作品タイトル不明
第587話 真摯な攻撃
「それでは第7チェックポイント、パパ対セルシウス家の勝負を――― 開始してくださいっ!」
バルコニーより聞こえてくるクロメルの合図。同時にクロメルの『怪物親』が発動し、俺にあの時の力が蘇る。基本武装は利き手に持つ 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) と、逆側に浮かばせた3本の 剛黒の黒剣(オブシダンエッジ) 。黒剣は全て Ⅵ(ヘキサ) 仕様、更には 大地の研磨(グランドクリーヴ) ・ Ⅵ(ヘキサ) で磨き上げた特注品だ。切れ味と耐久性は一般的なS級武具を軽く超える領域に至り、神にも対抗し得る出来となっている。これを一瞬で生成できるあたり、やはりこの力は強大だ。
『先手必勝! 刈取鮮血海(リーパーブラッドマーレ) !』
口火を切ったのはセラだった。自身の血を水に混ぜ込み巨大な尻尾とし、フィールドごと全てを薙ぎ払う大技を放つ。ついさっきかまされたベルの横殴りの竜巻といい、この姉妹は派手な攻撃で魅せてくれる。獣王祭の対ゴルディアーナ戦でも使っていたが、その時よりも更にでかい。尻尾を振り回しているのは人間サイズのセラだというのに、尻尾は大怪獣のそれである。いや、そもそもの話、一体どこからこれだけの水を供給したんだ? 獣王祭の時のような、マジックアイテムから水を出すような素振りはなかったぞ? うーむ、開幕から楽しい楽しい謎解きか。まあ供給方法はさて置き、目の前の壁と他全員の行動に集中するとしよう。
まずはあの攻撃について。セラの事だから『血染』の効果はあれ全てに発揮させているだろう。『怪物親』状態の俺と言えどもこの攻撃を素直に受ける訳にはいかない。今の俺は強さが最終決戦の頃のものになっているだけで、メルとの『絶対共鳴』を受けている訳ではないからだ。状態異常や能力低下効果は普通に受けるし、あの尻尾に触れたら血染の能力は普通に発揮されてしまう。要はお触り絶対厳禁、である。
『さっきはぶった斬って失敗したからな! 今度は上に逃げさせてもらう!』
『何の事だか知らないけど、それは悪手でしょうが! クロト!』
薙ぎ払われた血の尻尾を躱した瞬間、セラがクロトの名を呼んだ。なぜクロト? なんて疑問に思うよりも速くに、俺に向かってそれらは真下より飛来した。セラの尾から、夥しい数の武器が飛び出したのだ。どいつもこいつも最低でもA級の品ばかりで、なぜか身に覚えのある…… というか、俺がこの手で作った試作品の得物達だ。しかし、これらはクロトの中に大切に保管してあった筈。セラの尻尾から更にこいつらが出てくるのは、あまりにも不自然。それ以前に、この攻撃方法にも見覚えが―――
『―――ってその尻尾、クロトの擬態か!?』
『ご名答!』
俺は勘違いしていた。いや、勘違いさせられた。セラのこの攻撃は大量の水から作り出したものではなく、血を与え色を変色させたクロトと協力しての攻撃だったんだ。以前にも獣王祭で見たという俺の記憶を策として利用、更に戦闘前の口上でクロトが大きく膨らんでいたのは、本体のクロトはここにいるぞと俺に強く印象付けさせる為のもので、本当の本体はセラの体に隠れていたと。よくよく考えれば技名も若干違うし、全ては俺を誤認させる罠として繋がっていた。頭とセンスの良い奴は、本当に何をしてくるか分かったもんじゃないな……!
