作品タイトル不明
第36話 先客
俺がまだ頷いていないってのに、どれだけ気が早いのか、シン総長は段取りをガンガン進め始める。総長曰く、対抗戦に出る素質がある者をこの数日中に選定するらしい。まあ、俺としてもA級トップの冒険者達には興味があり、一度顔を合わせてみたいとも思っていたので、俺のやり方で鍛える事を条件に、この件を了承する事にした。候補のリストアップが完了したら追って連絡するとだけ聞いて、この日の話し合いは無事終了。俺とアンジェは再び奇異の目で見られつつも、無傷で本部を去る事ができたのであった。
「―――ってな事があってさ、もしかしたらリオンと戦う機会があるかもしれない。その時は全力でやり合おう」
そしてその翌日、俺は今、とあるダンジョンへとやって来ている。ここは最近になってパブの西にて発見されたばかり、所謂未開拓のダンジョンだ。俺達の前にも何組からの冒険者パーティが派遣されたのだが、どの組も入り口付近でダンジョンモンスターに撃退されてしまったらしい。冒険者ギルドは暫定でA級上位の攻略難度と設定。その詳細を確実に調査する為にも、俺のところにお鉢が回って来たという訳だ。そういや昨日、適度にパブでの実績を作っておいてと、シン総長が別れ際に言ってたっけ。もしかしたら本来総長が担当する筈だった仕事を、功績を稼がせる為に回してくれたのかもしれない。まあ期待してくれるのなら、相応の成果で返すのが礼儀ってもんだろう。
調査には仲間達を全員連れて来ても良かったんだが、あまり人数が多過ぎると『暗紫の森』での殲滅事件、あの過ちを再びここでも繰り返してしまう可能性があったので、今回は少数精鋭で挑む事にした。ギルドからの依頼はあくまで調査だけで、モンスターを根絶やしにする事ではないからだ。後、調査をしてみて良い難易度のダンジョンであったのなら、A級冒険者達の鍛錬場所にしようとも考えている。
ちなみに今回のパーティの人選は、ルミエストへの入学を控えるリオンと、ペット枠で同行する事になっているアレックスの名コンビだ。時期的に俺と一緒にダンジョンに潜れる機会が一番少ないだろうという事で、仲間達との相談の元、この二人が優先的に参加する事になったんだ。クロメルも行きたがっていたけど、そこは実力不足という事で心を鬼にして却下した。パパ、無茶は許しませんよ?
「全力で戦うのは良いけど…… ケルにい、『経験値共有化』を使うつもり? 短期間でS級冒険者並みに強くするって、そうでもしない限り凄く無茶をしなくちゃだよ?」
「ウォン!(谷から突き落とす勢い!)」
「手っ取り早く強くするなら、それが一番だろうな。けどシン総長から依頼されてるのは、S級冒険者に相応しい人材を育てる事だ。それなりに修羅場を潜って自分で成長する力を培ってもらわないと、ガワだけが立派で中身の伴わない半端な奴になっちまう。アレックスの言う通り、谷から突き落とす勢いで指導して、それでも強くなる為に付いて来ようって精神がある奴らを、まずは選んでいこうと思う。なに、まだ期間は数ヵ月もあるんだ。リオンがルミエストで勉強している間に、俺は俺で楽しませてもらうさ」
A級冒険者? うん、もっと無茶をさせないとね!
