軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第35話 対抗戦

シン総長の提案はつまるところ、後進の育成を俺に任せたいって事か? だが、あまりにも話に脈絡がなさ過ぎる。俺なんかに任せなくたって、ここには良い冒険者が沢山いるだろうに。

「どうだい? どうだい!?」

「そんなに顔を寄せるな……!」

ぐいぐい顔を迫らせようとする総長の頬に手を押し当て、遠ざけようと踏ん張る俺。クソ、この人結構パワーありやがるな、おい!

「顔を近づけるよりも、まずは何でそんな話になるのかを説明してくれ! さっきの挨拶同様、その提案にも何か裏があるんだろ!?」

「あはは、やっぱりバレてた?」

「アンジェの真似をするのも禁止!」

「ちぇー、心が狭いなぁ。これはケルヴィン君の評価を改める必要があるかもねー」

不満気にそう言って、自らが腰掛けていたデスクの上へと戻るシン総長。改める必要があったとしても、何か妙に腹立たしいから駄目である。

「ま、そんな反応を返されるのも分かっていたから、順番に説明していこうか。ケルヴィン君さ、パブに到着してから誰かに喧嘩を売られなかったかい?」

喧嘩? 視線と言葉だけなら、ついさっきもこの本部でそれなりに売られたけど? まあ実際に手を出したとなれば、最初のあの件か。

「ああ、パウルとかいうA級冒険者のパーティに売られたよ。どうせアレも総長の仕込みなんだろ? 流石にアレは露骨過ぎだ」

「ご名答、私が彼らを唆した。その様子だと難なく一蹴したみたいだけど、一応聞いておこうか。パウル君達はパブが誇るA級冒険者の中でも指折りの実力者だ。その彼らの実力、実際に戦ってみてどう感じた?」

「……結構な人数のパーティを束ねる統率力、その上A級に相応しい実力が全員に備わっている点が良い。肝が据わっていて、向上心も高く伸びしろも感じられた。パウルに限らず、全員が将来に期待できると思ったけど?」

「おお、S級冒険者にそこまで褒められるとは、私も鼻が高くなっちゃうよ。でも、その評価はちょっとだけ温めの採点かな? それじゃあ、彼らは近日中にS級冒険者になれると思うかい?」

「近日中って、ここ何日数ヵ月って事か? それは無理だろ」

確かにパウル君に俺は期待しているが、それは即物的なものではなく、将来的な強さについてだ。他のA級冒険者にも同じ事が言え、そこまで酷な期待はしていないと、きっぱり断言できる。

「そう、そこなんだよ! 筆頭のパウル君を始めとして、パブの冒険者は強さのアベレージこそは高いけど、S級に届く者は一人としていないんだ! 優秀っちゃあ優秀だけど、皆秀才止まりっていうのかな? これが由々しき事態なんだよ! おまけにプライドも高いときてる!」

「プライド云々の話はもういいよ。で、それの何が問題なんだ。S級冒険者なんて、数年に一度生まれるかどうかなんだろ? 俺に続いてこの前にグロスティーナがS級になったばかりだし、むしろ最近は多いくらいだ。シン総長だってパブのS級冒険者なんだし、別に問題ないだろ?」

「……対抗戦」

「はい?」

「学園都市ルミエストと冒険者ギルド、この二つの組織による対抗戦が毎年開かれているんだけど、知ってるかい?」

いや、初耳だけど。そんなものあったっけと、アンジェに視線で問い掛けてみる。

「一応、シュトラちゃんから貰った資料の中にも載ってたかな?」

「そうだっけ? うーん、俺もそれなりに目は通した筈なんだけど……」

「ルミエストの年間行事って結構沢山あるから、ケルヴィン君が見逃したとしてもしょうがないよ。私も元ギルド職員だから知ってるってくらいだし。えっとね、今から三か月後に学園都市ルミエストで、その対抗戦が開かれるんだ。担当教官一名と新入生代表者四名に対して、ギルドも冒険者を五名出して、計五試合の模擬戦を競わせるの。対抗戦の目的は外部から歴戦の冒険者を招待して、模擬戦を通じてその年の新入生と親睦を深めてもらう、って 体(てい) になってたかな?」

