作品タイトル不明
第34話 スカウト
撒き散らされた猛毒を消して回り、フロア中を綺麗にする事暫くして。何の毒だかも分からない無責任さ、この本部は街のど真ん中にあるという悪環境も相まって、俺は念入りに消毒作業をさせられる事になるのであった。
「……よし、これで一分の隙もなく、全ての毒はなくなった筈だ」
「お疲れ様、流石は私が見込んだ男なだけはあるね。じゃ、遠慮なく総長室に入りたまえ。少々散らかってはいるが、まあ一人二人が座る場所くらいはあるさ。たぶんね」
「………」
「ケルヴィン君、そんな顔をする気持ちも痛いくらい分かるけど、まずは部屋に入ろう? また何の臆面もなく、変なものを使われたら面倒だからさ」
「あ、ああ」
アンジェにしては珍しく、シン総長の行動に肯定的だ。いや、この場合は諦めの心境になってしまっているのか。前に一人で総長を訪れた時、一体どんなトラブルに巻き込まれたんだろうか? かくいう俺も、もしかしたらS級の中で、この人が一番苦手かもしれん。リオ越えもあり得る。
総長室に足を踏み入れると、そこは予想以上に雑多な場所だった。何に使うのか予想もつかない道具やら、独自のセンスを光らせる石像、ジルドラからパクってきたのであろう特殊武具、脱ぎっ放しの衣服下着エトセトラエトセトラ――― 言葉が悪いが、正直これはゴミ屋敷一歩手前な惨状である。セラの部屋の二倍は酷い。
「そこのソファが空いてるよ。詰めれば二人くらいは座れるでしょ」
「……座るか」
「う、うん……」
かなりギュウギュウではあるけど、俺達は半分埋もれたソファの空き部分に何とか座る。その対面側では、シン総長が半分埋もれかかったデスクの上に腰掛けていた。
ここで初めてまともにシン総長と顔を合わせた訳だが、彼女は右目に眼帯をしていた。リオルドのような魔眼持ちなんだろうか? もう片方の瞳は紫色で、ウェーブがかった髪も紫色だ。葉巻を吸うのか、衣服に何本かそれらしきものを差している。進化していて見た目は当てにならないんだろうが、外見は三十代前半といったところだ。
「いやあ、ちょっとだけ汚くしていて申し訳ないね。私、珍しいものがあるとつい集めちゃう、軽い収集癖みたいなものがあってさ。ま、どれもこれも価値のあるものばかりだから、仕方ないよね。うん、仕方ない!」
「散らかってるものには目を瞑るよ。アンタが元使徒でリオルドの師匠だってのも、まあ分かった。けど、話す前に訂正したい。俺はリオルドを殺してないぞ? 可能なら俺自身が戦って勝ちたいと思っていたのは事実だけど、実際に最期を見届けたのは他のメンバーだ」
「ああ、知ってるよ? 使徒であったベル・バアル、エストリア・クランヴェルツ、東大陸の獣王レオンハルト・ガウン、そしてそこにいるアンジェ君達が止めを刺したんだろう? 前にアンジェ君がここを訪れた時に、その時の話を聞かせてもらったんだよ。だから超知ってる」
あっけらかんと答えるシン総長に、俺はそろそろ頭を抱えたい思いに苛まれてきた。
「知ってたんかい…… だったら何で俺を攻撃したんだよ? まあ、アンジェも知ってた風ではあったけど」
「あはは、やっぱりバレてた?」
「アンジェらしくもなく、すっげぇバレバレだよ。何かあるって、そう知らせてくれてるみたいだった」
「はて、何の事かなぁ? アンジェさん、分っかんないなぁ~」
フードの猫耳を指で弄りながら、明後日の方向を向いてしらばっくれるアンジェ。もう分かってるよ、可愛い奴め。
