軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第33話 不羈

少し気になって、このエレベーターが故障したらフロア間の昇り降りはどうするのかと、職員の彼女に聞いてみた。すると、そもそも緊急時に自力で高所から脱出できないような輩は、上の階層には昇らせないという回答が返って来てしまう。うーん、流石は冒険者ギルドの本部。こんなところまで実力主義である。

―――ポーン。

柔らかな機械音がエレベーター内に鳴り響く。

「最上階に到着致しました。どうぞこちらへ」

俺達を乗せた円盤は、どうやら事故を起こす事なく目的の階層へ行き着いてくれたようだ。外壁を伝ってよじ登る必要も、これでなくなった。

本部の建物が上に行くにつれてフロアが狭まる構造になっているので、最上階であるこのフロアには総長室しかないんだそうだ。エレベーターから降り少し通路を進めば、もう目の前はその総長室である。

「ケルヴィン様、一ギルド職員でしかない私がこう言うのもおかしな話ですが、一つだけ忠告させて頂きます。総長はギルド一の働き者なのですが、同時に本当に自由な方で、何をするか全く予想がつきません。ですので、一般的な応対を期待されない方が良いかと……」

「ああ、その点は大丈夫です。S級冒険者相手に普通とか一般的っていう言葉は、元から一切期待していませんので」

「わあ、ケルヴィン君今日一の爽やかな笑顔だね~」

だろ? 俺もそんな自信がある。

「そ、そうでしたか。やはりS級同士だから、何か通じ合うものがあるのかしら……?」

ヘイ、職員さん。小声で言われましても、この距離だと丸聞こえですよ? そして敢えて言うのなら、その答えはノーである。だってS級は皆、違う方向に変態性が振り切っているんだもの。あ、いや、プリティアとグロスティーナだけは、変態性も通じ合っているのか。失敬失敬。

「では、私はこれで失礼致します。あと、念の為にお願いしたいのですが、こちらの扉を開けるのは私が下に降りてからにして頂けないでしょうか? 安全の為に」

「安全の? えっと、それはどういう?」

「私の安全の為に、です! 先ほども申し上げましたが、総長がどういったお出迎えをするのか、本っ当に分からないので! お願いします、お願いします!」

「……了解です」

一体ここで何が起きるのよ? アンジェにそんな視線を向けても、苦笑いを返されるだけだ。あっ、これ何かあるなと、鈍感な俺だって気付くってもんだよ?

「ではでは、本当に失礼しますね! 本当に私が降りてからにしてくださいね!」

職員さんは何度も何度も念を押し、エレベーターの中へと消えて行った。彼女は一体どんなトラウマを抱えているというのだろうか?

「よし、無事に1階に戻ったみたいだ。じゃ、噂の総長さんとやらに会うとしようか」

「だね! さ、ケルヴィン君どうぞ!」

「……あのさ、随分と後ろに下がってないか?」

「アハハッ、気のせいだよ~、きっと」

総長室の扉の前に立つ俺に対し、アンジェは数歩どころか十歩ほど後ろの位置にいた。流石にここまで露骨だと、後の展開が分かってしまう。

「まあ、良いけどさ…… 失礼します。ケルヴィン・セルシウスです」

しかし、相手は冒険者ギルドの最高責任者。俺の方から失礼をする訳にはいかない。コンコンと扉をノックし、丁寧に名乗っておく。

「お、来たね~。待ってたよ~。どーぞどーぞ、扉は開いてるから勝手に入って来てくれたまえ」

扉の奥より返って来たのは、意外にも軽い感じの女性の声だった。最後は偉そうな言葉遣いをしていたが、偉ぶっているというよりも、ふざけているといった印象である。俺が不思議がっても、アンジェは相変わらずめっちゃ後ろだし、まあ入室するしかないんだけど。

「では、お言葉に甘えて―――」

木製の複雑な装飾が施された扉に手を掛け、ガチャリと半分ほど開けたその時、前方より凄まじい敵意が爆発したのを察知する。

「―――きぃえええぇぇぇーーー! リオルドの仇ぃーーー!」

「なんですとっ!?」

前方から何かがこちらに迫ってくる。いや、振るわれたのか。空を切る音からして、得物は大剣に属する何か。黒杖で受け止め――― 否、それは不味いっぽい!

