作品タイトル不明
第577話 獣王特別祭
―――ガウン・総合闘技場試合舞台
「さあさあ、遂にやって参りました! レオンハルト様が主催された新たなる戦い、その名も『獣王特別祭』! 今日この場所に集いしは、いずれも一騎当千万夫不当天下無双の猛者ばかり! これは片時も目を離す事が許されないっ! あっ、実況は私、ガウン総合闘技場アナウンサーのロノウェがお送り致します!」
マイクを力強く握ったロノウェは実況席より熱情を飛ばし、観客達を大いに盛り上げていた。相変わらず凄そうな言葉を続けて、俺を持ち上げに持ち上げてくれる。一方の闘技場は、俺が足を踏み入れるや否や舞台上で行われていたエキシビションマッチが終了して、手際よく場所を空けてくれた。そして闘技場のスタッフよりどうぞどうぞと舞台に上がるのを促され、ああ、この人達もプロなんだなと再認識。俺の登場に合わせて、逆側の選手入場口からも対戦相手らしき人影が見えてきたのだ。本当に手際が良い。その数、全部で6。体格も性別も年齢も千差万別。ただ一つの共通点は皆恐ろしく強い、という事だろうか。
「なーんという事でしょうか!? 『死神』の登場に続いて、『 氷姫(ひょうき) 』、『 焔姫(えんき) 』、『 桃鬼(とうき) 』、『 紫蝶(むらさきちょう) 』、『 鏡面(きょうめん) 』、『 女豹(めひょう) 』が入場! S級冒険者の豪華集結だぁーーー!」
関係者のロノウェは予め知っていただろうに。それを感じさせないアナウンスに、観客達は一段とヒートアップ。無理もない、俺だってそうだ。シルヴィアにエマ、更にはゴルディアーナとグロスティーナ、止めに主催者であるらしいレオンハルト(見知らぬ女性の姿)、実力未知数のバッケときたもんだ。S級に相応しい冒険者を掻き集めて来た! って感じの、昇格式の時以上に豪勢な面子にワクワクのドキドキが止まらない。
「フッ、相当喜んでいるようね、ケルヴィン! 私の算盤も喜んでいるわよ!」
如何にも活発で勝気そうな獣人の女性が、とても嬉しそうに第一声を発してくれた。手荷物は武器ではなく普通の算盤、なぜに算盤?
「……レオンハルト、だよな? その変身した姿に見覚えがないんだが、一体誰の姿なんだ?」
「私の妻の姿よ! 悪巧みなしの真っ向勝負なら、この姿が一番動きやすいのよね。って事で、今日の私は極力真面目に正々堂々戦わせてもらうわね!」
「うん、王妃様は算盤で戦いはしないと思うな」
言われてみれば、どことなくゴマに容姿が似ている。そうか、ガウンの王妃様か。その姿で爽やかに言われてしまうとつい信じてしまいそうになるが、俺は話半分程度に獣王の言葉を流す事にした。油断させて背後を突くのが常套手段な、悪名高きレオンハルトの事だ。たぶんまた悪さをするから信用ならない。ならないったらならない。
「ん、ケルヴィン。今日はよろしく」
「おう、シルヴィアとは昇格式以来の手合わせか。聞いた話じゃ、エマもシルヴィアと同じくらいの実力があるんだって? ……なぜ隠していたぁ!? 焔姫なんて立派な二つ名もいつの間にか貰っちゃってぇ……!」
「そ、そこで怒るんですか!? 本当は二つ名なんて貰って、目立ちたくないんですよ、私は。でも、トラージのツバキ様が見えない力を使ってしまったようでして……」
あー、2人は今、トラージの客将扱いなんだっけ? 良かれと思ってやったんだろうなぁ、ツバキ様。
「「ケルヴィンちゃん、私達もいるわよぉ(はぁと)」」
突如として広がる蛍光色、野太い声と共にプリティアと妹弟子のグロスティーナが、俺の眼前に飛び出して来た。イメージカラーを意識してか、今日の戦闘服であるタイツはピンクとパープルで統一されている。ここで悲鳴を上げなかった自分を褒めてやりたいです。
