軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第546話 神の一撃

―――黒女神の神域

ディユ・マーレこと、クロトが進化に際して新たに会得したスキルは『絶対不変』。その特性はクロトを害する状態異常やステータス減少効果を無効化するという、妨害系能力に対する究極の天敵とも呼べるものだった。例えばセラが扱う黒魔法には、 折れた剣(ソードブレイク) や 腐食する鎧(アーマーケロウド) など、特定のステータスを一時的に減少させる効果があるのだが、これらがクロトには一切通用しない。それ以外にも猛毒によるHP減少、感電による麻痺の類も同様だ。クロメルの劣化攻撃もその例外ではなく、こうしていくら触れようともその力が発揮される事はない。

「ハァッ!」

「ぐうっ!」

クロメルは両手に聖槍を携え、 致命傷の体現(デッドエンド) とかいう劣化能力を付加させている。今や神の愛槍は真っ黒に染まり、神聖さは微塵も感じられない状態となっていた。しかしながらその威力は、間違いなく見た目以上に邪悪であり、素手で攻撃を仕掛けて来た時よりも圧が凄まじい。まだ触れてはいないが、あの黒槍の切れ味も馬鹿みたいに鋭いんだろう。流石のクロトも、斬撃までは無効化する事はできない。

「フフッ、私にルミナリィとイクリプスを握らせて、まだ対抗しますかっ! 想定以上、いいえ、それでこそ私のあなた様っ!」

「勝手に私物化しないでくれるか!? その論法だと、お前は俺のものになっちまうぞ!」

「それはむしろ、望むところですよ!」

その上でこうして粘っていられるのは、俺とクロトの連携が上手く機能しているからだ。意思疎通、並列思考を繋ぎ合わせ、攻撃面と防御面をクロトと役割分担。そうする事で俺の負担は大分軽減され、クロメルを相手しながら視覚の外から迫る触手にも対応できるようになっていた。頭で考えるというよりも、互いの思考を感じ取って、流れに任せて自然と体を動かしている感覚に近いかもしれない。

クロトの絶対不変の力で更に特筆すべきは、害ではないと認識される補助魔法は普通に受け入れてくれる事だろう。もっと言えば同じパーティ内の仲間限定ではあるのだが、俺の 風神脚(ソニックアクセラレート) などは適用されるのだ。俺の耐久値で結構なガタがくる魔力超過で強化しても、今のクロトならば何の問題もなく使いこなしてくれる。俺とクロトがタッグを組めば、本気で攻撃を打ち込んでくるクロメルにも引けを取らず、真っ向からやりあえる。

加えてクロトは俺のローブの下にも体を薄くして潜んでおり、最終防衛機構としての役割も担っていた。先に述べた打撃の無効化だけでなく、大抵の近接攻撃を弾く『装甲』や全属性を軽減する『全属性耐性』、状況に応じた金属に変化する事ができる『金属化』、それでいて『柔軟』であり、破損したとしても超スピードで『自然治癒』する。要は最強の鎧を着込んでいると同義なのだ。本当に頼りになる相棒である。

「 泡沫の違和(フロスナーダ) 」

「っ!」

黒の聖槍をクロトが横殴りに弾いた際、クロメルが呟くように言い放った魔法を俺は聞き逃さなかった。 衝撃(インパクト) による吹き飛ばしと、 絶崖黒城壁(アダマンランパート) による即席の防御壁を同時展開。もちろん、これらも魔力超過の強化を施す事を忘れない。俺自身も背後に飛ぶ。

飛んだ瞬間、生成したばかりの壁が崩壊した。眼前に広がるは、無数の小さな小さな 泡(あぶく) 。それらが増殖に増殖を繰り返し、前へ前へと膨れ上がっている。かと思えば、壁に接触した泡は弾け、ごく狭い範囲の接触物を巻き込んで消えて行った。まるで消える寸前に、自身を取り巻くもの達を食い散らかしているようだ。1つ1つの範囲は狭いが、前述の通り泡の数は膨大。消える泡よりも増殖する泡の方が多い為、必然こいつらが占める領域もドンドン拡大されていく。

「ったく、クロトに対抗してるつもりかよっ!」

何であろうと口にするその様は、クロトの暴食を彷彿とさせる。但しこちらはマナーもクソもなく、食べる事しか考えていないようだが。平時であれば、クロトは意外と上品に食べるんだぞ!

