作品タイトル不明
第48話 悪魔的登場
悪魔的馬車の登場に、シャルルは思わず尻餅をついてしまった。ポジティブを極めた彼も、こういった不測の事態には驚きを隠せなかったようだ。そんなシャルルを嘲笑うかのように、頭部のない二頭の馬はブルルと鳴き続けている。
「おっと? これはこれは、リオン様にクロメル様ではありませんか。お久しぶり…… ではありませんが、奇遇ですねぇ。クフフ」
悪魔的馬車の御者台から、正装姿の何者かが降りて来た。どうやらその者は、リオン達と知り合いのようで。
「あっ、ビクトールさん!」
「 御者(ぎょしゃ) をされていたんですね。馬を操るのがお上手です!」
「クフフ、伊達に長く生きていませんからね。ですが、ご安心を。これはスキルによる力ではなく、純粋な経験と技術によるものです。誰も食べてはいませんよ」
「あはは、ビクトールさんったらおっかしいんだ~」
「うふふ、冗談もお上手さんです」
その特徴的な姿と笑い声で、二人は直ぐに彼がビクトールであると理解できた。小粋な談笑まで挟んでいる。
「へ? ……え、えっとだね、もしかして君達、そちらの彼とお知り合いなのかい?」
「うん! とっても知り合いだよ」
「お家に招いてもらった事もあります」
「え、ええー……」
「クロメル様、それは少し語弊があります。城は私の家ではなく、職場なのですから」
どちらにせよ、シャルルにとっては「ええー」な情報であった。
「ね、ねえ、アレって悪魔じゃない……?」
「今年、悪魔の国から新入生が一人来るってあの噂、本当だったんだ……」
「悪魔って言葉を喋れたのか? 強いけど知能は低いとかって、どっかで聞いたんだけど?」
「馬鹿、それは 下級悪魔(レッサーデーモン) だよ! あの人、いや、あの悪魔はどう考えたってそれ以上だ!」
「けどよ、 下級悪魔(レッサーデーモン) でさえ騎士団が派遣されるほど凶悪なんだろ? それ以上ってんなら、一体どれくらい強いんだ?」
「そ、それは……」
ビクトールの存在に気付いた周囲の生徒が、徐々に騒めき始めている。
「おっと、やはり私の姿はインパクトが強過ぎましたか。しくじりましたねぇ、クフフ」
「ビクトールさんもですが、こちらのお馬さんも凄いインパクトですよ?」
「わっ、よく見るとこの子達、紫色の炎が顔の形になってる!」
「ブルっ?」
「ほほう、そこに目を付けるとは流石ですな。彼らは 中級悪魔(デーモン) の中でも特に足の速い種族でして―――」
「―――ビクトール、世間話も良いけれど、いつまで私を待たせるつもりなのかしら? 貴方も偉くなったものね?」
「……おっと、これまた失礼致しました」
悪魔的馬車の中より、華憐ながらも少し不機嫌そうな少女の声がした。ビクトールは大急ぎで馬車の扉を開け、その場に跪く。
「どうぞ、ベル様」
「フンッ。セバスデルよりも適任だと思って任せたのだから、その期待に応えてほしいものだわ。まあ、及第点はあげるけど」
「ありがたき幸せ」
ビクトールとくれば、次に現れたのは当然ベルだ。リオンらと同様、ルミエストの制服姿となった彼女は、今や生徒達の注目の的である。というか、試験の際は隠していた悪魔の角や翼、尻尾という特徴的な部位が、本日のベルは全く隠していない。姿を誤魔化す『偽装の髪留め』を外しているのだ。これでは余計に目立つというものである。
ただ、これにはある理由があった。他の受験生達に要らぬ悪影響を与えぬように、という試験当日の配慮は最早必要でなく、ベルが悪魔の国の王族として正面からルミエストへ入学する為だ。これは学院長のアートも了承済であり、むしろありのままの姿で登校してほしいと、学園側から要請された事でもあった。
「ベルちゃん、制服がとっても可愛いね!」
「お似合いさんです」
「二人だって同じ衣服を纏ってるじゃないのよ…… ビクトール、ありがとう。ここまでで良いわ」
「よろしいのですか?」
