軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第579話 大乱闘

開始合図と同時に大胆な手で打ってきたのは、何とプリティアだった。全身ピンクな大魔神、いや、大女神となって巨大化したのだ。毎日お手入れを欠かさないらしいご自慢の金髪縦ロールが、舞台に施された障壁の上部に当たりそうだ。インパクトは最大級。しかし、サイズとしてはギリギリもいいところ。

「おいおい、それは諸刃の剣じゃないかっ!? 結界に触れても場外負けだぞっ!」

「うふぅん、ご忠告ありがとん。やっぱりケルヴィンちゃんは紳士よねぇ。でもぉ、私ってば時に大胆な女なのよぉ」

瀬戸際を楽しむように、プリティアスマイルが会場の皆さんに届けられる。次いで聞こえて来たのは、観客達の悲鳴にも似た歓声だった。そりゃそうだよ。突然こんなものが降臨したら、そりゃビックリしちゃうだろう。

「ん、乱戦なら一番強そうなところから潰すのが定石。ゴルディアーナ、覚悟して」

「バトルロイヤルだからって、共闘を禁止している訳じゃないです! もとより、私達の願いは同じっ!」

「あらぁん?」

会場の注目を一身に浴びるプリティアに向かって行ったのは、シルヴィアとエマだった。俺の屋敷の食費を荒らすべく、2人は一致団結してこの試合を乗り越えるつもりらしい。1対1では正直辛いであろうプリティアとの戦いも、連携に優れた彼女達が組めば、勝負の行方は分からないものになる。圧倒的サイズを誇るプリティアのあのボディだ。最悪転ばせる事ができれば、場外扱いでリタイアさせられる。

「 氷面世界(アイスランド) 」

シルヴィアもその狙いなんだろう。彼女が魔法の詠唱を終えると、舞台の表面がツルッツルの氷に覆われてしまった。摩擦を極限まで小さくした、スケート場よりも滑る舞台の完成だ。これ、プリティア対策には有効だろうけど、他の俺達にまで被害がくるパターンだな。まあ、俺は 飛翔(フライ) を使うけど。

「ケルヴィン、よそ見とは随分と余裕じゃないかい! それとも、覗き見かいっ!?」

「ホントにお願いするけど、誤解を招く発言は止めてくんないっ!?」

バッケに叱られつつも、俺の名誉の為に反論するべき点はしっかりとしておく。あちらが戦闘を開始したように、俺達も戦いの真っ最中だ。バトルロイヤル形式なんだから、周りの様子を確認したっていいじゃないか。ほら、獣王とかいるんだよ? 周囲に気を配らないと、どんな汚い手を使われるか分からないよ?

「嫌なら態度で示すんだねっ!」

「うおっと!」

赤い軌跡を描く剣を躱す。バッケの振るう剣には竜の鱗らしき紅の小片が刀身に生えており、見るからに竜素材で作られている。アズグラッドの持つ槍とちょっと似ているかな。振るう度に鱗と鱗の隙間から火の粉が舞ってるし、剣が舞台に突き付けられた途端に氷が溶けてる。

溶けるといえば、バッケの足元にも同じ現象が起こっていた。氷の舞台を不用心に踏み込めば、普通はツルッと転ぶだろう。だが、バッケの場合は足裏が舞台と接した瞬間に氷が溶け、その上で地の舞台まで溶かしている。詰まりは剣だけでなく、バッケ自身も溶岩であるが如く、途轍もない高熱を発しているという事だ。下手に触りでもしたら、火傷では済まされない。

「おっとー!? 早くも舞台は氷塗れ! 場所によっては踏まれただけで溶解しています! 大方の予想通り、シーザー氏の面子に亀裂が走っていくぅー!」

ロノウェ、流石にその解説は止めて差し上げろ。そう客席にいるであろうシーザー氏に心の中で合掌しながら、バッケとの取っ組み合いを本格的に開始する。体感として、剣の腕はリオンよりも下。だが肉体としての能力は決して侮れず、赤魔法とは別の特殊な熱を攻撃と防御に組み込んでいる。単体で見た強さなら、シルヴィアやエマよりも強いかもしれない。