「いんや、クロトってよりはお前似かっ!」

「どういう意味ですかっ!?」

ご想像にお任せする。しかし、俺の防壁を容易に一飲みにしている辺り、アレを食らえばクロトといえども無事には済みそうにない。劣化の力が通じなければ、耐久ガン無視の高火力で、って判断か? 泡の向こうでは、更に禍々しい魔力の流れが感じられる。 泡(これ) に時間をかけ過ぎると、色々と手遅れになる気がする。

『クロト、周りの細かい処理は任せる。アレを一掃するのに、ちょっとばかし集中させてくれ』

早飲みした回復薬の瓶を前に投げつけ、完全回復した魔力を即座に振り絞る。集束先は黒杖の先、大鎌の刃に当たる部分だ。迫る泡が空瓶に触れた刹那、溜めに溜めた魔力を解放する。

「 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) ・ Ⅵ(ヘキサ) ぁ!」

俺の人生において、最も魔力を吐き出した瞬間だった。巨大化してその形状を保つのもやっとな大鎌から、極大の斬撃が放たれたのだ。尚も増殖を続けようとする泡を丸ごと射程範囲に収め、触れて弾けようと喰らわれようと、斬撃はお構いなしに全てを断ち切り前進する。これならあの方舟も両断できたかもな、なんて事を並列思考の片隅で思い浮かべながら、俺とクロトも斬撃の後に続く。目指すは先はただ一つ、クロメルの喉元だ。

やがて、斬撃はクロメルの下にまで届いていた。黒き聖槍を交差させながら、クロメルが斬撃を受け止める。あいつの表情は今も変わらない。俺と同じそれだ。

「よく御覧になってくださいね! あなた様の本気を受け止められるのは、私だけなのですからっ!」

丹精込めて作った俺の一撃を、クロメルは笑いながら吹き飛ばす。いくら瞬間的な劣化が有効とはいえ、こうも簡単に無効化されるとショックである。だがまあ、ここまでは想定通り。

「随分と大振りだったじゃないか? 実際結構辛かっただろ?」

斬撃を蹴散らしたクロメルは、クロスさせた聖槍を大きく振り抜いた格好となっている。そうしなければ劣化が間に合わなかったと、都合よく解釈。何であれ、これは大きな隙だ。斬撃を追い掛け前進していた俺は、そんなクロメルの目の前にいる。

「―――ええ、想定通りです。聖滅形態へ移行。魔力、装填」

げっ!? と、思わず声を漏らしそうになる。クロメルが払った筈の聖槍が、もう切り返しの段階に入っていたのだ。槍先に見えるは黒き光の塊、メルが使っていた極大ビームの前兆だ。あいつはそれで魔王ゼルをプロポーズと共に消失させていたが、まさかそれをぶっ放した上で、 薙ぎ払う(・・・・) つもりなのか?

「 聖滅する双黒の極光(バーストランサー) !」

褒めて欲しくて堪らない、そんな表情をするクロメル。そんな対面する敵の顔を見て、俺は確信する。こいつならやる、と。現に、もう神の光はぶっ放されていた。クロメルの黒翼が最大限に開かれ、それと同時に両サイドから迫るは神代の超兵器。周囲に自生していた触手も関係なしに、全てを黒き光で呑み込んでいく。俺を挟み込むようにして接近する極大ビームは、俺視点だと世界の終わりにしか見えない。

『……クロト、こんな俺によくここまで付き合ってくれたな。だけどさ、最後にもうちょっとだけ付き合ってほしい。あいつを驚かせてやりたいからさ』

高速念話で語り掛けると、クロトは即座に同意の意思を示してくれた。これを実戦で使うのは初めての事だ。それでも不思議と、絶対に成功するという予感があった。黒杖にクロトを乗っけて、この行為のみに全神経を集中させる。ああ、やれ。やっちまえ。俺達の方が上だと、あの愛すべき馬鹿に示してやれ。

「 超魔縮光束(モータリティビーム) ・ Ⅵ(ヘキサ) ぁーーー!」

その瞬間、クロメルの神域が光で満たされた。