軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第426話 最新鋭機

―――邪神の心臓・ 聖杯神域(ホーリーチャリス)

エフィルが射った 極炎の矢(ブレイズアロー) が一直線にジルドラへと飛来する。ガチャリと銃剣を構えるジルドラは、フンと鼻先であしらいながらこれを迎撃。赤き弾丸はまたも灼熱の矢と衝突し、ジルドラの工房内で激しい爆発を巻き起こした。

『どうやらあの筒先から、高速で魔力の塊を発射するようですね。私が矢を放った直後に対応している辺り、発射まで時間を要さず、威力も同等――― これより、弓につがえる矢は全て『蒼炎』を付加致します。ジェラールさん、飛び火にお気を付けください』

『ワシにはエフィルから貰い受けた『 火竜王の竜鱗外装(クリムゾンロガリア) 』がある! 気にせず全力で撃てぇい!』

『承知致しました』

火神の魔弓(ペナンブラ) の炎が赤から蒼へと転換、魔力の全てを火力へ。エフィルが持つ矢の矢尻に、凄まじいまでの濃縮された蒼と翠の魔力が纏われていく。

「ほう、呆れるまでの魔力量。自らの炎での自滅など毛ほども気に留めぬ胆力、いや、火竜王の加護が働いてこその戦法か。面白い」

「じっくり分析とは、随分と余力があるようじゃのう!」

ジルドラへと接近するジェラールは、もう直ぐそこまで迫っていた。携えた魔剣ダーインスレイヴの刀身には、既にこれまで吸収し、貯蔵してきた魔力を解放させている。全てはこの時の為に、そう思わせるほどの力が呻り、その剣先がジルドラへと向けられている。だが、ジルドラはジェラールに銃剣を向けようともせず、ただ口元を歪ませた。

「当たり前だ。ここは我が工房、歓迎の準備など疾うにできておる」

「―――っ!」

ジルドラの背後から、巨大な影が2つジェラールの視界に映った。でかい。そのどちらも、途轍もない大きさを誇っている。

『……トライセンで戦った巨兵ほどはあるか』

無駄に広いと思われた工房の広大さには理由があった。ジェラールが見上げるほどの巨体、これらを収納し、実際に動かせるスペースを確保する為のものだったのだ。1歩進めば地響きが轟き、2歩目にはその姿の全容が明らかになる。

ゴーレムというよりは、機械兵と喩えた方がしっくりくるデザインの装甲。片やブルーレイジと同色のメタルブルーが施された、四つ足を持つ人型。俗にいうケンタウロスを模したマシンであった。右手に塔の空想させる大槍を、左手には重厚なる盾が装備されている。

もう片方は巨体ではあるが、ブルーレイジと比べれば細身に感じられる灰色の人型。こちらは武器らしきものも持っていない。しかし、その右手だけは大きく肥大化し、背には翼のような機材が取り付けられている。

「これらはブルーレイジを始めとした試験機のデータを踏まえ、我が技術と異世界の英知を集結させた最新鋭機『シアンレーヌ』と『デゼスグレイ』だ。ジェラール、試験機と呼べぬ代物ではあったが、生前の貴様には私のゴーレム達が何機か世話になっていたな。その礼だ、とくと味わうがいい」

ジルドラの言葉の直後、2機のマシンが一斉に動き出す。それまでの歩みとは異なり、四つ足をやや屈んで見せたかと思われたシアンレーヌ。気が付けば、そのケンタウロスは眼前にいた。シアンレーヌはその図体でありながら、1回の跳躍で、それも目にも止まらぬ速さで移動していたのだ。

「ぬうっ!」

騎槍を構えた突撃を繰り出され、咄嗟に盾で防御するジェラール。 大戦艦黒鏡盾(ドレッドノートリグレス) に施された物理反射能力を使う暇などなく、その肉体の力のみで堪える。足場を激しく損傷させながらも、ジェラールは攻撃の第一波を防ぎ切り、シアンレーヌはそのまま横を通り過ぎて走り続ける。

