軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第443話 方舟の行方

―――邪神の心臓

俺達が地上で見守る中、白の戦艦はぐんぐんと高度を上げていた。それでもその巨体から発せられる雄大さは健在で、大分離れているここからでも、ハッキリとその姿を確認する事ができた。改めて目にすると、あの戦艦の異様さが尚更際立つ。最早ゴーレムどころの代物ではない。あの圧倒的な風力を引き起こして巨体を浮かす動力は、一体どこから引っ張っているというのか? あれもまた、クロメルの魔力なのだろうか?

エフィルの手を握りながらそんな事を考えていると、その戦艦に向かって炎弾や光弾といった、所謂攻撃らしきものが何処からともなく現れ、多数飛来して行くのを目にする。それも一定方向からではなく、四方八方のあらゆる方向から飛んで来ているのだ。色彩豊か、色とりどりの魔法と言えば聞こえは良いが、そのどれもが強力な威力を保持していた。

「あれ、どこからの攻撃だ? 明らかに戦艦を落とそうとしているよな?」

「邪神の心臓、その周囲を治める悪魔の有力者達じゃないかしら? あれだけ白くて目立つ船が飛んでいれば、嫌でも目にしちゃうもの。領土の近くの空に不審な物体が飛んでいれば、攻撃的な悪魔なら撃墜しようとするのが普通よ。 奈落の地(アビスランド) は戦国時代真っただ中みたいだし、父上が復活した今は色々と苛立っているんでしょ」

「ケルにい、僕達も便乗して攻撃してみる?」

「……いや、止めておこう。ここからじゃ距離があり過ぎる。それに、あれを見てみろ」

攻撃を受けている戦艦を指差し、確認を促す。幾百幾千にも及びそうな大量の魔法砲撃に対し、戦艦側は特に何する様子はない。しかし、放たれた攻撃は戦艦に近づくにつれ、その勢いを急激に落としていき、最後には攻撃が届く事なく消えてしまっていた。いくら物量で飽和攻撃しようとも、いくら全方位から面で攻め立てようとも、結果はどれも同じに終わった。

俺やアンジェを手間取らせた、戦艦から噴出するあの風だ。戦艦は今も強力な風を全面に展開していて、宛らそれらがシールドのように働き、外界からの攻撃を悉くシャットアウトしているんだ。喩え俺らがこの場所から魔法で攻撃しても、あの戦艦に損害を与えるには至らないだろう。

中には自ら空に舞い上がり、戦艦へ直接攻撃を仕掛けようとするモンスターもいた。変貌する前の大空洞にいた、巨大ムカデである。ダハクの支配領域から逃れる為に、大空洞から逃れていたんだろうか? 兎も角、そのムカデは戦艦に襲い掛かろうと飛翔していた。

「あー、遠くから見ると悲惨だな……」

「戦っている時は気にならないけれど、言ってしまえばおっきなムカデだもんね……」

ムカデのモンスターは風に薙ぎ払われて吹っ飛び、後方から迫る魔法の餌食になってしまった。ムカデの体が燃えたり切り刻まれたり凍結したり。部位毎に異なる種類のダメージを負って、そのまま絶命したようだ。あれでもS級下位くらいの強さだったと思うんだけど、数の暴力には逆らえなかったようである。あと、映像的によろしくない。

「攻撃や接近、そのどちらをするにしても、あの風をどうにかしないと駄目みたいだな」

「ん、でもあの船、攻撃されても何もしないね」

「攻撃手段がないとか?」

シルヴィアとエマが尤もな意見を交わしているが、あのジルドラが丸腰の船を作るとは思えない。あの戦艦が今何もしないのは、それらが取るに足らない粗末な事だから、なんだと思う。迎撃や結界を施すまでもなく、あの戦艦はただ飛ぶ為に放出している風だけで、外からの攻撃と侵入を防いでしまう。ならば、相手をする必要などない。クロメルの心境はそんな感じではないだろうか。迎撃するにしたって、奴なら鼻歌交じりに片腕を振るうだけで済ましてしまうだろう。俺達に見せたクロメルの力の一端は、それほどまでに脅威であり、圧倒的だった。

……あと、奴はこうも言っていたな。地獄の天井を破る、何とかの島を顕現させる、だったか? 離れ際に行った台詞なのだが、風の爆音とアンジェを助けるのに必死だったのもあって、よく聞こえなかったんだよな…… ただクロメルは今、その目的を達成する為に動いている。整理しよう。地獄とは、詰まりは 奈落の地(アビスランド) の事。ならば、天井とは……?

