軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第444話 地獄の天井

―――邪神の心臓

真面目な雰囲気を打ち壊しての勇者対勇者の追い掛けっこが開催されてしまったが、クロメルの戦艦は今も変わらず上昇を続けている。もう、それまで戦艦に群がろうとしていたモンスター達の姿もない。外部からの魔法砲撃に撃墜されてしまったのが結構いたからな。しかし、それよりも戦艦が彼らの限界高度以上にまで達してしまったのが最大の理由だ。悪魔の有力者達も攻撃が全く効かないと悟ったのか、いつからかパッタリと戦艦への砲撃も止んでしまった。今はただ、戦艦が悠々と上昇を続けるのみである。

「……地獄の天井。そんなものを破壊して、一体何になる?」

「それについては、私からお話し致しましょう。神でなくなった私であれば、義体による束縛もなく大体の事は説明できるでしょうから」

どこかで一度聞いた台詞を耳にする。振り返ったそこには、シルヴィアとエマに抱きつかれたエレアリスがいた。

「……どういう状況?」

「少しでも軽くする為にと、セルジュに置いて行かれまして…… あう、苦しい……」

「ん、お母さんがいなくならないように、しっかり捕まえている」

「うぅ…… 母さん、母さん……!」

2人にホールドされたエレアリスはやや苦しそうな表情を浮かべるも、何とか耐えて銀と赤の髪を優しく撫で上げていた。やはり2人の母代わりだったシスター・エレンは彼女だったのか? というより、この前転生神様について俺はまだ理解していない。アイリスなのかエレアリスなのか、その辺をハッキリしてほしい。

「あー…… まずはアンタとシルヴィア達の関係と、アイリスかエレアリスなのか教えてくれ。状況が変化し過ぎて混乱気味なんだ」

「良いでしょう。私に答えふっ…… 答えられる事なら、何でもうふっ……」

「シルヴィア、エマ。少しだけお母さんに加える抱きつく力を弱めてくれないか?」

「……? お母さん、これできついの? 前ならこれくらい余裕そうだったのに?」

「母さん、やっぱり不治の病だったの!? それでステータスが低下して、弱体化して!?」

話が一向に進みそうにないので、2人の口に 無音風壁(サイレントウィスパー) を仕掛ける。今君らのお母さんが諸々を説明してくれるから、大人しくしなさい。あと、メルフィーナと同様にクロメルに力を吸われているだろうから、腕の力も程々にしなさい。そろそろお母さんがダメージ負うぞ。

「ありがとうございます。危うく死んでしまうところでした……」

「貴重な情報提供者に、こんな事で死んでもらったら笑うに笑えねぇよ。それで?」

「ええ、まず私とシルヴィア、エマとの関係ですが…… 私がシスター・エレン、孤児院を設立した育ての親で間違いありません。尤も、性格や仕草はアイリスを演じていた時のものではありましたが」

「まあ、その辺は予想していた通りだな。ただ、そのアイリスやらエレアリスやらがごっちゃになっているのはどういう事だ?」

「そうですね、どこからお話しすれば良いものか…… 私のこの体は 私(エレアリス) の魂を転生させ、アイリスの姿を模して造られたものです。ですから肉体的にはアイリスのものに、精神的にはエレアリスになっているとお考えください」

分かったような、分からないような…… 本当はエレアリスが転生したんだけれども、クロメルが転生術で色々と記憶を弄って自分がアイリスだと思い込ませていたって事か? ……となると、クロメルも転生術が使えるって事なのか。厄介な。

「私が使徒として行動を始めたのは、もう随分と昔の事です。表向きは 私(エレアリス) の復活を目論む代行者として。実際には黒いメルフィーナ、クロメルがこの世界の神となる手段として。ですが、その全ての時間を代行者のアイリスとして過ごした訳ではないのです。アイリスは神云々の話を抜きにすれば、本当に心優しい聖女でしたからね。彼女を演じる事となった私は、無意識のうちに彼女がそうするであろう行動を取るようになったんだと思います。使徒としての活動のない、ほんの僅かな空き時間に……」

「ん」

「……母さん?」

む、やはりシルヴィア相手だと魔法の効果が薄いな。もう 無音風壁(サイレントウィスパー) が解除されてしまっている。俺がそう認識すると同時に、再びエレアリスが2人の頭を撫でた。

「それがシスター・エレンとして、お前が孤児院を立ち上げた理由なのか?」

「恐らく、という回答になってしまいますが。少なくとも私とアイリスは、この子達を見捨てる事ができませんでした。温かな愛情をもって育て、我が子同然として接する。どちらの私がそうさせたのかは分かりませんが、そうしたかったのです。この子達は本当に素直に育ってくれて、歪んだ存在である私には過ぎるくらいに立派になりました。孤児院の子達に会えた事だけは、クロメルに感謝しなければなりません」

「将軍になったよ」

「副官になりました」

「う、うん…… そうだな」

自慢げに言うシルヴィアとエマのテンションが、いつもと違う気がする。この子ら、エレアリスと会ってから精神レベル落ちてないかい? 完全に母親に甘える子供モードだ。

「母さん、何で手紙だけ渡していなくなったんですか? 私達、とても心配したんですよ?」

「将軍の仕事を止めて、大陸中を飛び回った。友達も悲しませてしまった……」

「え、ええと、使徒としてのアイリスが覚醒し始めたと言いますか、お別れを言う暇もなかったと言いますか…… す、すみません! 言葉足らずでした!」

その結果があの手紙だった訳だ。エレアリスとしては探させないように出したものだったが、読んだ方からすれば探せと言っているような内容のアレだ。今の釈明もそうだが、どうやら先代の神様は説明するのが下手らしい。そもそも、使徒とかを深く知らないシルヴィア達にそんな説明したって分かる筈がない。

「つまりだ、シルヴィア達の母さんはあの舟に乗っている悪い神様に操られていたんだ。こんな場所に来ちゃったのも操られていたから、以上!」

「え、ええっ? そんな適当な……」

「何それ、母さんが可哀想!」

「ん、討伐案件。あの舟落とそう」

「………」

今のシルヴィア達なら、これくらいの雑多な説明で十分なのである。彼女達が欲しいのは大雑把でも何でも良い、分かりやすい明確な理由なんだ。

「取り敢えず、アンタがエレアリスだって事は分かったよ。あー…… 紛らわしいからエレンで良いか?」

「あ、はい。構いませんよ。この子達と生活していた頃は、そう呼ばれる事の方が多かったですし」

「それじゃあ、エレン。次の質問なんだが―――」

―――ズゥン!

俺の言葉が突如鳴り響いた轟音に掻き消される。音の発生源は遥か真上、クロメルの戦艦からだった。

「……舟が天井に行き着いたようですね」

「最初の質問に戻るけどさ、 奈落の地(アビスランド) は地下世界なんだろ? 天井が破壊されたら危険じゃないのか?」

「いえ、悪魔の世界に直接的な被害はありませんよ。元々 奈落の地(アビスランド) はこの世界の大陸の1つ。神と邪神が争った遥か太古の神話時代に、この地は邪神を封印する大地として、邪神に組した者達と共に封印を施された場所なのです。天井の破壊とはつまり、封印の破壊。クロメルはこの大陸を、再び現世の世界に呼び出そうとしているのです」