軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第584話 この日の為に練習しました

俺は今、空を駆け巡る風となっていた。誰よりも速く進み、時に緩急をつけ、何者にも予測できない軌道を描く。そう、風とは束縛されないもの。風である俺は自由を愛し、だからこそパーズへと帰るのだ。そこには、更なるお楽しみが広がっているのだから……!

「こなくそぉーーー!」

脳内でそのような小粋な想いを綴るも、現実ではフリーダムとは程遠い状況が続いていた。風の如く必死に前進しようとしている、という点は一緒であるが。

「なかなか粘るじゃないか、ケルヴィン。それでこそ『死神』だ! でも、私的にはそろそろ手応えを感じたいところなんだ。暗殺者的に言うと、そろそろ首が欲しいとも言うのかな? って事で、本気を見せようか――― 聖剣(ウィルジリオン) !」

逃走する俺に向かって矢を放ち続け、同時にいくつものクレーターを量産していたセルジュが、今度は無数の聖剣を生成し始める。一瞬振り向いて確認してみると、俺と同等の速度で追い掛けるセルジュに付いて行くようにして、彼女の周囲一帯は宙に浮かんだ聖剣で埋め尽くされていた。まったく、奴は遠慮も限度も知らないらしい。味方にするには実に惜しい人材だ。できれば普段から敵対して頂きたい。

しかしながら、セルジュだけにかまけている訳にもいかない。追いかけて来る使徒はもれなく全員、ベルの魔法で 風神脚(ソニックアクセラレート) が施されている。俺の強化の方が魔力超過がある分強力だが、地力の敏捷値が馬鹿高いセルジュやベルには油断すれば追い付かれる。そうでなくとも俺は攻撃をいなしながら余計に走っているのに対し、使徒達は一直線に向かえば良いだけ。そもそも走行距離にも違いがあるのだ。まあ、それでもニトのおじさんは若干スピードに付いて行けず、脱落気味ではあるんだが―――

「ほら生還者、遅れてるわよ。蹴り飛ばしてあげるから、少しは良いところを見せなさいな」

「とは言ってもね、ベルちゃん! おじさんにはおじさんのペースというものがあってぇうあああぁぁぁーーー……」

―――このように置いて行かれるおじさんが、ベルによって定期的に蹴って飛ばされる。強烈な蹴りとそこから生まれる強風に乗って、四散したおじさんが俺へと送り届けられる寸法だ。バラバラになったおじさんがどこから復活するのか、瞬時に判断するのには苦労する。

「抜刀・燕ぇーーー!」

「そっちかっ!」」

早く発見しないと、こんな風に虎狼流の技の数々が繰り出されてしまう。見た目以上に厄介で非常に危険なコンビネーションだ。何度かこの攻撃を繰り返され、おじさんさんよりも本体である刀を探した方が安全だと気付くも、おじさんの抜刀術の瞬間的な攻撃速度は刹那並み。避けるのも受けるのもかなり辛い。一度腕を持っていかれたほどだ。

「 安息の棺(ユーサネイジア) !」

「あぶなっ!」

それら攻撃の嵐を何とか切り抜けた後にやってくるのが、エストリアによるこの白魔法の攻撃と妨害。体勢を維持するのもままならない時にぶっ放してくるから、俺の思考が休まる暇はまずないと言っていい。特に俺を光の棺に包み込まんとする結界は要注意だ。

この結界、耐久性が俺の 剛黒の城塞(アダマンフォートレス) くらいあるもんだから、一瞬で破壊するには 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) で掻っ捌くしかない。それでもワンテンポ遅れてしまい、結界の外でセルジュもしくはベルによる追撃が待っているという悪夢のコンビネーション。お前ら、実は陰で連携の練習でもしていたんじゃないの? 俺もこう言うしかないじゃないか。ありがとうございます!

「 剛黒の黒剣(オブシダンエッジ) ・ Ⅱ(デュアル) ×10!」

防御兼反撃用の黒剣を緊急生成、セルジュがそうするように宙に浮かべ、俺に追従させる。できれば 大地の研磨(グランドクリーヴ) も併用したいところだが、そこまでしている時間はない。

「なんだそれっぽっちかい、ケルヴィーン!? リオンはもっと一杯出してくれたぞー!」

「なら俺を貶めるより、もっと妹を褒めてくれ!」

スコールの如く降り注ぐ聖剣、聖剣、聖剣――― セルジュが放つそれら1本1本の威力は、俺の黒剣の強度を大きく上回っている。拮抗するでもなく、尽く破壊されていく黒剣達。あんな化け物とまともにやり合うには、時間も労力もまるで足りていない。だが、時間を稼ぐだけならこれで十分だ。タイミング的に、そろそろニトおじさんが飛んで来る頃合いかな?

