軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第578話 冒険者は大人気ない

「今回の獣王祭は全てが特別形式! いつもであれば魔法を禁止し、持ち込みの装備やアイテムも制限される大会なのですが、本日に限りその全てを解禁致しますっ! 要は魔法を使って良し、ご自慢の武具を見せびらかして良し、卑怯にも回復薬を大量に準備して良しの良し良し尽くしなのですっ! より実戦に近い、あの手この手ありの過酷な戦いになる事が予想されますっ!」

バトルロイヤル形式にも驚かされたが、まさかそこまで許可が出てしまうとは。元から肉弾戦が主体の獣王、プリティア、グロスティーナと違って、俺やシルヴィアとエマは魔法があってこその戦闘法だ。本気の本気を出せるルールにしてくれたのは、大変ありがたい。唯一バッケだけは、どんな戦い方をするのかまだ不明だ。冒険者名鑑で調べるって手ももちろんあったが、まだ戦った事のない奴の情報を自ら仕入れるなんてもったいない事、とてもじゃないが俺にはできなかった。そういう意味で、この戦いに俺はかなり興味津々なのだ。バトルロイヤルだから、誰に向かっても良いんだよな? まずバッケに戦いを仕掛けよう、是非そうしよう決定ぇ!

と、ハイテンションになる一方で、俺の並列思考の1つが極めて当然であろう疑問を提示していた。それはこの闘技場に設置されたこの舞台が、俺達S級冒険者が入り乱れる大乱戦にはたして耐えられるのか? と、いうものである。前回の獣王祭でさえ、数え切れないほど破壊粉砕爆散されたこの舞台だ。一般的な岩盤と比べれば頑丈なのは認めるが、正直心許ないと言うか―――

「―――ちなみに今回使用する試合舞台は、ガウン一の舞台職人シーザー氏渾身の一品です! 先の獣王祭での反省を活かし、S級冒険者同士の戦いにも耐えられる舞台を完成させたと、同氏は熱く語っておられました! シーザー氏は本日も観客席にて、お弟子さんを連れて観戦されるとの事! あれだけ泣かされた後のこの自信です! これは相当期待できるのではないでしょうか!?」

うん、もう未来が見えた気がする。

「ルールの説明を続けます! この戦いに参加される7名は、それぞれ円形舞台の端に等間隔になるよう立って頂きます。そこが開始位置になる訳ですね。目印になるようその場所だけ人数分床が色付けされていますので、お好きな場所に移動してください!」

ロノウェにそうアナウンスされ、俺を含め皆が移動を開始する。7つの立ち位置があるうち、俺は最寄りのポイントへ。並び終わると俺から見て右回りにバッケ、レオンハルト、プリティア、グロスティーナ、エマ、シルヴィアという順番になった。特に深い意味はないけど、両サイドをプリティアとグロスに挟まれなくてホッとしている。狙いを定めていたバッケが隣になったのも、俺にとってはラッキーな展開だ。

「よう、ケルヴィン。お隣さん同士、仲良くやろうじゃないか」

「お、バッケもやる気だな。って、まだ酒飲んでるのか?」

「当ったり前だよ。さっきのアナウンス、聞いていただろう? 持ち込み自由、詰まりは酒の類も問題ないって事さ。とやかく言われる筋合いはないよ! あ、それともアンタも飲みたかったのかい?」

「いや、流石に戦う前からアルコール摂取は不味いだろ……」

「ハハハッ! 酔った状態でも本来の力を発揮できるのが、真の実力者ってものなんだよ! 何なら、この勝負で何か賭けるかい? その方がお互いにやる気が出るってものだろ?」

やけに自信満々なバッケが、樽ジョッキの酒を飲み干しながらそんな提案をしてきた。賭け事かよと俺が呆れる一方で、バッケの右隣に陣取るレオンハルトがその言葉に反応する。

「へえ、なかなか面白い提案じゃない。私にも一枚噛ませてよ」

「おっと、王様はノリが良いねぇ! うちの旦那もそれくらいの気概があれば良いんだけど、ま、あれはあれで可愛いってもんだ!」

「惚気話はプリティアとやりなさいな。でも、そうねぇ…… 折角だし、この戦いで勝ち残った者が、この中の誰かに1つだけ何でも命令できる権利をもらえる、ってのはどうかしら? 結構スリリングじゃない?」

