作品タイトル不明
第42話 スズ
スズと名乗った少女は黒髪で、セラがよく着るチャイナ服に似た衣服を身につけていた。髪色もそうだが、服装まで珍しい。出身はトラージだろうか。けど、チャイナ服はエフィルが作ったもの以外は他では見掛ける事のない、非常に珍しいものだ。それをどうして彼女が? いや、というよりも、スズという名に聞き覚えがあるような……?
「はい、彼女が最後の候補者として私が選んだ冒険者、スズちゃんです。彼女はわざわざこの日の為に、遠い東大陸から仕事を休んで来てくれたんだよ? こいつは感謝しなくちゃだね!」
「いえいえいえいえ! 元はと言えば私が総長に無理を言ってお願いした事ですし、本っ当にお気になさらず! それに、私の代わりも派遣してくれましたし……」
シン総長とスズは知り合いであるらしい。それにしても、東大陸からやって来たのか? そんなに腕の立つ冒険者なら、俺も知っていても良い筈なんだが…… うーむ、やっぱり心当たりがない。だけど、どこかで会ったような、そして名前を聞いたような感覚がある。ええと、どこでだったか。
「おいおい、シン総長! そんな細くて体の小さな娘を候補者に選んだのかぁ!? ちゃんと飯を食ってるのか、思わず心配しちまったぞぉ! もっと肉を食え、肉を!」
「えええ、ええっと……」
「オッドラッド君、あまりスズちゃんを怖がらせないでくれ。確かに体の小ささと臆病な性格が相まって、ちょっとばかり頼りなく思えるかもしれないけど、これでも超一流の冒険者なんだよ? ま、今はトラージでギルド長の仕事を任せているんだけどね」
「は? トラージのギルド長? トラージというと、東大陸の大国かい? その若さで、大国の支部で長を……?」
「そう、そのトラージ。スズちゃんは私と同じで、数少ない現役の冒険者でもあるんだ。立場上、普通の冒険者より法的な縛りが多いけど、それを補って余る実力を彼女は持っている。この私が保証しよう」
「けっ、シン総長に保証されても、その子も困っちまうだろ」
「んんー? 何か言ったかなぁ、パウルく~ん?」
「だから笑顔で迫って来んなって! マジでトラウマになんだろっ!」
三大冒険者の面々も、スズについては知らなかったようだ。まあ、東大陸在住の俺だってそうなんだ。それも当然――― って、トラージのギルド長? そうなると、ミストギルド長の後釜って事か?
「……あっ」
そうだそうだ! どっかで聞いた名だと思えば、ミストギルド長がパーズの冒険者ギルドに就任して来た時に聞いたんだった! なるほど、納得した。よし、ちょいと挨拶しておこう。
「スズギルド長、初めまして。ミストギルド長から貴女の事は伺っています。とても有望な方なんだとか」
「ととと、とんでもない! 私なんてケルヴィン様には遠く及ばず、所詮はしがないA級冒険者に過ぎませんので! 敬語も敬称も過ぎたものですですのでので、どうかスズとお呼びくださいませ……!」
「いや、でも」
「お願いします!」
「あ、はい…… いや、分かったよ、スズ」
ん、んんっ? な、何かこの反応、おかしくないか?