「も、もちろん忘れていないよ。というか、記憶に焼き付くレベルで忘れられない」
「あらやだぁ、そんなに私達の事を想ってくれていたのん?」
「もん! 口がお上手なんだからぁ! 思わず本気になっちゃいそ~ん」
止めて、冗談でも止めて。
「え、ええとだな、俺の為に参加してもらって何だけど、神と巫女としての仕事は大丈夫なのか?」
「問題ナッスィン! 恋する乙女はね、時に思いもよらぬ力を発揮するものなのぉ。ケルヴィンちゃんは何も心配しないでぇ、このバトルラリーを楽しんでねん」
「そうそう、お姉様の言う通りよぉ。私なんてS級冒険者の昇格を控えてるくらい、心の余裕があるのぉ。できる女は心と器を広く深くするよう努めるものだしねぇ。むしろこれ、栄養補給ぅ? イケメン成分の補給的なぁん?」
「ハハハ、なるほどなぁ……」
どうしよう、頼もし過ぎて泣けてくる。
「くははっ、やっぱS級冒険者は癖が強いねぇ。見てる分には愉快だよ」
酒樽を抱えながら笑っているのは、つい先日に知り合った西大陸のS級冒険者、更には火の国ファーニスの王妃であるバッケ・ファーニスだ。他人事のように笑っているけどさ、バッケの噂も結構なもんですよ?
「特にケルヴィン、アンタ何だかんだでもう子供を作っていたなんてね。流石のアタシも予想外だったわ。うん、アンタは男子の鏡だよ!」
「この面子が並んで、俺に白羽の矢が立てられるとは思ってなかったよ」
「何言ってんだい、アタシは褒めているんだよ? で、ぶっちゃけて言うと、後何人に身ごもらせているんだい? それとも、まだどこかに隠しているとか?」
「どっちもノーだよ! って、そういうプライベートな事をズケズケと聞かないでくれよ……」
「それじゃ、アンジェとはどうなんだい? ん? ん?」
「俺の話聞いてた!?」
ノリが完全に酔っ払いのそれである。
「さあ、舞台にも熱が入ったところで、本日のスペシャルゲストをご紹介します。エルフの里のネルラス長老と、ケルヴィン選手の愛娘であるクロメルちゃんです」
「ネルラスです。バッケ選手、開始から飛ばしていますね。流石は西大陸大酒飲み選手権で私を破った覇者と言えるでしょう。話しながら飲むのは当たり前、まるで呼吸をするが如し、です」
「ネルラス長老、今日はお酒の話は置いておきましょうね! クロメルちゃんは、お父さんに何か一言ありますか?」
「はい。この実況席、とっても見やすくて快適です。パパの勇姿をたっぷりと脳裏に焼き付けたいと思います。あ、でも他の皆さんも応援していますので、全部しっかり見たいと思います!」
「ん~……! 素晴らしい声援、ありがとうございました! このロノウェ、不覚にもくらっと魅了されてしまうところでした! 危ない危ないっ!」
……クロメルが普通に実況席にいるのは何で? アレか、早速獣王の差し金か?
「でもまあ、しっかりとパパの勇姿を見てくれるのなら良し!」
「ケルヴィンちゃん、来年の冒険者名鑑に新たな称号が付いちゃいそうねぇ」
「ん、不可避」
大変正確に的を射た意見、現実になりそうで怖いです。
「それでは獣王特別祭のルールについて説明したいと思います! 今大会は従来のトーナメントではなく、少々ガウンではイレギュラーなルールを採用致しました。気になる? 気になりますよね! ここに集った7人が、どのようにして覇を競うのか!? 聞いて驚けこの野郎共っ! まさかのバトルロイヤル形式だぁーーー!」
「「「「「うおおおぉぉぉーーー!」」」」」
ロノウェの宣言に闘技場が歓声で包まれる。それにしてもバトルロイヤルか、思い切ったルールにしたな。
「ほう、酒で酒を洗うという訳ですね?」
「ネルラスさん、とっても違うと思います。血で血を洗う、ですよ♪」
ネルラス長老、うちの娘に物騒な訂正させないで。