「そろそろ仕留めてあげる」

「げっ!?」

かと思いきや、俺の真横に出て来たのはベルだった。既に魔力による武装、 魔人蒼闘諍(スクリミッジディビリテイト) を装着している彼女は、脚甲より吹き荒れる風を噴出させる事で更なるスピードへと達している。

「 蒼竜巻抉(ヴィントホーゼ) !」

噴出される風が竜巻と化し、ベルの蹴りに合わせて横殴りに俺へと迫る。接する地面を抉り巻き込みながら、竜巻は瞬く間に肥大化。まるで足から伸びる巨大な鞭だ。薙ぎ払われる形なのに、巨人の背ほどの高さがありやがる。間違って触れでもしたら、間違いなく痛いじゃ済まされない大打撃となってしまう。

俺がビクトールであったのなら、抉られるよりも深い地中に逃れる選択肢もあっただろう。が、俺に残されたのは、急いで上空に逃れるか、大鎌で竜巻をぶった斬るかだ。手っ取り早いのは後者だが、何だか嫌な予感がするんだよなぁ。かといって、下手に空を飛ぶ、もしくは跳躍するのもセルジュやエストリアの良い的だ。楽しい楽しい選択の時。同時に働き時だぞ、俺の並列思考!

「せいっ!」

刹那の熟考の後、俺は竜巻をぶった斬る選択を取った。俺が通れる十分なスペースを確保する為、こちらも斬撃を巨大化。振り下ろした大鎌の一撃は、俺に進むべき道を作ってくれる。

「そう!」

「簡単には!」

「行かせられ!」

「ないねぇ!」

「ハァッ!?」

道を作るや否や、四散した竜巻の中からニトのおじさんが、それも何十人という人数が飛び出してきた。嫌な予感の正体はこれか。分身体ニト軍団が竜巻の中心部に潜んでいたのだ。俺は直ぐにこれらがニトの分身体であると察する。だけど、何で 全員(・・) が刀を持っている!? 分身体をいくら増やそうと、本体であるおっさん刀は一振りだけの筈だろ!?

「私の 聖刀(マサムネ) 大事に使ってよね、生還者?」

「おじさんが刀を粗末に扱う男に見えるかい? って事で、尋常に斬り合おうか!」

「っ! セルジュの聖剣を刀に変化させたのか……!」

自由な勇者セルジュは、聖剣の雨による攻撃を出鱈目に放っていた訳じゃなかった。攻撃と同時に、ニトへ得物を配っていたんだ。元がウィルという業物、刀としての等級は最上級に属するだろう。そいつを居合の達人であるニトが使うとなると――― おいおいおいおい、お前ら最高か!?

「掻っ捌いてあげる。 風切りの蒼剣(グラディウスアイレ) 」

「ご、ごめんなさいです! 救済の罰光(セルベイションレイ) !」

ベルやエストリアからも、凄まじい殺気が放たれる。どちらの攻撃もやばいの一言に尽きる代物だ。

「私らの足なら、もうパーズは目前だ。おめでとうケルヴィン、フィナーレは近いよ。 神聖大剣(ウィル・デュランダル) 」

セルジュが手にしていた聖剣の刃に光が集束し、ジェラールの大剣ほどはありそうな新たな聖剣が再構築された。これまで彼女が放ったどんな攻撃より、ただ携えられているだけのあの刃の方がよっぽど恐ろしい。何なんだ、あの魔力量は?

「ありがとうって、お前もまだ隠し玉があるのかよっ! 本当にありがとよっ!」

「当然当然、こちとら世界で一番勇者をやってるんだぜ? じゃ、その病みつきになりそうな笑顔、私が頂くとしようじゃないか!」

前門の居合おじさん軍団、後門の最強勇者セルジュ、真横からは嵐の刃を脚に携えたベルが迫り、真上はエストリアの極太レーゼースコールで埋め尽くされている。誰が見たって絶体絶命、そんな最高の場面だ。

「オーケー、全部まとめて喰らってやる!」