「……セラ。 奈落の地(アビスランド) って変な色の空だし、端まで歩けば血の海があるらしいけどさ、一応は地下にあるんだよな? 空を飛ぶにしたって、どこかで天井に行き着いたりするもんなのか?」

「え? あ、うん。その領土の支配者によって空は天気や色彩が変わるけど、ただ1つだけ変わらない事があるって知ってる?」

「それが高さ?」

「正解! 場所に左右されず、ある高さを境に空は壁で塞がれてしまうの。空の景色としてはまだ先があるのに、まるで硝子に道を塞がれるみたいに一面壁になるんですって。大昔に飛ぶのが得意などこかの大悪魔が調べて、そう記録した書物を読んだ事があるわ! ちなみに血の海はどこまで進んでも同じ場所に戻されるみたいで、歴史上海を渡った悪魔はいないわね。私なんて見た事さえないし」

フフンの胸を張るセラ。その大悪魔が事実を記したのかは不明だ。だけど、それが真実だったとすれば、クロメルはその壁を破壊しようとしているのか? 戦艦は未だ上昇を続けている。

「それについては、私からお話し致しましょう」

ふと、空から声がした。臨戦態勢、エフィルのケアを続けるクロト以外の全員が、一斉に声がした方向を向き、得物を構え出した。

「やっほー、さっきぶりだねー! ほら、アイリスも!」

「え、ええと…… さ、さっきぶりですねー」

空には天歩で宙に足場を作って停滞する先代勇者、セルジュ・フロアと、そんな彼女に抱えられたエレアリスが姿があった。もっと言えば、満面の笑みを浮かべながら、友人に声を掛けるかの如く気さくな雰囲気なセルジュと、そんな彼女を真似するかの如く、ぎこちない笑顔を作るエレアリスの姿があった。両者とも何のアピールなのか、頻りに手を振っている。

「「「「………」」」」

そして、我々は反応に困ってしまう。

「駄目じゃないですか、やっぱり…… ああ、恥ずかしい。第一声が台無し……」

「そんな事ないよー。急な登場だったから皆驚いているだけだよー、きっと」

いや、君らさ、再登場するにしても軽過ぎるし早過ぎじゃない?

「え、えっと…… あ、フーちゃんだ! さっきぶりー!」

「ほら、ほら! 心優しいリオンは返事をしてくれたよっ!」

「うう、その優しさが辛いのです……」

ん、んん? エレアリスのキャラが、ちょっとおかしいような? 赤面して両手で顔を覆っているし……

「やあやあ、セルジュじゃないか! やっぱり僕の事が忘れられないんだね! 何か妹がいる気がするけど、僕は優先順位に倣ってセルジュを優先するよ!」

「ふ、私は来ると知っていたよ、レディ。しかし、こんなに急いで来られるとは、やや予想が外れたとも言えますかな? その身が成熟する前に、私に会いに来てくれるとはね!」

「……やはり、素敵だ」

「あ、ええ…… その、だな。セルジュ、君に伝えたい事が―――」

「―――母さん!? 母さんよね! シルヴィア、母さんがいるわ!」

「ん、お母、さん……」

「げ、ちょ―――」

俺が言葉を口にする前に、古の勇者さん方やシルヴィアとエマが飛び出してしまった。それを目にしたセルジュはエレアリスを抱えたまま逃走。体力が尽きるまで行われる全力の鬼ごっこ、ここに開催。