「おいおいおい、大国管轄のギルド長がそんなんで良いのかよっ!? つうか、ケルヴィンに対してやけに下手じゃねぇか!」
「フフッ、それに比べてオッドラッド君は、初っ端から呼び捨てで豪胆だよね。まあ、それは仕方ないよ。スズちゃんはケルヴィン君の熱心なファンなんだ」
「「「「ファ、ファン~~~!?」」」」
思わず、パウル君ら三人と一緒にハモってしまった。
「きき、君、ケルヴィンさんのファンなのかい? 私ではなく、ケルヴィンさんのファンなのかい!?」
スズに続いてシンジールまで動揺している。安心しろ、俺も動揺しているからお互い様だ。
「じじ、実はそうなんです。あの、このサインを覚えていますか?」
スズが大事そうに抱えていた色紙を俺の前へと差し出す。その色紙には明らかにサイン慣れしていない俺の名前と、最後に『スズちゃんへ』という一文が記されていた。どちらも俺の筆跡だ。
「こ、これは……!?」
「ひでぇな、俺の方が上手く書ける自信がある」
「いいや、私が一番価値のあるサインを書けるよ。賭けたって良い」
外野が途轍もなくうるさい。しかし、こいつは俺がスズにサインを書いて渡した確固たる証拠だ。この初めて書いたような感じからして、時期的には初期の初期。となると―――
「―――もしかして、俺がA級に昇格した時の?」
「そ、そうです! そうなんです! その時のスズなんです! 覚えていてくださったんですね!」
「う、うん。すまないけど、俺はその時のスズしか知らないんだけどな……」
俺がA級に昇格した時って、確かビクトールと戦って、セラを仲間にした辺りの事だ。まだリオンもいなかった頃だと思うと、すっごい懐かしい。
「あの頃、私はトラージの冒険者としてたまたまパーズに出向いていたのですが、その、ケルヴィンさんを見た瞬間にビビッときまして……! 依頼の途中だったので、あの後にトラージに帰らなければならなかったのですが、どうしてもケルヴィンさんの事が忘れられず。トラージにて依頼完了の確認を頂き、パーズへとんぼ返りしたまでは良かったのですが……」
「パーズにか? ええっと、確かあの後って、俺達はトラージに向かったような気がするんだが」
「そうなんです。タイミングが悪い事に、見事にすれ違いになってしまったのです……! 目立たないようパーズを探し回り、恥を忍んでギルドの方に窺って、そこで初めてケルヴィン様がトラージに向かった事を知ったんです…… それから私は、再びトラージへと舞い戻ったのですが……」
「あー、うん、何となく察した。またそこでもすれ違いになったと」
「はい……」
ガックリと肩を落とすスズ。そうだよなぁ、あれからスズと会った記憶がないもんなぁ。
「その後も私は諦めず、ケルヴィン様にもう一度お会いしようと各所を転々としました。ただ追いかけるだけでは何となく恥ずかしいので、ついでに依頼を受けたりしながら飛び回ったんです。ケルヴィン様がガウンに向かったと聞けばガウンへ、次にトライセン、デラミス、またパーズ――― ケルヴィン様が訪れた国、ダンジョンも全て回りました。けど、私ったら本当に運が悪いみたいで……」
「そ、そんなにか。ん? いや、ちょっと待ってくれ。俺が行った場所を、全部回ったのか? パーズの『傀儡の社』や、トラージの『竜海食洞穴』、デラミスの『英霊の地下墓地』とかも?」
「え? あ、はい。その辺りも探索させて頂きました。デラミスは許可を頂くのが大変でしたので、ギルド長としての調査、という形でしたが。後はガウンの『神獣の岩窟』も、ギルド長に就任してからですね。ただ、この時期のものはケルヴィン様がいない事は予め分かっていましたので、聖地巡礼という意味で、たまの休日を利用して行ってきました。ケルヴィン様とお仲間の方々がお肉を焼いたと謳われる場所、実際にモンスターを狩って食材にしてみたり――― 堪能させて頂きましたっ!」
せ、聖地……!? えっと、一応、どれも各国の最高峰ダンジョンなんだけど…… しかも、行動方針がなかなかにワイルド。これのどこが臆病なんだ。この子、ひょっとして見かけによらず、凄まじい逸材なのでは? いや、待て。まだ確認したい事がある。
「話を聞く限り、パーティの名が出てこないが、もしかしてスズはソロで挑んだのか?」
「と、当然ですよ! 追っかけをする為の旅にパーティを組むなんて、恥ずかしくてできませんもんっ!」
……この子、実力はS級では?