軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第47話 国が違えば馬車も違う

ルミエスト入学式当日、この日は学園都市中が騒がしくなる特別な日だ。街の東西南北に設置された各門がいつにも増して混雑し、以前ケルヴィン達が視察に訪れた時より、警備も厚くなっていた。それもその筈、ルミエストの入学式があるという事は、各国重鎮の跡取りや親族が新たに集まる事を意味している。これはS級冒険者の昇格式に匹敵する出来事であり、民衆にとって未来の王や偉人を直接目にする事ができる、一大イベントでもあったのだ。好奇心旺盛な野次馬や良からぬ事を考える者、その他大勢の部外者達が学園都市の門を叩こうと、こうして押し寄せている訳である。

しかしながら、当然その分検問は厳しくなるものだ。この期間中、学園都市の関係者以外の者は身分が証明でき、確固たる目的がなければその場で門前払いさせられてしまうのが常識である。それでもこの日、民衆がルミエストを目指すのはなぜか?

「へ~、都市の外で屋台とかの出店を出しているんだ」

宿を出発した馬車の中にて、リオンが興味津々な様子でそう言った。馬車を操るルドが、更にその補足を行う。

「へい、そうなんですよ。流石にこの期間は検問が厳しく、なかなか街に入る事はできませんからね。当時はそのまま帰らせていたようなんですが、ほら、お偉いさんって目立ちたがり屋が多いでしょ? 折角自分達見たさに集まった民衆を無碍にはできないとかで、いつからか街の防壁の外の何ヵ所かでキャンプ地を開くようになったんです。それから各国の出店が集まるようになって、今ではそこでお祭り騒ぎですよ。お偉いさん見たさで集まった筈が、今ではただ祭り参加したいって奴らが大半ですかね」

「お祭り、とっても楽しそうです。ママがいたら、全てのキャンプ場の出店を巡ると思います!」

「はははっ、一日で回れる数じゃありませんって。何せ学園都市の周りをぐるっと囲うほどなんですよ?」

「あはは、あながち無理ではないかも……」

「へ?」

「う、ううん、こっちの話。でもそれじゃあ、本来の目的だった新入生の見学は、殆どできないって事だよね? 運良く検問のところで目にできれば良いけれど、僕達みたいに殆どの新入生は当日前からルミエストに入っているし、それも無理じゃない?」

「それがですね、今はそうでもないんですよ。ガウンのコロシアムで使用されている、映像を流すマジックアイテムがあるでしょ? 最近じゃアレをガウンが有料で貸し出して、キャンプ地の中心に置いているんですよ。お蔭で外からも入学式の様子を見られるようになって、年々祭りの規模も大きくなっているとか」

「わあ、益々楽しそうです!」

「映像か~。有料ってところが獣王様らしいというか、ちゃっかりしてるよね」

「レオンハルト様ですからねぇ。あの商才をあっしも見習いたいもんでさぁ」

そうこうしているうちに、リオンらの馬車はルミエスト学区内に到着する。まだ時間には余裕があるのだが、既に馬繋場にはちらほらと他の馬車が停まっていた。馬車やそれを引く馬だけでも、実に種類が様々である。

「わあ、これぞ多種多様な文化、ですね。馬車の違いを見るだけでも面白いです」

「うんうん、スケッチしてみたいくらい」

「フフッ、入学前から素晴らしい向学心ですな。では、あっしはこれにて。御二人とも、学園での生活を謳歌してくだせぇ」

「うん! ルドさん、どうもありがとう!」

「ありがとうございました。ツバキ様によろしくお伝えください」

ルドに与えられた任務はこれにて終了。この後は防壁外のキャンプに移り、別の仕事に取り掛かる事になっているらしい。リオン達はルドを見送り、入学式の会場へ向かおうとする。

「おっと、そこの華憐なお嬢さん達。もしかしたら迷子かな? ハハッ、仕方ないなぁ。このバッカニア王国の第三王子、シャルル・バッカニアが君達を案内しちゃうよ? そう、恋路という名の迷宮をね♪」

「……?」

「……!」

突然、リオン達の目の前に褐色肌の少年が現れた! リオンは少年の言葉の意味を分からないでいる! クロメルは見知らぬ人間の登場に人見知りを発動している!

