軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第32話 本部

約束を守る女、セラに留守を任せた俺とアンジェは、金雀の宿を出て冒険者ギルドの本部へと向かった。前以って言っていた通り、これはデートでもあるので、その道中での観光が許される。しかし残念ながら、いや、幸いその道中で他の冒険者に絡まれるような事は起こらず、まだ見ぬ謎の組織からの刺客なども現れなかった。普通に手を繋ぎながら、平和にデートを謳歌する事ができたのだ。

「何のトラブルに巻き込まれる事もなく、普通に到着しちゃったなぁ、ギルド本部」

「着いちゃったねぇ。ケルヴィン君、ドンマイだよ。時々変な視線は感じたけど、ケルヴィン君が求めるものとは違う意味での殺意の視線ばかりだったもんね」

「そうそう。殺意は殺意でも、相手が俺だからって感じの視線じゃなくて、隣にいるのがアンジェだからって意味の視線ばっかで…… って、何を言わせるのかな、アンジェさん? 俺は純粋に、アンジェとのデートを楽しんでいたのだよ?」

「動揺で口調が変になってなければ、その言い分を信じてあげても良かったんだけどな~。ま、アンジェお姉さんもまだまだ捨てたものじゃないって事で、この話は締めさせてあげよう」

「ありがとうございます、アンジェ姐さん。姐さんの隣にいれて、俺は幸せ者です」

「あ、それムドちゃんの真似?」

「正解」

ムドのように極力無表情を装ったのが、演技に箔をつけてくれたようだ。さて、おふざけはこの辺にして、そろそろ本部にお邪魔しますかね。やってきました迷宮国パブの冒険者ギルド。なかなか立派な作りの御宅です。それでは中を拝見致しましょうか!

「ケルヴィン君、何か変なテンションになってない?」

「いやあ、でっかい建物を見て高揚しちゃったのかもしれん。初心にかえったというか…… すまん、俺にもよく分からない」

ギルドの本部だけあって、ここの建物はパブ国内でも王城に次ぐ大きさを誇っているそうだ。中に入ると、まず巨大なエントランスがお出迎え。外観もそうだったが、街の雰囲気に合わせているのか、基本的に石造りかつ、迷宮の中にいるかのような神秘的な雰囲気を晒している。その奥には横に長ーい受付カウンターが設置されており、何名もの受付嬢が膨大な人数の冒険者達の対応に追われていた。

「規模が大きくなっても、この辺りはパーズや他のギルドと同様の仕組みみたいだな。あ、でも酒場がないか?」

「うん、本部に酒場は併設されてないよ。本部は所属する冒険者が世界一の人数を誇るだけあって、利用者を効率良く捌く為に回転率を重視しているんだ。ほら、その代わりに街には腐るほど酒場があるでしょ?」

「あー、酒場が内部にあったら、いつまでもギルド内に居座られるからか。納得納得」

「どこのギルドも基本的には忙しいけど、本部は比較にならないほど激務らしいからね~。ええと、ケルヴィン君の昇格式を開催した時の忙しさが、日々襲い掛かってくるような、そんな感じみたい。私、本部所属じゃなくて本当に良かったよ~」

それ、超絶ブラックじゃありません? 確かあの時は、アンジェもリオルドも、かなり疲弊していた記憶があるぞ?

「おい、あれ……」

「『死神』に『首狩猫』だ……」

「噂のS級……」

「ちょっと前に、パウルんとこのパーティを潰した……」

「八つ裂きにして焼いて食ったとか……」

ギルド本部の雇用環境を憂いていると、俺とアンジェの存在に気付き始めたのか、周りの冒険者達の視線が徐々に集まり出していた。ボソボソと小声で仲間達と話しているようだが、耳の良い俺やアンジェはそれらを一々拾ってしまう。噂が広まるのは早いもので、もうパウルの一件を知っている者達もいるようだ。ただ、噂は早く回る分、信憑性が薄まるもの。誤った情報が多分に含まれているのが気になる。焼いて食ったとか、俺はそこまで化け物じゃねぇよ。

「戦慄ポエマー……」

「漁色家……」

「男の敵……」

これはいかん。所詮は噂とはいえ、誤報にもほどがあるぞ。誰だ、こんな嘘塗れな偽情報を流した奴は!