「フフッ、そうアンジェ君を責めないでやってくれ。彼女には私から口止めをお願いしていたんだ。バトル好きの彼なら、この挨拶が最も効率良く仲良くなれる。だから、不意打ちの事は内緒にしておいてくれってね。その方がより緊張感が高まって、ケルヴィン君が私に集中してくれるだろう? ああ、リオルドの件はあくまでも方便みたいなものだから、全然気にしないでくれてオーケーだ。そう言った方が雰囲気出てたし、瞬間的にケルヴィン君も勘違いしてくれると思ってね。リオルドはリオルドの道を貫いた、君は君の道を貫いた。ただそれだけの事さ」
「……その割には、本気の殺意と敵意が籠っていたようだったけど?」
「だって、その方が君好みだったろう? 腹を割って戦った仲なんだ。もう私達は友達も友達、マブダチさ!」
その歓迎方法は俺も歓迎したいところだけど、何か気軽に友達にはなっちゃいけない雰囲気があるのは、俺の気のせいだろうか。
「そんな顔をしないでおくれよ。挨拶をした時の君は、とっても良い顔をしていたってのに」
「アンジェ、その時の俺、どんな顔をしてた?」
「今日一番の笑顔だったよ~」
「マジで?」
「マジマジ」
……まあ、歓迎方法は歓迎してる自覚がある訳だし。
「後は…… ケルヴィン君の人となりを直に確認したかったってのも、理由の一つかな?」
「俺の人となりって、あの一連の行動でどう分かるってんだよ?」
「いやいや、意外と結構分かっちゃうものだよ? それにさ、 冒険者名鑑(・・・・・) でケルヴィン君の紹介欄を書いたのは私なんだよ? その私が言うんだから、ほぼほぼ間違いない!」
「っ!? お、おまっ! 冒険者名鑑にあのはた迷惑な内容やら二つ名を書いたの、アンタだったのか!?」
「何を隠そうね。イラストを描いたのも私だ。可愛かったろう?」
「確かにそこはうちの女性陣にも好評だったけど…… それよりも、二つ名だ、二つ名! 漁色家に戦慄ポエマーだとか! あれのせいで、俺が今までどれだけ苦労してきたと―――」
「―――でも、嘘じゃないだろう?」
「……い、いや」
「それ以前の評判やらを加味して、仲間からの情報を統合してみたら、実際その通りだろう?」
「………」
「ケルヴィン君、ちょっと分が悪いよ。私の胸で後で泣いていいから、この話題はもう引こう? ね?」
ぐうぅ~~~……! 言い返したい! でもできない! 後で泣く!
「アンジェ君がそう言っているんだし、話を元に戻そうか。ええと、ケルヴィン君の人となりについてだったかな?」
「……ああ。あの不意打ちから、俺の何が分かる?」
「なら、ちょっとだけ説明してあげよう。僅かに前情報があったとはいえ、私の不意打ちを冷静に判断して対処してみせた。無類の戦闘センスだと思うし、同時に無類のバトル好きって事も、あの表情から読み取れる。何だかんだ言いつつも、私の無茶振りに応えてくれる程度に懐も深い。あれはパブの街や一般の人々の事を考えての行動だよね? プライドよりも常識を優先してくれたのは、S級冒険者としてかなりポイント高いよ、君ぃ!」
「人に指差すなって…… そこまで言われるほど、俺はできた人間じゃないよ。普通、自分にできる事ならやるだろ、あの状況なら」
「それができない冒険者が多いから、諸々を統括している私は苦労しているんだよねぇ。このパブにいるA級冒険者は、特にその傾向が強くてね。ほんっと、無駄に我が強くてプライドも高いんだよー。職員達も日々苦労していてね。我々が可哀想だとは思わないかい、ケルヴィン君?」
「まあ、一番苦労させてるのはシン総長だとは思うけどな」
「ああ、そうそう。話は変わるけど―――」
俺も人の事は言えないけど、この総長、雲行きが怪しくなって話題を変えやがった。もう少し部下の意見を吸い上げてやって!
「―――ケルヴィン君、本格的にA級冒険者を育ててみる気はないかい? 実力があって戦闘好き、懐が深くてある程度の良識を持ち合わせている君のような存在を、私はずっと探していたんだよ!」
「……は?」