「もう、ケルにいったら。ほどほどにしてあげてね」
リオンの言葉はいつも慈悲に溢れている。しかし、我が妹よ。A級冒険者を鍛えるという事は、ルミエストとの対抗戦で、お前と戦うかもしれない人材を育てるという事だ。戦う可能性のあるそいつの為にも、俺は全力で指導させてもらう。だってリオンってば、対人戦に欠片の容赦もないんだもの…… 俺と当たる分にはこの上なく嬉しい事柄なのだが、育てた奴が当たるのは正直避けたいところだ。最悪の場合、心に消えない傷が深々と残ってしまう。
「さて、そろそろ到着か。あそこが発見されたダンジョンの入り口だ」
「わあ、生い茂ってるね!」
「ガーウガゥ(道中も凄かったよねー)」
俺達は猛暑の中、ここまでジャングルの道のりを突っ切って来た。鬱蒼とした一帯は非常に歩き辛く、うじゃうじゃと存在するどでかい食人植物、猛毒を持つ小型の虫モンスター等々の対処を迫られる、それなりに危険な道中だったと思う。ただまあ、今のところの評価はB級ダンジョン、それこそ『暗紫の森』と同じくらいかなといった印象だ。この程度ならば、パブのA級冒険者でも十分に対応できるレベルだろう。正直、かなり物足りない。いや、本丸の未探索ダンジョンはこれからなんだ。希望を捨てるにはまだ早いぞ、俺!
とまあ、俺が期待を寄せるそんな本丸ダンジョンは、パブの街並みでも見かけたような石像が乱立し、ダンジョンそのものも石で作られた、古代遺跡風味な場所だった。石像は何かの生物を模したもの、特に人の頭部を表したものが多い。どれもこれも蔦などの植物が張っていて、古くからここに存在していた事を窺わせる。
「ずっと前からここにあったのかな?」
「どこかの神様が気紛れを起こさない限りは、まあそうだろうな。こんなジャングルのど真ん中に、意図してやって来る奴なんていないだろうし――― ってこの気配、もしかして先客か?」
「ガーゥ(人の臭いがするー)」
「うん、ダンジョンの中に気配があるね。他の冒険者の人? それとも、間違って迷い込んだとかかな?」
「こんな場所で迷子はあり得ないだろ。しかし、だからといって冒険者でも困るんだが……」
未踏破のダンジョンの発見、更には何組もの冒険者が攻略を失敗しているとして、このダンジョンは危険区域としてギルドから立ち入り禁止に指定されている。もちろんそれはパブに複数存在するA級冒険者達も同様で、現在はシン総長から調査の許可を貰っている俺達だけが入れる事になっているんだ。
ダンジョンの宝を目的とする盗賊の類なら、その場でとっ捕まえるだけで済むから良いんだけど、ギルドの指示を無視している冒険者が仮にいたとすれば、ちょっとばかし対応が面倒な事になる。こんなところにまで足を伸ばせる実力者となれば、パブの中でも割と上位の冒険者だろう。俺からの警告を素直に聞いてくれるか、かなり怪しいところだ。
「プライドが無駄に高いらしいし、昨日の様子を見る限り、あまり俺を歓迎している風じゃなかったもんなぁ。最悪、実力行使になっちゃうよなぁ……」
「ケルにい、どうしたの? すっごく嬉しそうな顔になってるよ?」
「ん? 困った感じの顔じゃなくて?」
「クゥーン(にやけてるー)」
「むむむっ」
うーん、最近の俺ってば、口元が緩み過ぎかも。せめて先客の奴らの前ではシャキッとしないとな、シャキッと!
「気配の位置は…… 階段を一つ降りた階層か。まだ入ったばかりだな。リオン、アレックス、調査は後回しにして、まずはこの不審人物のところに向かう。一応戦闘準備もしておくように」
「ラジャ!」
「ウォン!(ラジャ!)」
「オーケー。じゃ、行きますか!」
俺達はその場で速度上昇系の補助魔法を纏わせ、それが完了次第、大地を蹴ってダンジョンの入り口へと突貫する。この際、視界に入るモンスターは進路方向に立っている者以外は全て無視。最短最速で気配の発生源へとダッシュ&ダッシュ、である。
大体三秒ほどが経過しただろうか。俺達が辿り着いたのは、枝分かれした通路の一つ、その最奥となる行き止まりの小部屋だった。モンスターではなく、歴とした人の姿も確認する。ひー、ふー、みー…… ん、気配の数通り三人か。男一人、女が二人と。
「よお、色男。こんなところで何をしているんだ?」