「フッ、あれがS級なのか? 私にはそこらの冒険者と一緒に見えるのだがね」

「肉が足りねぇな、肉が! S級といやあ、やっぱゴルディアーナだ! あれくれぇの肉がなきゃ、圧倒的に圧が足んねぇ!」

周りの冒険者の中には、わざとらしく俺達に聞こえるような声で喋る奴らもいる。生きが良いので思わず俺の顔にも笑顔がほころぶが、パウル関連の騒ぎを起こしたばかりなので、ここはもう少し寝かせておこう。見どころはない訳でもないので、美味しく熟成して頂きたい。

「ケルヴィン君、ちょっと黙らす? ジャブ程度に、首の一つか二つ落としとく?」

「アンジェ、それジャブじゃないから。ジャブにしては重過ぎるから。普通に死ぬから」

「えへへ、そうだったそうだった」

えへへじゃないよ、経験者は語るよ。アンジェジョークのつもりなんだろうけど、半分くらいは本気な気がするのが怖い。

「それで、こんな状況になっちゃったけど、どうするよ? 受付、かなり並んでるっぽいぞ? 正直、こんな注目の中で並んで待つのはなぁ。俺が順番まで我慢できるかどうか……」

「心配するところはそこなんだねぇ。でも大丈夫! こんな事もあろうかと、アンジェさんは先に話を通していたのです。ほら、職員の子がこっちに来てる」

「お、マジだ」

アンジェの指差す方を見ると、ギルド職員の女の子がバタバタした様子でこちらに向かっていた。非常に慌ただしい。ルミエストで会ったカチュアさんを思い出してしまう。あちらはその上で転ぶという動作が加わるので、彼女にはそこを目指して、更に精進して頂きたい。

「し、失礼します。S級冒険者のケルヴィン様、そしてお仲間のアンジェ様ですね? 総長が上の階でお待ちしていますので、そちらにご案内致します。どうぞこちらへ」

「これはこれはご丁寧に。すみませんが、お願いします」

ギルド職員の案内により、受付をすっ飛ばしてギルド総長の部屋へと向かう事になった。これはこれで変に注目を集めてしまったが、あの場に留まるよりは良いだろう。

「当ギルドのフロア移動は階段ではなく、こちらのマジックアイテムにて行います」

職員の後に付いて行くと、宝石のようなものが埋め込まれた円盤と、その周囲をガラス壁で囲われた空間に行き着いた。階段じゃなく、これで昇る? それってつまり―――

「―――これ、エレベーターですか? 凄いですね。こっちで見るのは初めてだ」

「このマジックアイテムをご存知なのですか? 流石はS級冒険者のケルヴィン様ですね。以前本部を訪ねられたアンジェ様も、大して驚いていなかったようですし」

「ハハッ。いやいや、 マジックアイテム(これ) を見るのは初めてですよ。単に知識としてあっただけです」

俺はまあ当然として、アンジェの場合は神の使徒の同僚だったジルドラが、それ以上にやばいもんを作っていたし、今更驚く事でもなかったんだろう。オーバーテクノロジーだよ、本当に。

「もしや、パブ全体で普及しているんですか?」

「いえ、これは総長の持ち込み品です。どこから発見してきたのか、ある日階段がこの設備に入れ替わっておりまして。一体どんな手品を使ったのか…… あ、今のところ事故などは起きていませんので、そこはご安心ください!」

「ハハハッ、随分とアクティブな方なんですね」

今の台詞からだけで、ここの職員が日々どれだけ苦労しているのかが分かってしまう。一夜にして階段がエレベーターに変わってたら、そりゃあ驚くし不安だわ。

『……アンジェ、これってジルドラが作ったマジックアイテムじゃないよな?』

『ん~…… 無きにしも非ず、ってところかな?』

うん、不安だわ。