「うわっ、これまた盛大だ。総長、本当に話通りにやるんだねっ……!」

固有スキルを使って全透過状態のアンジェが何か言っているようだが、今の俺にそこまで耳を傾けられる余裕はない。放たれた攻撃は半開きの扉ごと俺にぶちかまされ、このフロア全体に轟音を轟かせた。高そうだった扉は見事に粉々に、アンジェは能力により無事だったが、背後の通路側も酷い有様になっている。

「あっちゃー、流石は新鋭のS級冒険者。そして神を打倒したケルヴィン君だ。退職がてら、創造者からパクって来たお気にの武器でも倒せなかったか。残念残念」

「何が残念なんだよ総長様、危うく死にかけたわっ!」

通路の壁までぶっ飛ばされはしたが、俺はHPの三分の一を失う程度の負傷で済んだ。直ぐに治癒魔法を施すから、まあ無傷みたいなものだ。で、肝心の総長様はというと、衝撃によって生じた粉塵の中から今出て来られたところである。

「初めましてだね、『死神』のケルヴィン。私が冒険者ギルドの――― ええと、何代目だっけ…… まあ、良いか! 何代目かのギルド総長、『 不羈(ふき) 』のシン・レニィハートだ。君が殺したリオルドの師匠でもあるんだけど、終わった事は仕方ないよね! 末永くよろしく!」

「……色々と言いたい事はあるけど、まあ、うん。こちらこそ、末永くよろしく」

「ケルヴィン君、まだ話してなかったかもだけど、総長は神の使徒の先代第5柱『先覚者』だった人なんだ。私も直接会ったのは、この前が初めてだったんだけど……」

不意打ちした時の叫びで何となく察したよ。ご丁寧にリオルドって名で呼んでたしな。あと、殺そうにも俺はリオとバトッてないんですけど。

「ああ、やっぱり堅苦しい言葉はない方が良いものだ。仕事って感覚が薄くなる…… 気がする! そうは思わないかい、ケルヴィン君にアンジェ君?」

「同意を求められても困るんだが…… それよりも、総長がその武器からぶっ放した弾丸、得体の知れないガスを未だに噴出してるんだけど? 紫色だし、見るからにやばくないか?」

出会いがしらの素敵な挨拶をかましてくれたシン総長な訳だが、得物の大剣(?)には刃先に弾丸の発射口が備わっている。斬撃と同時に弾丸もお見舞いしてくれるという、これまた素敵仕様な大剣だ。弾丸の方は明らかに毒物混じりな代物だったので、こちらの回避に全力を注ぎ、斬撃は最低限の防御で済ませておいた。ジェラールが持ってる銃剣と少し似ているのは、先ほどのシン総長が言っていたように、元はジルドラの製作物だったからだろうか?

「あー、『ハザードクラスター』って名前の大剣なくらいだからね。武器の使い手をも巻き込むレベルで、その弾丸型噴出機から強力な毒素をばら撒くって話らしいよ。所謂失敗作ってやつだね! くふふ!」

「いや、くふふじゃないでしょ!? なんてもんを本部のど真ん中で使ってる訳!?」

「え? だってケルヴィン君、白魔法の使い手なんだよね? 小さな村くらいならイチコロな毒物だって、魔法で除去できるでしょ? ほら、早く除去ってくれ。私やケルヴィン君は暫くは耐えられるし、アンジェ君は毒を透過すれば良い話だけど、下層のフロアにまで届いたら一大事なんだ。急げ急げ、毒は待ってはくれないぞ!」

「………」

「ケルヴィン君、考えるのは後にしよう。総長は昔からこういう人で、その、使徒見習い時代の解析者も死ぬほど苦労していたって話だから」

なるほど。リオで苦労するのなら、一般職員はトラウマもんだわ。