作品タイトル不明
第46話 無慈悲なる別れ
対抗戦候補者達の指導を引き受けてから、数週間が経過した。毎日が 溌剌(はつらつ) な日々を送っているせいか、候補者達も多少の輝きを見せるようになってきている。期待の若手冒険者の成長に、依頼人のシン総長は大喜び。その調子で頼むよと、何とも軽い感じで指導続行を命じられてしまった。まあ、俺にとってもこれは意味のある行為、喜んでやらせてもらっている。最初は歪だったあいつらとの関係も、今はそれなりに仲の良くやれていると思う。パブの他の冒険者達とも交流を深め、全てが順調に進んでいる感じだ。
「マスター・ケルヴィン! 次は何をしましょうか!?」
……ただ、スズからの俺の呼称がレベルアップを繰り返し、今ではこんな事になっているのが唯一の問題点と言うべきだろうか。最近じゃオッドラッド辺りも面白がって、そう呼び始めたから洒落にならない。しかし、世の中にはもっと洒落にならない事があるものだ。そう、リオンとクロメルが学園都市ルミエストへ出発する日が、遂に来てしまったのである。
手配した馬車の前にて、制服姿のリオンとクロメルを仲間達と共にお見送り。入学式以降、学園では生徒のみで生活するようになるので、遺憾ながら俺が共に行く事はできない。認可が必要なペット枠として、リオンにアレックス、クロメルに戦闘特化型クロトが付いているが、兄でパパな俺はとっても心配。 御者(ぎょしゃ) のルドさんに無事に届けてくれと、何度もお願いしておいた。でもやっぱり心配だから、ルミエストに入るまでは俺も同伴した方が―――
「ケルにい、そろそろ行くよ。僕がいない間、シンちゃんの指導をよろしくね」
「シンジールの事は任せておけ。リオン以上に厳しく指導しておくから。けどリオン、お前こそ向こうじゃ気を付けるんだぞ!」
「あはは、ケルにいは心配性だな~。分かってるよ、男子生徒は皆狼なんだよね?」
「その通り! 学園内では会う奴ら全員と対人戦をする気構えでいてくれ! 兄との約束だ!」
「うむ、うむ! ジェラ爺もそう思います!」
「えっと、それをしちゃったら、僕が退学になっちゃうような……」
「初めての学校生活、とっても楽しみです。パパ、ママ、心配しないでくださいね。私はパパとママの娘なんですから!」
「クロメルぅ~~~……!」
「あなた様、嬉しいやら悲しいやらで号泣する気持ちは分かりますが、いくらなんでも限度というものがありますよ?」
「ママ、パパは泣き虫さんですか?」
「昔はそうでもなかったんですけれどね。本当に困ったものです。モグモグ」
「こんな時にも飯食ってるお前に言われたくないぃ~~~……!」
「二人とも、勉強で分からないところがあったら、いつでも連絡を寄こしてね。私、これでも先輩だから、一生懸命教えるから!」
「うん! その時はよろしくね、シュトラちゃん!」
「よろしくお願いします!」
「あ、あの、そろそろ出発の時間なんですが……」
ルドさんからの無慈悲なる通告。俺は泣く泣く抱き寄せていた二人の体を離す。
「では、あっしが責任持って送り届けますんで」
「ルドさん、道中にどんな罠が仕掛けられているか、どこの国の刺客が潜んでいるか分かりません。本当に細心の注意を払って、ルミエストに辿り着いてくださいね……!」
「うんむ、うんむ! ジェラ爺もそう思います!」
「ええっ!?」
「ケルヴィン君、ジェラールさん、無駄に不安にさせなくても大丈夫だから。ルドさん、二人の言っている事は気にしないでください。どちらもちょっと錯乱しているだけなので。むしろリオンちゃん達が乗ってるその馬車は、世界一安全まであるんで」
「は、はぁ……?」
アンジェに論され、泣く泣く馬車を離れる俺とジェラール。シクシクと離れるのである、シクシク。
「で、では出発しますよ。御二人とも、馬車の中へ」
