作品タイトル不明
第588話 この日の為に準備しました
粘風反護壁(リヴェカウンターガム) を内部より押し込み、その展開領域を風船を一気に膨らませるように拡大させる。これにより障壁は受け流すのではなく、この瞬間のみ真逆へと跳ね返す性質へと変化。更に跳ね返された攻撃は後続の攻撃へと衝突し、運が良いところでは誘爆してくれる結果となった。エフィルが秘密裏に放っていた 飛矢極蒼爆雨(メルトフルミネーションレイン) ・直撃ちもその一つだろう。大よそ全ての方向から絶えずターゲットとされていた俺であるが、僅かに完全フリーな時間が訪れる。チャンスもチャンス、千載一遇の隙だ。
考え立ち止まっている暇はない。動くとすればノータイムかつ即行で。俺はこの時間を各個撃破へと移行する為のものとし、元いた場所より飛び出した。最初に狙うとすれば、確実に仕留められる者にしなくてはならない。
最も近くにいるリオンとアンジェは、攻撃が一切通らないように見えるが、実際は攻撃を放つ瞬間のみは『遮断不可』を解除している。その瞬間を狙えば倒せる可能性は決してゼロではない。が、同時に確実性がないのもまた真実。後回しにするのが無難だ。セラとクロトについても、攻撃の性質上その全てが一撃必殺と化している。焦って下手に突っ込んで、やられてしまいましたじゃ笑えない。ならば―――
『―――って事で、お相手願おう! エフィル!』
距離として一番遠くにいるが、放置していると厄介この上ない火力を叩き込んでくるエフィルから狙う。いつもであれば補助魔法なしの足では追い付く事ができない相手だが、今の俺なら如何に遠くにいようとも関係ない。スタートダッシュさえこちらが速ければ、アンジェに後れを取る事もないのだ。
『っ!』
自分が狙われている事に気付き、気配を無にしつつ迎撃の矢を放つエフィル。発射の際の爆炎と砲弾は見えるのに、砲台が消える摩訶不思議現象だ。だが、興奮のあまり頭が異常なまでに冴えてる俺には、そんなエフィルも余裕を持って捉えられる。
大鎌で両断できるものは斬撃で、接触で爆発を引き起こす類のものは予め生成していた黒剣2本をぶつける事で処理し、エフィルの下へと最短距離で突き進む。この間に背後から背筋が冷たくなる圧を感じるも、今は振り向いている場合じゃない。目眩ましに 烈風刃(ショットウィンド) を目一杯背後へばら撒く程度に抑えて、エフィルを倒す事に集中。大鎌にて確実に潰す。
『王よ、やはり来たかっ!』
『攻撃になかなか参加しないと思ったら、ここで護りに専念か! ジェラール!』
俺が大鎌をエフィルに振るう直前、ジェラールがエフィルを護る盾となって間に割って入って来た。
『ワシの速度では王には追い付けんからのう! エフィルとのツーマンセルで王に挑み、騎士として良いところを見せるのじゃ! 孫達の為にっ!』
『お、おう』
ジェラールの構える 大戦艦黒鏡盾(ドレッドノートリグレス) は、あらゆる攻撃を反射させる事ができる超高性能武具だ。ジェラールの固有スキル『自己超越』との併せ技で、その効力はより高く全身に及ぶまでになっている。だが、魔法を跳ね返すには相応の魔力を消費するのが必須条件! 鎧のどこかに隠し持っているであろう分身体クロトから魔力を引き出すにしても、これだけ大規模に巫女の秘術を使わせた後だ。俺の魔力超過を施した 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) は止められまい!
『お前ごと、エフィルも頂くっ!』
大鎌はその身を挺して立ち塞がるジェラール、更にはその奥にいるエフィルをも射程に捉え、確かに対象を通り過ぎた。軌道に入りさえすれば、あの神の方舟や女神クロメルにも通じた必殺の一撃だ。しかし、その後に俺が感じたのは違和感、そう、これまで 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) を使っていて感じた事のない違和感だった。
『大鎌の刃が、欠けただとっ……!?』
振り切った俺の大鎌に刃は既になく、破損した魔力の粒子がジェラールの鎧表面付近に見える。この攻防で相手を打ち負かしたのは 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) ではなく、ジェラールの方だったのだ。しかし、なぜ……!?
『ぶっつけ本番でちょいとドキドキしたが、上手くいったようじゃのう。『斬撃無効』、それがワシの新たなスキルの名じゃ。おっと、クロトも似た系統のスキルを持っておったかのう? 吃驚するほどのスキルポイントを使用して得た、ワシのとっておきじゃて!』
『うお、マジかっ!』
『ガッハッハ! その様子、かなり喜んでいるようじゃのう? 何しろ王の攻撃は斬撃を伴うものが多い! これを封じられるワシは、かなりの天敵じゃぞい!』
『予想通り、ご主人様に喜んで頂けました。良かったですね、ジェラールさん』
カウンター気味にジェラールの魔剣を腹部に食らいながら、ちょっとだけ和気藹々と念話で言葉を交わす。すげぇ痛いけど、それ以上にこいつは朗報だ。 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) をこんな形で防がれたのは初めてだ。しかも逆に破壊されたって事は、接触して無効化された際にジェラールの頑丈さに競り負けたのか? むむむ、検証すべき事柄が多くて探求心が疼いて止まらない……!
しかし現実にはジェラールによる追撃の攻撃、その背後よりエフィルの火力支援が行われようとしており、悠長に構えている場合でもない。まずは高速治療だ。斬られ血液が噴き出そうとしている腹部を、それよりも速くに治して繋ぎ止める。
『 大回復(ライトヒール) ・ Ⅳ(クアッド) 』
よし、完治。魔力超過を付与するにしても、この状態なら大抵が瞬間的に行えるのだから素晴らしい。で、興味津々なジェラールを泣く泣く迂回し、当初の予定通りエフィルを狙う。いい加減に1人でも倒さないと、もうアンジェ達が追い付いてしまう。
『王といえども、そう簡単にエフィルに手は出させんぞっ!』
『なっ!?』
再び俺の前に立ち塞がるジェラール。クロメルから怪物親の支援を受けている俺のスピードに、反応するどころか付いて来ている。何が速度では追い付けないだ、しっかりできてんじゃねーか!
『怪物親の効力を十全に受けているのは、何も王だけではないという事じゃ! 仮孫に見守られる今のワシの力は、まるで千人斬りをした時のようじゃて!』
『ハハッ! なるほど、ジェラールが思う『栄光を我が手に』している訳かよ! そりゃ俺にも追い付くわなっ!』
これまでの戦いからも分かる通り、クロメルは決して贔屓はしない。平等に公正に清く正しく、中立的な視点で俺を見ていてくれる。いやまあ、俺を視界に収めているから、近くにいるジェラールもパワーアップしているって話なんだけれども。それでも、そのパワーアップの度合いがやばい。たぶん、ジェラールの理想と固有スキルが良い感じに連動しているんだろう。歓喜の嵐に巻き込まれながら、残った1本の黒剣を手に取り剣戟の舞いを行う。
『ジェラール、ナイス護衛! お蔭で追いついたっ! ケルヴィン、私とクロトの合体技を食らいなさい! その10まであるからっ!』
『そしてそんなセラねえとクロトの特性を、アレックスが模擬取って―――』
『―――私が暗器の山と一緒に、リオンちゃんをお届けするっ!』
新技新コンビネーションの数々と共に、頼りになり過ぎる仲間達が押し寄せる。対応が追い付かないぞ、わぁい!
『 極蒼炎四方城塞(メルトランパートスクウェア) 』
あ、やば―――