『エフィル、でかぶつが行ったぞ!』

『見えています! それよりも、次が来ますよ!』

シアンレーヌの攻撃を防いだのも束の間、今度は上空よりデゼスグレイが詰め寄っていた。背の羽から青白い光の粒子を発生させながらかなりスピードで、それも非常に滑らかな動作で飛来している。飛行能力が余程高いのか、ジェラールの斬撃や蒼炎の矢が放たれても、最低限の動きで全てを回避。火竜王が見せた飛行術と似ているが、その正確無比な能力は生物のものとは思えない。

同時に、エフィルはシアンレーヌにも攻撃の矢を射る。工房内に設置された気味の悪い液体を内包するガラスケースを、ガランガランと蹴り壊しながら突貫するシアンレーヌは、盾を突き出してそれに応じた。

―――カァッ!

シアンレーヌの眼前で、眩くも多彩の色を発する光が爆発。彼のゴーレムが持つその盾は、恐らくは刀であるニト自身が収められていた鋼鉄の鞘と同様の素材で作られたものだ。叩こうとも曲がらず、斬ろうとも傷1つ付かない代物。だが、絶対に壊れないという訳ではない。現にその盾はジルドラによって加工され、現在の形を成しているのだ。魔力を火力に全振りし、母ルーミルの魔力宝石による強化を施したエフィルの矢は、シアンレーヌの腕ごと盾を吹き飛ばす。

『左腕は爆砕しましたが…… 戦闘不能には至っていないようですね』

『破壊できると分かっただけでも勲章もんじゃ! 彼奴の片腕もまた、同じ材料じゃろうて!』

矢を射ったエフィルは、この時 多首極蒼火竜(メルトパイロヒュドラ) を生成して騎乗し、天井部付近に陣取っていた。その千里を見据える美しい緑の瞳で、ジルドラの様子を含めた戦場の動きを把握する為だ。シアンレーヌの槍が届かないであろう距離を保つ目的も含まれるが、優先すべきは何をするのか予想のつかないジルドラの動向だ。全ての敵を注視しつつ、エフィルは常に戦況を意思疎通でジェラールへと渡す。これにより、ジェラールの視界外で起こっている出来事も情報として共有できる。

ジルドラは今のところ2機のマシンに戦いを任せるばかりで、銃剣をジェラールやエフィルに向けようともしていない。まるで重要な研究を観察しているかのように、ただただ戦いを眺めているだけなのだ。ただ、頻りに口を動かして何かを呟いているようだった。

「エルフの炎なら―――の破壊も可能―――別のプロセスで―――」

―――グォン。

エフィルの頭上、天井部からそんな機械音が聞こえてきた。何事かと見上げると、工房の天井が物音を立てながら左右に開かれていく。天井の先がまた別の空間となっているのを確認したその時、ポツリポツリと顔に水滴が付着したのを感じ取った。

『これは、雨?』

そう思った直後には、雨は激しく叩き付ける量となり、最早それはスコールといっても差し支えないものになっていた。滝の如く降り続ける水は視野を狭め、一寸先も見通せない状況を作り出してしまう。

『いけない……!』

エフィルにとって最悪なのは、このスコールによって炎の威力が弱まるに止まらない。雨の中でも燃え盛る炎の光は、どこにいるのか分からない敵に位置を知らせる事に繋がってしまうのだ。

『エフィル! 鳥の翼が出す光がそっちに向かったぞ! 位置を送る! っと、今度はワシに人馬か!』

『ありがとうございます……! そちらの盾は破壊していますが、油断なさらずっ!』

視界の悪い工房の中で、剣戟が鳴り爆発が続く。今度は相手を変えての戦いとなり、一進一退の攻防が繰り広げられた。

「さて、そろそろ工房全域に満ちる頃合いか…… 我が最新鋭機と互角なのは素直に称賛しよう。だがな、あまり時間を掛けていられる場面でもないぞ、ジェラールよ?」

ジルドラの呟きは、雨の音に掻き消された。