「皆、行って来るねー!」
「お土産を楽しみにしていてください。クロメルは大きくなって帰って来ます!」
馬車がパブを出発する。リオンとクロメルは姿が見えなくなるまで、馬車の窓から俺達に向かって手を振り続け、俺達もまた見えなくなるまで、二人に手を振り続けた。
「敢えて指定はしません。お土産は美味しいもの、美味しいものなら何でも構いませんからねー!」
「メル、もう聞こえてないってば。でも、本当に行っちゃったわねー。ベルとは向こうで合流するんだっけ?」
「そのようです。ご主人様やジェラールさんもこの様子ですから、グスタフ様も号泣されているかもしれませんね」
「あー、父上はねー。多分、ビクトール辺りが被害を被っているわ」
「ケルヴィン君もいい加減立ち直りなよー。これから候補者さん達の指導があるんでしょ? 父親がいつまでも泣くもんじゃありません。半年後にはエフィルちゃんとの子供も生まれるんだしさ」
「た、確かにそうだな。半年後といえば、ルミエストとの対抗戦の時期でもある。ぐずっている暇なんてないし、父親としてどんと構えていなきゃだ」
我に返り、立ち直る俺。
「そうですね、ご主人様は大変に多忙です。寵愛を授かったこの幸福、ご主人様は他の皆様にもしなくてはいけませんし」
「わっ、エフィルちゃんったら大胆!」
「エ、エフィルはたまに凄い発言をするのよね。油断ならないわ」
「でもエフィルお姉ちゃんらしく、的を射た発言だと思うの。セラお姉ちゃん、アンジェお姉ちゃん、クロメルちゃんとは別腹でメルお姉ちゃん、大人の私は結婚してから、リオンちゃんは成人になってからにしても――― 死ぬほど頑張らないとだよ、お兄ちゃん♪」
「う、うん……」
非情なる現実を突きつけられ、再び我を忘れたい俺。持ってくれよ、俺の体……!
「おや? レディ・リオンにレディ・クロメルはもう行ってしまったのかい?」
「ハハァッ! 俺も見送りの挨拶をしたかったんだがなぁ!」
「あ、ああ、挨拶はできませんでしたが、想う事はできます。対抗戦にて立派に対峙できるよう、スズは頑張ります。リオン様もお元気で……!」
「ッチ、何で俺様がこんなところに……」
俺が現実に押し潰されそうになっている最中、シンジール達がギルド本部の方からやって来る。
「お前ら、どうしてここに?」
「どうしてって、時間になってもケルヴィンさんが来ないから、私達の方からお迎えに上がったのさ」
「その道中でリオン様とクロメル様がルミエストへ出発するという噂を伺いまして、急いで来たのですが……」
「この通り、間に合わなかったという訳だぁ! 残念無念んん!」
「俺は無理矢理連れて来られただけだ。勘違いすんなよ? お前の子供に負けっ放しだったからって、特に思うところがあった訳じゃねぇし、見送りに来た訳じゃ断じてねぇ!」
なるほど、まるっと全て理解した。全員リオンとクロメルを見送りに来てくれたのか。フッ、可愛い奴らめ。
「ありがとな、お前ら。お礼と言っちゃなんだが、リオンとクロメルが抜けた分、代わりに俺が限界までお前らを追い詰める事を約束しよう。対抗戦は半年後だ。それまでにS級ダンジョン『死神の食卓』を、全員に踏破させてやる!」
「面白れぇ! やってやろうじゃねぇか!」
「ケルヴィンさんから得た事は、レディ・リスペクトとレディ・アイスにもフィードバックしているんだ。最終的に最も成長するのは、私達のパーティだよ」
「わわわ、私だって、負けないくらい努力します……!」
「フンッ、お前らなんか鼻から眼中にねぇよ。対抗戦だってそうだ。けどまあ、一番強い奴が出るってんなら、俺が出ねぇ訳にはいかねぇな。仕方ねぇ、俺が選ばれてやるよ!」
俺の鼓舞に呼応し、候補者全員が拳を上げる。愛娘に妹よ、簡単には勝たせてやらないからな。