやジェラじいが触ったら、直ぐに強い光を出していたのに…… でも、中身がないってどうして分かったの?」
「神柱って、どいつもこいつも似たような気配だもの。トリスタンが使役していた神柱連中の気配を知っていれば、まあ私なら造作もないわよ。で、ケルヴィンから受けた依頼の一つに神柱の件も入ったから、念の為にこの神柱も日中のうちに確認してみたって訳。そしたら、既にこんな状態だったのよ」
ベル、更にげしげし。リオン、一応ルミエストの記念碑でもあるので、そんなベルを止めに入る。
「な、なるほど。ルミエストの神柱、ケルにいの念願の一つだったもんね」
ケルヴィンはリオン達がルミエストへ入学する条件――― というよりも、個人的なお願いを幾つか提示していた。その一つがこの神柱である。
神柱は前々神エレアリスが世界各地に創造した、対魔王用の半神だ。しかし、黒きメルフィーナの暗躍によって邪気を流し込まれ、現在はその行動倫理に問題が発生している。セラ達が少し触れただけで暴走を起こしたのも、全てその為だ。よって神柱を管轄するデラミスは、神柱の隔離及び破壊を目指していた。
「全部で十柱あるうち、既に破壊が済んでいるのは東大陸パーズにあった神狼ガロンゾルブ、ガウンの神獣ディアマンテ、トライセンの神蟲レンゲランゲ、西大陸の神竜ザッハーカ、神機デウスエクスマキナ、神蛇アンラの六柱。残るデラミスの神霊デァトート、トラージの神鯨ゼヴァルはダンジョンの奥深くにあるのもあって、ケルヴィンが頃合いを見計らって挑戦する事になってるらしいわね。氷国レイガンドにあるらしい神鳥ワイルドグロウは依然として神柱の在処を調査中。で、ここルミエストに創造された十柱目の神柱は―――」
「―――神皇国デラミスよりそのような連絡はあったようですが、かつての神々より授かった歴史ある記念碑という事で、学園内外の多くの有力者が反対声明を出したそうです」
ベルの説明を引き継ぐ形で、今度は生徒会長のメリッサが話し始めた。
「私達生徒の一般認識は、縁結びやらの有り難い噂があるただのモニュメント。ベルさんが仰るような危険が潜んでいるとは、全く考えていませんでした。恐らくそれは、デラミスの要請に反対した有力者達も同じでしょう。あとは、そうですね…… 学園都市は数多の国に根を張る、絶対不可侵の象徴。東大陸で言うところの、静謐街パーズによく似た性質を持つ聖域です。如何に大国の申し出があったからとはいえ、容易にそれを了承したくないという思いがあったのかもしれません」
「だからこそ私は首席卒業を目指していたんだけどね。その時に得られる学園改革案の提出って、道理に適っていれば大抵の事は実行されるのでしょう?」
「ええ、まあ。同じ首席卒業を目指す私としては、少し得も言えぬ気持ちになってしまいますが」
ベルが言う通り、代々ルミエストの首席卒業生は学園に対し、この予算はこうあるべきだ、こういった施設が今後必要になるだろう、などといった改革案を提示する権利が得られる事になっている。この権利は学園側の首席卒業生に対する信頼の表れであり、ルミエストをより良くしていく為の恒例行事なのだ。
無論、かつて首席卒業したコレットやシュトラもこの権利を行使しており、その際はリンネ教の礼拝堂を学園敷地内に建設、手作りヌイグルミ教室を授業として開く案を提示していた。 ……かなり私欲の入り混じった改革案のように思えるが、言わばこれは首席卒業生へのご褒美のようなものなので、これら案は割とすんなり通っていたりする。反社会的な願いでもない限りは、案外気軽く採用されてしまうようだ。
ベルの狙いは正にそこで、外からの圧力で屈しないのなら、首席という立場を利用し、内から説得を行うというものだった。大国に屈するのではなく、名誉あるルミエストの首席卒業生の発案を採用するのであれば、頭の固い有力者達もこれに乗っかってしまうだろうという狙いである。
「ま、その策も見事におじゃんになったから、もう首席を目指す必要もなくなったのよね。撤去しようとしていたこの神柱、肝心の中身が行方不明だもの。ガワの柱だけケルヴィンに持って行ったって、あいつのアホ 面(づら) を拝めるくらいの役得しかない。あ、セラ姉様が悲しむから、それも駄目か……」
「ねーねー、第一に気に掛けるのはそこじゃなくない? その神柱の中身、ないってんならどっかに潜んでいるんでしょ? この学園内か、それとももう郊外に出ちゃったか。どっちにしたって、今の神柱ってキマってるから危ないよね~。あ、そいつを外に出した元凶も探さないとか」
それまでまるで興味がない様子だったラミが、髪の毛を弄りながら尤もな言葉を口にした。期待をしていなかった分、ラミがそんな真面目な話をするとは思っていなかったのか、ベルが一瞬目を見開く。
「……貴女、ひょっとして存外に頭が回るんじゃないの?」
「回りませ~ん。私はリーちゃんと花の学園生活を楽しみたいだけ~。その邪魔になるものはバリバリ排除しないとっしょ?」
「へえ、分かりやすい思考回路ね。ま、馬鹿な奴よりかは好きよ、そういうの」
行方不明となった神柱、そしてその神柱を外に出した犯人の捜索を行う。学園の安全を確保する為にも、この場に居る全員の行動方針が固まった。
「ベルちゃん、ちなみになんだけど、生徒会長さんとグラハム君にも協力を?」
「ええ、メリッサは生徒会の中枢で、ある程度学園に顔が利くからね。学院長のアートとか、比較的マシな思考を持っている教員連中に協力を要請してもらうわ。ま、それでも全生徒の避難とか、そこまで大事にはできないでしょうけど」
「でしょうね。先ほども言いましたが、学園側は神柱の存在について懐疑的です。警戒は強めようとも、表立って学園の名に泥を塗るような行為はしないでしょう。私としては精一杯の協力は惜しみませんが、あまり期待はしないでください」
「了解、元からそこまで期待していないから大丈夫よ、親友」
「………」
「ベル殿、もう少々柔らかく言ってくだされ。そのうち謀反を起こされるでござるよ?」
「あ、一応フォローしておくけど、ベルちゃんにとって軽口を叩けるのって、仲の良い証拠みたいなものだから!」
「へ~」
「ほう!」
「べ、ベルさん、まさか貴女、そこまで私の事を……!」
リオンのフォローにより、視線がベルに集まり出す。
「……グラハムはそこそこ戦闘力が高いみたいだし、何よりもエレア――― コホン、エレンの孤児院出身という経歴が怪しかったのよ。貴方、この学園に通いたかっただけじゃなくて、エレンやセルジュから神柱について何か指示を受けているでしょ? ほら、隠している事をさっさと言いなさい。早く」
(あ、スルーした)
(流したでござるなぁ)
(ベルっち、弄り甲斐があるな~)
(ベルさん、やはり私の事を……!)
約一名、視線が熱いものになっていたり、いなかったり。