「その通り。だが、実際のところは世間知らずの坊ちゃん嬢ちゃん達の鼻をへし折るのが目的だ。うちの冒険者達も大概だけど、あそこの生徒達はそれ以上に自尊心の塊だからね。世の中の広さをそんな生徒達に教え込む為に、毎年うちから適当なA級冒険者をその対抗戦に送り込んでいたって訳さ。とはいえ相手の中には王族なんかもいるから、できるだけ模範的で礼儀のなってる奴ら限定だけどね」

ルミエスト、新入生、対抗戦――― あ、話の流れが読めてきたかも。しかも結構がっつり、俺も関わっている気がする。

「へえ、そいつは良い事じゃないか。要は社会勉強の一環なんだろ? で、それが?」

「ハハハッ。もう大体の流れが分かってる癖に、そうやって知らない振りをする君も可愛らしいね。さっきの意趣返しのつもりかな? まあ順番に説明するって言ったのは私だし、このまま続けてあげよう。ぶっちゃけた話、今年のルミエストの新入生は強さがおかしな事になっていて、いつもの手が使えない。例年であればA級冒険者でも御釣りが来るほど余裕だったのが、逆に全く歯が立たない見通しになっているんだ。その原因、ケルヴィン君ならもう分かっていると思うのだけれど?」

「いやー、まあ、うん。極一部の新入生に関しては、うちのもんが関わっているような、そうでもないような……」

S級冒険者にも引けを取らない我が妹のリオン、圧倒的な戦闘力と頭脳を誇るベル、二人と比べたら見劣りはするが、それでもA級冒険者程度なら一蹴するであろう愛娘のクロメル。他の面子がどうであろうと、実力順に生徒を選出してくるのであれば、これでルミエスト側の三勝だ。A級冒険者では勝ち目は絶対にないと言い切れる。

「君が今思い浮かべた子達も脅威なんだけど、今年は他にもやばい新入生が何人かいる。それこそ、S級冒険者の力を基準として選出して良いくらいのがね」

―――ッ!

「へ、へえ、やばい新入生か。ふーん、へー。そいつは大変だな。じゃあ、それに見合う冒険者を集えば良いんじゃないか? そのS級冒険者とかさ。何なら、俺がその対抗戦に参加しても―――」

「―――そんな気のない振りをする必要はないよ。ケルヴィン君がこの件に興味を示すのは既定事項だ。そう来ると思って、もう参加枠の一つをケルヴィン君用として埋めているから安心して」

「……そこまで先読みしてんのかよ」

「まあね。だけど、ここからが問題だ。ケルヴィン君を加えたとしても、残りの頭数が足りないんだよ。総長の私自ら参加したとしても、残りは三枠もある」

「他のS級冒険者はどうなんだ? シルヴィアとかレオンハルトとか」

「生憎な事に、他の者達はそれほどこの行事に興味を示さなくてね。そうじゃなくてもガウンの獣王たるレオンハルトは気軽に国を離れる事はできないし、シルヴィアだって今は水国トラージの客将だ。わざわざ西大陸にまで招くのは現実的じゃないね。ゴルディアーナも忙しい様子だし、呼べたとしても新鋭のグロスティーナや、唯一年中暇していそうなファーニスのバッケくらいなものかな。ルミエストに所属しているアートは問題外だ。下手をしたら面子に相応しい引率の教官として、彼自身が出て来る可能性まである」

ん? それって相手次第では、アートと戦う機会が設けられるかもって事じゃないか?

「ケルヴィン君、よだれ、よだれ。はい、ハンカチどーぞ」

「っと、すまん」

「この話を聞いて興奮するのは流石といったところだけど、どう頑張ったってS級冒険者は四人が限界でね。残り一人の枠が余ってしまう。冒険者ギルドとしても面子がある。立場上、一介の生徒如きに負ける訳にはいかない。けど、決して誰でも良いって訳でもないんだ。これだけの為に、外部の者達の手は借りられない」

「なるほど。ギルドに所属する、歴とした冒険者である事が条件って事か」

そうなると、元ギルド職員のアンジェも微妙になってしまうのか。表向きは冒険者との親睦会なのに、ギルドの元職員が選出されるってのも妙な話だもんな。

「そ。冒険者の資格を持つ君のところのエフィル君を候補に挙げようかとも考えたけど、彼女は今それどころじゃないんだろう?」

「ああ、全然それどころじゃない。全力で反対する。 ……ああ、そうか。それで最初の話に戻る訳だな? 俺に将来性のあるA級を育てさせて、相応しい強さにしろと?」

シン総長は満面の笑みで大きく頷いてみせた。