「ほう! 良いねぇ良いねぇ最高だねぇ! ハイリスクハイリターンな賭けは大好物さ!」

「ん、それって食べ放題とかあり?」

「ちょ、シルヴィア!? そんなよく分からない賭けに参加するつもり!?」

「あらん、何か面白そうな話をしているじゃな~い? グロスティーナ、どうするん?」

「これは私達も混ざるしかないと思うわ。あまり度が過ぎる願いになっちゃったらぁ、風紀にも関わる訳だしねぇ。それを食い止めるのもぉ、淑女の宿命よん」

……風紀、格好も含めて守ってほしいなぁ。しかしながら、いつの間にやら皆が参加する流れになっている。勝てばいいだけの話だけど、ここに集ったのは誰もが勝ち残る可能性のある者達ばかりだ。そう簡単な事じゃないぞ。

「ん、宣言する。私が勝ったら、ケルヴィンの家で肉パ」

「肉パ……?」

「ええと、お肉パーティーの略です。エフィルさんの手料理を、思う存分食べたいって事ですね。あ、私が勝った場合も同じ願いで良いですよ」

その場合、確実にメルも一緒になって張り合うと思うのですが。我が家の食費が凄まじい勢いで加速すると思うのですが。

「それじゃあ、もしも獣王たる私が勝ったら…… そうね、ケルヴィンとゴマで婚姻を結んでもらおうかしら? あれだけお嫁さんがいるんだし、今更1人増えるくらい訳ないでしょ? ガウンとの繋がりも強化されるし、ケルヴィンにとっても悪い話ではないと思うの。お義母様となった私が、色々と稼業をフォローしてあげる。フフフッ」

レオンハルトだけは絶対に優勝させてはならない。俺は今、そう決意した。

「も~、そんな重い約束をしたらいけないわん。ケルヴィンちゃん、安心してぇ。私達はそんなお願いしないからぁ。もし私が勝ったらぁ、ちょっとだけケルヴィンちゃんを抱擁させてくれるだけで良いのぉ」

「当然、私もお姉様と同じ願いよぉ。この豊満な胸で、日々の疲れを癒してあげるわん。セラちゃんの手前、そこまで踏み込まないから健全ねぇ」

アウトだよっ! 紛うことなきアウトだよっ!?

「女豹であるアタシの願いは、いつだって単純だ。ケルヴィン、アタシに抱かれなぁ!」

「……なるほど、プリティア達と同じ願いだな」

「おいおい、何初心な事言ってんだい。好き者の癖してさぁ」

駄目だ、どいつもこいつもろくな願いがねぇ…… この戦い、ついさっきの義父さんとの戦い並みに負けられないぞ。

「おおっと、何やら選手間でかなり盛り上がっているようですね!」

「大方、この試合後に行う飲み会について話しているのでしょう。当然、私も参加させて頂きます」

「さっきから酒の事しか話題にしませんね、ネルラス老! どんだけさっさと飲みに行きたいのでしょうか!? まあそんな彼はさて置き、勝敗の付け方について説明します! 敗北と判定されるポイントは2つ! 戦闘不能もしくは降参の意思を示す事、そして舞台からの落下です! 後者は体や衣服の一部が地面や観客を護る結界に触れた時点で場外扱いとなりますので、勢い余って落下する事がないよう注意してください!」

おっと、場外はこれまでの獣王祭にはなかったルールだ。乱戦なる事を踏まえて敗北条件を追加したのか。戦いの展開によっては一気に決着がつくかもしれないぞ、これは。

「客席の皆様も、もう待ち切れない様子ですね! お待たせ致しました! いよいよ、世紀の一戦が開始されます! 開始を知らせる一声を、ゲストのクロメルちゃんにお願いしたいと思います。準備はよろしいですか!?」

「はーい! それでは僭越ながら、始まりの声掛けをさせて頂きます! スゥ――― 試合、開始してくださーい!」

クロメルの可愛らしい合図は、俺にとって声援と同義! やる気と勢いに乗って、ここは先制を―――

「――― 慈愛溢れる天の雌牛(ローズイシュタル) ・ 最終形態(ファイナルエディション) !」