「これ以上貴方がここにいたって、周りを混乱させるだけでしょうが。パパには上手く言っておいて。少しでも心配させたら、自力で来ようとするから。割と本気で」
「承知致しました。国を出発するのにも、かなり苦労しましたからなぁ。割と本気で。クフフフフ」
そう言って一礼し、ビクトールが御者台へと移動する。
「大変お騒がせしました。それでは皆様方、どうかベル様をよろしくお願い致します。では……!」
「「ヒヒーンッ!」」
炎頭の馬が駆け出し、ビクトールを乗せた悪魔的馬車が颯爽と去って行った。元気に手を振るリオンとクロメル、ツンとした様子のベル以外の殆どの面々は、それこそポカンとした表情で固まっていた。そんな中、逸早く自らを取り戻した者も。
「やあやあやあ! 君ってばベルじゃないか! こんなところで出会ってしまうなんて、やはり運命を感じちゃわないか~い?」
「………」
シャルル、尻餅と混乱からの復活。想像以上に早い復帰であった。しかし一方で、彼の存在に気付いたベルの気分は最悪そのものである。
「二人とも、こんな奴に出遭ってしまうなんて不幸ね。さ、会場に向かいましょう。馬鹿が移るわ」
「フフッ、馬鹿とは大きく出たね。こう見えて僕は、学力試験で結構良い線をいっていたんだ。ま、聡明なベルならお見通しだよね? 君の心の叫びが聞こえる僕は騙されないよ~。相変わらず素直じゃないんだからって、あれれれぇ!? もう会場に入ってるしぃ!? そ、そんなに恥ずかしがらなくても良いんじゃないかって、僕は思いますよー!?」
ベル達を追いかけ、自らも入学式の会場へと駆け出すシャルル。駆け出した瞬間に躓き、顔面から地面に衝突してしまう彼であるが、それでもめげずに三人を追いかけるのであった。
……そして、そんな愉快な一部始終を遠目に眺めていた新入生が、あちらにも。
「なるほど、彼女が余から首席合格の座を奪ったベル・バアルか。確かに余と同じ覇王としての気質を感じなくもないが…… いや、それよりも彼女が悪魔であるという噂は誠であったのだな」
都合よく設置されてあった柱の後ろに隠れるようにして、白髪の少年が意味深に呟いた。男の両隣りには取り巻きらしき生徒の姿もあり、片膝をつきながら待機している。
「はい。どうやったかは分かりませんが、試験日に角や翼はなかったと記憶しています。第一試験で彼女と同じ会場でしたから、それは確かです」
「ほう…… 文武だけでなく、姿を偽る未知の力を有しているという事か。なかなかに興味深い。レイガンドの未来を担うのに、その力を是非とも貢献してもらいたいものだ」
「エドガー様、入学も終えてないってのに気が早いッスよ。いくら有力な嫁さんを探してるからって、バッカニアの馬鹿王子と思考回路が同じってのはちょっと引くッス」
「フッ、余とシャルルの思考が同じだと? 不敬が過ぎるぞ、ペロナ。しかし、冗談としては面白い。余は貴様を許そう」
「あざッスー」
眼鏡を掛けきっちりと髪を分けた少年アクス、何とも軽いノリと口調の少女ペロナは、新入生でありながら白髪の少年の配下であった。彼らを率いるこの白髪の生徒の名はエドガー・ラウザー、氷国レイガンドの第一王子である。
「あ、でもエドガー様」
「何だ、ペロナ?」
「私調べによれば、エドガー様が試験の総合点数で負けたの、あのベルって子だけじゃないみたいッスよ? 隣にいた黒髪のリオンとクロメルって子達にも負けてるッス。ついでにグラハムって大男にも。私と同じ波長を感じるラミって派手で軽い子には勝ってますけど、それはラミが第一試験でずっと寝てたからッス。辛うじて総合成績5位入りッスね、エドガー様」
「………」
「こ、こら、ペロナ! 流石にそれは不敬が過ぎるぞ!」
「えー?」
焦るアクスに相変わらず軽いペロナ。エドガーはというと―――
「フ、フフッ…… フハハハハハッ! なるほどな、余の才覚をも超える正妻候補が四名もいると! 一筋縄ではいかないものよなぁ! だが、だからこそ我が国の未来は明るいぞ!」
―――シャルル同様、思った以上にポジティブだった。