しかし、真上に飛ぶ選択もセラが言うほど悪いものではない。仮にあの場面で大鎌の斬撃を放っていたとしても、クロトが相手では接触した途端に魔力を吸収されてしまう。その後に尻尾をバッサリと分断できたとしても、クロトならその直後に斬った断面を瞬く間にくっつけてしまうだろう。そうなれば、俺はあの巨大尻尾に 轢(ひ) かれていた。それこそ、セラの血染は受けるクロトに魔力を吸われるのコンボだ。その時点でゲームオーバーである。
『確かに驚くほど見事な不意打ちだ! だがそれでも、武器の連続放出程度なら見てから躱せるっ!』
『でしたら、僭越ながら私も支援させて頂きます』
『っ!』
真下から作品の数々が飛来するのに対し、今度は真上から蒼き光が放たれる。僅かに遅れて、とてつもない熱が俺の肌を焦がし始め…… あ、これ光じゃなくて蒼い炎ですわ。
『 多首極蒼火竜(メルトパイロヒュドラ) ・ 八王(ヤマ) 』
タイミングにしてセラが尻尾を振るうのと同じ時、エフィルはコレットの結界ギリギリの高度に向けて、一本の矢を放っていた。俺が跳躍した瞬間に矢は静かに蒼く燃え盛り、エフィルが念話を送ってきたところで爆発。常人であればそれだけで溶けてしまう熱量を撒き散らしながら、爆発の中より八つの竜の頭が現れこんにちは。なんて可愛らしい挨拶がある筈もなく、代わりに凶悪な牙を剥き出しにして、俺へと飛び掛かって来る。
『固有スキル付きの 多首火竜(パイロヒュドラ) を八発いっぺんに、それも一首一首の威力を高めての放射か! いつの間にこんな技が使えるようになったんだ、エフィル!?』
『あはは、ケルにいったら喜んでる暇はないよ?』
『そうそう、私達だっているんだからねー』
超危険地帯の最中にいる俺の横には、仲良く手を繋いだリオンとアンジェの姿があった。仲良きことは美しきかな。でも手を繋いでいる理由は、アンジェの『遮断不可』を共有する為だろう。上は大火事、下は武器の逆スコール状態の火中でも、そうする事で2人だけは攻撃が当たらなくなるからな。前の突発的チェックポイントで、アンジェが俺にするかもしれなかった救急手段の応用だ。アンジェがリオンを運ぶ事で、スピードも底上げされている。
『 斬牢(ざんろう) 閉鎖、横にも逃げ場はないからね!』
俺の周囲一帯が、リオンが施したであろう斬撃痕の大群で包囲されていた。しかもこれ、全部が全部違う剣で作り出した斬撃だ。毒が塗ってあったり属性が付与されてあったり、種類が豊富な贅沢仕様。クロトが投じた武器を俺が躱している間にキャッチして、次々に設置していったんだろう。幸か不幸か、呪われた武器はリオンが手にした瞬間に『絶対浄化』で清められてしまう為、その類の斬撃はなさそうだ。但し、使い終わった武器はアンジェへと手渡され―――
『せいっ!』
『あぶなっ!?』
―――再度俺へと投擲! ただでさえ地獄なフィールドが、更なる弾幕へと進化を遂げている。嬉しいけど、流石にこれは躱す隙間がないっ! こうしている間にも、リオンとアンジェはせっせと斬撃設置&投擲を繰り返している!
『 粘風反護壁(リヴェカウンターガム) ・ Ⅵ(ヘキサ) !』
ここは耐え忍ぶ場面だ。ベル仕込みの障壁を緊急生成。ゴムまりで全方位からの攻撃を受け流して、真逆から迫る攻撃とぶつけて相殺させる。これだけ層の厚い攻撃だと、どこに飛ばしても何かしらと衝突しそうなものだが、妥協はしない。並列思考を最大限まで酷使し、より効率的に相殺、相殺、相殺! ―――正直、どれだけ相殺してもキリがねぇ!
『っと!』
大忙しな俺の下へ、エフィルが 飛矢極蒼爆雨(メルトフルミネーションレイン) ・直撃ちを放ったのを察知スキルで確認。さっきと違って技名を言わず、こっそりと撃つあたりにエフィルの深い愛情を感じてしまう。それほどに俺のハートを射止めたいらしい。しかし、あの攻撃は接触と同時に大爆発を引き起こす、 粘風反護壁(リヴェカウンターガム) とは相性の悪い爆撃だ。このまま縮こまっていたら、甚大な被害になる事は確実。うーん、ちょっと強引だけど打って出ますか。
『障壁、拡大っ!』