作品タイトル不明
第41話 候補者
シンジールらを救出してから二日が経過した。この間に俺達は、前回探索できないでいたダンジョン下層部の調査に徹し、殲滅しない程度にモンスターを討伐、危険そうなトラップの解除&破壊に勤しんでいた。シンジールらと一緒に探索した時にも思った事だが、やはりこのダンジョンに住まうモンスター達はかなり強い。それも下に進めば進むほどに、強さをより増した種族が出現する傾向がある。現在探索が完了しているフロアだけであれば、デラミスの『英霊の地下墓地』と同じくらいの強さだろうか。但し、こちらはまだまだゴールが見えず、延々と下層への階段が続いている状態だ。最終的には更に強力なモンスターが現れる事が予想される。宛らテーマパークの如き悦楽を味わわせてくれるのではないかと、そんな期待をしちゃう俺であった。
「―――とまあ、今のところはそんな感じだ」
「なるほどねぇ。これからの調査次第じゃ、それこそ難度S級もあり得る訳だ。フフッ、この件をケルヴィン君に任せて正解だったよ。並みのA級冒険者じゃ、ダンジョン内に入れないのも納得だ」
今日は探索の進行具合を報告しに、本部の総長室にやって来ている。探索の際に一緒だったリオンと、その影の中で眠るアレックスも同伴中だ。
「それに、どうやらケルヴィン君自身も楽しんでくれているようで」
「まあな。このレベルのダンジョンなんて、そうお目にかかれるもんじゃない。ぶっちゃけさ、もうS級難度のダンジョンとして認可しても良いと思うぞ? 現にA級トップのシンジールのパーティが、途中で白旗を上げたんだし」
「んー、それが良いかもしれないね。幹部会議に案を提出しておこう。ねっ、そのダンジョンは何と名付けようか? 良い案はないかい?」
「は? ……一冒険者の俺に、そんな事決めさせるなよ」
「おいおい、ケルヴィン君。そんなつまらない解答は求めてないぞ~。S級冒険者なら、相応のネーミングセンスを発揮してほしかったな」
相応のネーミングセンスって……
「はいはーい。新たに発見されたダンジョンって、どうやって名前を決めているの?」
リオンがバッと手を挙げる。
「おおー、よくぞ聞いてくれました。素晴らしい着眼点だ。リオンちゃんはケルヴィン君と違って、純真で眩しくて可愛いなぁ」
「文句を言いたいところだが、そこは潔く同意しよう!」
「ハハハッ、噂通りのシスコンっぷりだ。お姉さん、軽く引いちゃってるよー」
そうは言うものの、シン総長は笑顔を絶やしていない。つうか、元から知ってただろ。他のS級冒険者、延いてはシン総長を含めたとしても、S級内であれば俺は変人度の平均以下に位置している自信がある。むしろ引くのは俺の方なのだ。
「説明しよう。新たに発見されたダンジョンはね、攻略難度別に命名方法が異なっているんだ。C級以下の難度でればその場所の特徴を元にして、管轄するギルド支部のギルド長に決定権が。B級以上ともなれば、一度全ての情報をこの本部に伝達してもらって、ギルド幹部の会議を経て正式に決定するのが一般的な流れだね。今回の件は圧倒的に後者に当たるだろうから、今のうちにアイデアを聞いておきたかったのさ」
「へ~、そうなんだ。それじゃ、僕がアイデアを出しても良いのかな?」
「良いよ良いよ~。内容によっては、積極的に採用しないでもないよ~」
「やった! なら、アレックスと一緒に考えてみるね! アレックス、起きてー!」
自分の影の中に頭を入れ、中で眠るアレックスに声を掛けるリオン。うむ、我が妹は何をしてもかわゆいな。
「ところでケルヴィン君、この後にまだ時間はあるかい?」
「ん? ああ、特に急ぎの用事はないかな。面子が揃えば、例のダンジョンを少し散策してみようかと思ってたくらいだ」
「そうかい、それは都合が良い。実は前に言っていたルミエストとの対抗戦、その候補者達が決まったんだ。これから顔合わせをしようと思うのだけれど、どうだろう?」
「……もしかして、本部内に待たせていたのか?」
シン総長がニコリと屈託のない笑顔をかましてくれた。前回の奇襲といい、本当に急な人だ。
「分かった、分かったよ。会うよ。それで良いんだろ?」
「物分かりが良くて助かるよ。それじゃ、今から呼んで来るからちょっと待ってて」
そう言って、シン総長は部屋を出て行ってしまった。まあ連れて来るのは、十中八九パブ三大冒険者だろう。
「ケルにい、『死神の食卓』とかはどうかな? ケルにいが殆どを探索して、ケルにい好みのダンジョンだったっていう事で!」
「素晴らしいな。うん、素晴らしい。リオンのセンス、しかと受け取った!」
「本当? わ~い、ならこれで決定だね。後でシン総長に話してみる!」
「ああ、是非ともそうしてくれ。きっと総長も感心してくれるぞ」
「……クゥーン?(良いの?)」
良いというか、正直なところ、自分の二つ名を入れられるのは結構、いや、かなり恥ずかしい。ただ、これまでのダンジョンの名前の形式に沿ってはいるし、リオンが懸命に考えた素晴らしき名前だ。これを褒めない手はない。ないったらないんだ。
―――ガチャ!