「えっと―――」

「―――おっと、早速自己紹介をしようとしてくれているんだね。嬉しいじゃないか~。でも、ちょっと待って。ここは僕に当てさせてくれ。そうだなぁ、先ほどから君達も注目しているみたいだし、馬車という要素から推測しようか。君達が乗って来た、あの斬新なフォルムかつ機能性に優れた馬車は、この場に集まったどれよりも高性能…… つまり、余程の大国のものと見た! そしてそして、運命的な事に君達は僕と同じ黒髪だ。この髪色を持つ人は珍しいからね、博学な僕はそれだけで出身地を当ててしまうんだよね。これまでの情報を統合して、ヒットするのは――― ズバリ、君達は水国トラージからやって来た王族、フジワラ家の親族だ!」

「違うよー」

「……フッ、惜しいな。運命とは難儀なものだよ。そう簡単には祝福してくれないって事か」

「あぅ……(ぷるぷる)」

クロメルがリオンの背後に隠れる。どうやらシャルルの意味不明な言動に、怖がり始めているようだ。

「言われてみれば確かに、こちらの彼女は肌が白い。僕とした事がちょっち迂闊な答えを出しちゃったかな。シャルル、猛省猛省~」

しかし、シャルルは空気を読まない。ずずいと隠れるクロメルの顔を見て、一人で納得している。

「ごめん。クロメルが怖がってるから、少し離れてもらっても良いかな?」

「オーケー、言わんとしている事は理解しているよ。恐怖を覚えるほどに、僕に見惚れてしまった。つまり、そういう事だね?」

「んー、それは違うかなー」

驚くほどに言葉が通じない。クロメルだけでなく、誰とでも仲良くなれるリオンにとっても、シャルルは初めて出会うタイプの人間であった。シンジールと似てなくもないが、あちらよりも随分と我が強く、ポジティブが過ぎていたのだ。

「うんうん、僕の魅力に怖がらせてばかりというのは、こちらの望むところじゃないな~。そうだ! ここは一つ友好の証として、今年の警戒すべき新入生を教えてあげよう!」

「警戒?」

「すべき?」

既に眼前に注意すべき人物がいるのでは? と、クロメルは警戒している。

「そう、要注意人物さ。学園の生徒が皆、僕みたいに友好的な奴とは限らなくてね。あそこの白と青で装飾された馬車、見えるかい? ちょうど今、 気障(きざ) ったい男が降りて来たあの馬車さ。ご丁寧に馬まで白馬で揃えちゃってさ、本当に嫌らしいよ。下心がスケスケ!」

もしかして渾身のギャグを言おうとしているのでは? と、クロメルは若干混乱してきている。

「彼は氷国レイガンドの王子でね、エドガー・ラウザーという。力と権力こそが全てって感じの、典型的な野心家さ。元々レイガンドは西大陸内でリゼア帝国に次ぐ国力を持った強国だったんだけど、領土内に住む竜王の監視に戦力を割かれて、思うように動く事ができなかったんだ。それが最近になって、レイガンドの竜王が住処を移したみたいでね。晴れてレイガンドは戦力を自由に動かせるようになり、他国に圧力を掛けるようになってきている。そしてそのタイミングで、あの腹黒王子エドガーのルミエスト入学だ。これは何かあると踏んでるね、僕は!」

「なるほど、シャル君は物知りなんだね。凄いや!」

「シャ、シャル君!? え、ええーっと、当然だよ! 僕はシャルル・バッカニアだからね! 何でも教えちゃうから、何でも聞きなよ!」

素直に喜んでくれた事に驚いたのか、シャルルは大変高揚している。リオンは早くもシャルルの手綱を握り始めているようだ。

「リ、リオンさん、凄いです! これが大人の女性の対応……!」

この素晴らしき対応力に、クロメルはすっかり安堵していた。

「シャル君、あの馬車はどこの国の?」

「フフフッ、馬車博士の僕に任せなよ! あの馬車はね、あ、あれはぁ……」

しかし、上り調子だったシャルルは直ぐに絶句する事となる。彼の目の前を通った馬車は酷く悪魔的なデザインであり、それを引く馬は首より上がなく、怪しげな紫色の炎を纏っていたのだ。悪魔の馬車、正にそう表現するのが相応しいものだった。