作品タイトル不明
第58話 目的の一つ
この日のルミエストは日が沈んでからも賑やかなものだった。郊外の祭りは未だに終わる兆しを一切見せず、学園の寮内でも新入生を祝う会がそこかしこで実施されていたからだ。リオンが所属するボルカーン寮もそれは同様で、つい先ほどまで寮の先輩達が歓迎会を開いてくれていた。ボルカーン寮は亜人の多い寮だけあって、学年や種族を気にする者は殆どいない。なので在校生と新入生の親交はすぐに深まり、やんややんやと深夜に差し掛かる時刻まで盛り上がってしまったという訳である。
「あ、あんなに沢山の方々とご挨拶するなんて…… 人に酔いました…… でも、こんな私でも仲良くなれて良かったです……」
漸く自室に帰還する事ができたドロシーが、ベッドへと勢いよく倒れ込む。但し、彼女は笑顔だった。人見知りかつ自分に自信が持てない彼女も、ボルカーンの歓迎会には満足した様子だ。
「面倒見の良さそうな先輩達だったよね。あと、シーちゃんがあたふたしてて面白かった!」
「み、みなまで言わないでください、リオンさん……」
「あはは、了解。それじゃ、よっと」
会話の最中に部屋の窓を開けて、その窓枠に足をかけるリオン。
「ちょっと出掛けて来るから、後はよろしくね!」
「ちょちょちょちょ! リ、リオンさん!?」
開けた窓から外に出ようとするリオンを見て、ドロシーは急いで待ったをかけた。溜まった疲労を投げ捨て、ベッドから転がり落ちながらも、必死に手を伸ばして止めようとする。
「大丈夫だよ。ほら、ベッドには僕の形になったアレックスが潜り込んでるし、布団をめくらない限りはバレないよ」
親指を立て、万事オーケーだと胸を張るリオン。確かにベッドの中には、能力でリオンの姿を模したアレックスが入っていた。影である為全身が黒色ではあるが、部屋の灯りを消しておけば、傍目にはリオンが寝ているようにしか見えないだろう。
「クゥーン(僕です)」
「ええっ、アレックス!? い、一体どんな魔法で……? って、違います! ここっ、ここ、二階ですよ!」
「それも大丈夫。このくらいの高さなら、階段を下りるのとそんなに変わらないから」
「あ、確かにリオンさんの身体能力なら納得…… って、そういう問題でもなかった! ええと、深夜は寮長さんに届け出を出さないと、外に出れませんよ? 無断で寮を抜け出すのは校則違反になっちゃいます。だから、そんな不良めいた事は止めて―――」
「―――え? 届け出の許可は貰ってるよ? ほら、アーチェ先生からサインも貰ってる」
そう言ってリオンは、ドロシーに届出を差し出す。確かにリオンの手には正式な届け出があり、寮長アーチェのサインが記されてあった。
「届け出、普通にあるんじゃないですか…… あの、何でそんな紛らわしい外出の仕方を、アレックスを代役にしてまで?」
「うん? 夜に外出する時って、こっそりバレずに出て行くのが作法じゃないの?」
「え?」
そんな作法あったっけ? と、ドロシーは大真面目に考えてしまった。しかし、一方のリオンも大真面目なのである。それは一体どこの漫画から仕入れた知識なんだろうか。
「リーちゃん、準備おけー?」
「あ、雷ちゃん」
「こそー!?」
そんな事をしていると、不意に窓の外よりラミが顔を出した。繰り返すがこの部屋は二階、窓より誰かが顔を覗かせるとは思っておらず、ドロシーは心の底よりビックリしてしまう。そして驚き声が、昼のそれをまだ引き摺っているらしい。
「僕も今出ようとしていたところ。シーちゃん、それじゃ行って来るね~。たぶん、直ぐに戻って来ると思うから」
「うっすシーちゃん、アンド、リーちゃん借りてきま~」
「い、いってらっしゃいませ……」