「あらぁん? レオンハルトちゃん、こんなところで呑気に観戦? 相手がいないのなら、私がお相手しましょうかぁ?」

「げ、もう見つかっちゃったかぁ…… 上手く隠れられたと思っていたんだけどなぁ~。ひょっとして貴方もお暇? グロスティーナさん?」

「うふふん、女の勘と察しの良さを舐めてもらっちゃ困るわねぇ。この戦いはバトルロイヤル形式。大方敵が最後の1人になるまで、身を潜めて漁夫の利を狙っていたってところかしらん?」

「うわー、そこまでお見通し?」

「貴方、外側は実直そうになっても、中身はそのままだものぉ。経験豊富なお姉様に助言をもらうまでもないわん」

「……なるほどね。流石は私に土をつけた事のある、あのゴルディアーナの弟弟子。感服したわ」

「 妹(・) 弟子だからねぇ? さあ、お喋りはこの辺にしてぇ、私達も楽しみましょうかぁ。 舞台に舞う貴人妖精(バイオレッドフェアリー) !」

あちらでは隠れていた獣王をグロスティーナが見つけ、そのまま戦いに発展したようだ。紫のオーラを纏ったグロスティーナに対し、獣王はどこからか無骨なバスタードソードを2本取り出し迎撃する。

「氷の上ならぁ、私は更に優雅よぉ!」

「いや~、確かに優雅な動きだけど……」

まるでフィギュアスケートをするが如く、氷上をジャンプとスピンを交えながら滑るグロスティーナ。足に固有スキルの毒で作った刃でも仕込んでいるんだろうか? その間にも筋骨隆々のボディより毒を振り撒き、着実に自分のフィールドを形成しようとしている。その動きには無駄がなく、戦術的にも間違っていない。

……が、今ばかりは何とも言えない表情を浮かべているレオンハルトに同情したい。あんなのに自分の周りを颯爽と滑られたら、凄まじく恐怖だもの。

「何だい何だい、またよそ見かいっ!?」

っと、またお叱りと斬撃が飛んで来た。別によそ見している訳じゃない。並列思考の幾つかを、別の戦場にも意識を行き渡らせているだけだ。今のメインはあくまでもバッケである。

「そう言うなよ。戦いは広い視野をもって臨むべきだろ?」

「広い視野? ……あー、ケルヴィン。もしかして、アレもいける口なのかい? いや、アタシも同性はいけなくもないんだが、流石にアレともなるとねぇ…… うん、冒険者名鑑に載ってた二つ名は伊達じゃないね! そういう意味ではアタシの負けだよっ!」

「おい、戦いの意味を勘違いしてないか!?」

バッケは向こうで凄まじい回転ジャンプを決めているグロスティーナを指差しながら、すげぇなアンタと俺を褒め称えた。ここまでくるとホームラン級の誤解である。

「フッ、それなら好色漢なケルヴィンが興味を持つ、私の秘密について少し教えてやろうか」

「違うからな? マジで違うからな? ねえ、俺の話聞こえてる?」

「ぶっちゃけると、アタシの血には火竜のそれが流れていてね。『竜人』って種さ。知ってるかい?」

どうも俺の話を聞く気はないっぽい。しかしながら、面白そうな話題を提供してくれるのは大変ありがたい。仕方ないなぁ、乗ってやるのは今日だけだぞ? 今日だけだからな?

「さあね。どっかで聞いた事があるかもだが、詳しくは知らない。ファーニスの火竜が関係してるのか?」

「進化の時の条件なんか、アタシだって知らないよ。ただ一つ言えるのは、この体は自在に熱を操る事ができるって事だ。ついでに、こんな事とかもなっ!」

「っ!」

バッケの叫びと共に、彼女の体から強い光が発せられる。おいおい、まさか本物の竜の姿にでもなるつもりじゃ――― って、待て待て、今この状況で竜みたいなでかいものになったら!

「見てなケルヴィン! アタシから目ぇ離せなくしてやるからよっ!」

俺が忠告する暇もなく、バッケを取り巻く光は更に強いものへとなっていくのであった。