「待たせたね。さ、君達、遠慮せずに入って入って。多少散らかってはいるけど、その辺は気にしないで。あと葉巻臭いかもだけど、その辺も気にしないで!」
戻って来るなり、シン総長が候補者達を総長室に招き入れようとする。おいおい、また早速だな。俺達も急いでソファから立ち上がる。
「彼の事はもちろん知っているよね? 何せこの国で最初に君に喧嘩を売った、勇敢なる冒険者だ。まあ、 嗾(けしか) けたのは私なんだけどね~」
「総長、あんまその話はしねぇでくれ。あと、部屋を少しくらいは片づけてくれ。うちの男共の部屋より汚いってやばいぞ」
「フフフ、気にしないでって言ったの、聞こえなかったのかな?」
「お、おい、笑顔で迫るな。圧が凄いぞ……」
最初に入って来たのはパウル君だった。彼は俺にとっての期待の冒険者だ。正に順当な選出だと言えるだろう。強い熱意と反骨心を持っているので、適度な地獄に投入してやれば、直ぐに化けてくれそうな気がする。フフッ、化けた後が今から楽しみだ。
「まったく、少しは敬いの心を持ってほしいよね。はい、次の候補の方~」
「おっと、もう私の番かい? 私としては、私こそをトリに置くのが最善だと思うのだけれどね」
「いいから、さっさと入って来てくれないかな? それとも、パウル君と一緒にしばかれたいのかな?」
「わ、分かったよ。だがレディ、笑顔はそういう風に使うものじゃ――― いえ、何でもないです。シンジール、入室します」
お次はシンジール、こちらも予想通りの選出だ。今日も絶好調なナルシストな一面はさて置き、能力としてはパウルと並んで高水準、他人を思いやる心も人一倍に強いと、個人的にも応援したい人物だ。だが、パウル君と一緒に化けてくれれば、もっと応援したくなる存在に進化するだろう。つまり、シンジールには化けてもらう。フフフッ、是非とも覚悟してほしい。
「はいはい、ぱっぱと進むよ。三人目~」
「おう、漸くか! 邪魔するぜ! 俺の名はオッドラッド! 世界一の筋肉を目指す漢だぁ!」
「あー、んー、オッドラッド君は声のボリュームをもう三段階くらい落そうか。室内だと響くからね、君の声」
「そいつはすまなかったなぁ! 以後、気を付けぇる!」
「うん、分かってないねぇ。君の意識を落とした方が、ひょっとして手っ取り早いかな?」
三人目も狙い通り、三大冒険者のオッドラッドだった。彼についての評価はまだ保留、しかし、純粋な肉弾戦では一番強そうではある。ここは期待を込めて、誠心誠意鍛えさせてもらおう。そしてお望み通り、筋肉を化けさせる。流石にゴルディアーナやブルジョワ―ナレベルは無理だろうが、良い線はいける筈だ。フハハハハッ、筋肉が膨らみ夢も膨らむ。
「じゃ、ラスト~」
……ん、ラスト? オッドラッドで最後じゃなかったのか?
「し、失礼します! この度対抗戦の候補者として参上致しました、スズと申します! よ、よろしくお願いします!」
最後に入って来たのはやたらと小柄で、二つのお団子頭がチャーミングな少女だった。