驚く心臓を未だに落ち着かせる事のできないドロシーは、精一杯の苦笑いを浮かべながら二人を見送る。リオンとラミは当然のように窓から飛び降り、これまた当然のように地面へと着地。数秒後には彼方へと消えて行った。
「こ、これがルミエスト……! 凄い 学園(ところ) に来てしまいました……!」
ある意味で感嘆するドロシーであるが、二人を基準に一括りにされてしまうのは、学園都市も不服かもしれない。
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日中は賑やかな校舎の中庭であるが、深夜に差し掛かるとすっかりと静かになり、人気もなくなる。一方で中庭の中央にそびえる柱型のモニュメントは、昼間とは違った神秘的な雰囲気を晒し出していた。その傍らには三人分の人影があり、誰かを待っているのか時間を気にしているようだった。
「……漸く来たみたいね」
「お待たせー!」
「たせ~」
そこへやって来たリオンとラミ、若干駆け足かつ手を振りながらの登場だ。
「遅いわよ、5分遅刻」
「ご、ごめん。歓迎会が思ったよりも長引いて、それ以上に楽しくてつい……」
「大丈夫大丈夫、5分なんて遅刻のうちに入んないっしょ。むしろ早いくらいじゃね? よし、早く来れたから褒めて褒めて!」
素直に反省するリオン、これは遅刻ではないと言い張るラミ。真逆を行く二人の反応に、ベルは早くも頭を悩ませる。
「リオンはともかく、アンタは普段から時間にルーズそうね」
「おお、本当に褒めてくれるん?」
「褒めてないわよ……」
「まあまあ、良いではないか。ベル殿、今こそ王の懐の深さを示す時でござる」
「ハァ、まったく貴方達は調子が良いのだから」
「ところでベルちゃん、さっきから気になっていたんだけど、そちらの方は?」
リオンの視線の先には、とある女子生徒の姿があった。深夜だというのに輝かしい金髪を持つ彼女は、そこに立っているだけでも凛としていて存在感が際立っていた。これだけ存在の目立つ生徒であれば、一度目にすれば忘れる事はない。言葉には言い表し辛いが、そう思わせるほどに彼女の雰囲気は王族然としたものだったのだ。
「コホン。はじめまして、ルミエスト生徒会長のメリッサ・クロウロードです。遅ればせながら、貴女達の入学をお祝い申し上げます」
「せ、生徒会長さん!? こ、こちらこそよろしくお願いします!」
「へえ、結構大物じゃん。よろー」
「……今年の新入生は十人十色、どころではなさそうですね」
「フッ」
ベルに続いて頭を悩ませるような仕草を取るメリッサ。彼女の後方では、そのベルが鼻で笑っていた。
「ええと、生徒会長さん? は、ベルちゃんやグラハム君とお知り合いだったんですか?」
「いえ、そういう訳では―――」
「―――ええ、その通りよ。知り合ったのは今日の今日だけど、メリッサから是非とも お友達(・・・) になりたいと言ってきてね。今では貴女達みたいな関係になったの」
「わ、そうなんですか?」
「いきなり親友とか、生徒会長も手が早いね~。人は見た目によらないわ~」
「そ、そうなのよ……」
引きつった笑顔を浮かべるメリッサ。ベルとマブダチな彼女に、不服なんてものは一切ないのだろう。
「自己紹介はこの辺で良いでござろう。ベル殿、そろそろ本題に入ってはどうか?」
「あ、そうだった。ベルちゃん、こんな時間に呼ぶなんて、一体どうしたの?」
「これから話す内容を無関係の奴らに聞かれたくなかったのよ。リオン、これが何だか分かる?」
そう言ってベルが指し示したのは、この中庭のシンボル――― かつてリオンがケルヴィンと挨拶をしに来た時にも確認した、ルミエストの神柱だった。
「何って…… 神柱、だよね? その、ベルちゃんが近づき過ぎると危ないと思うけど……」
「フン、悪魔が触れると中身の亜神が出て来る、だったかしら? その心配は無用よ。だってこの柱、もう中身が空なんだもの」