軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第425話 仇

―――邪神の心臓・ 聖杯神域(ホーリーチャリス)

「どっ…… せいっ!」

―――ガシャーン!

鋼鉄の扉を蹴り破ったのはジェラールであった。そしてその背後に控えるは、矢先に燃え盛る炎を灯した 火神の魔弓(ペナンブラ) を持つエフィル。セルシウス家で古参に入る2人も、セラやアンジェのように結界内を彷徨っていたところを合流していたのだ。

しかしその探索方法は真逆を爆走していて、怪しいところがあれば粉砕・爆撃して自ら道を作るといった、大変大胆な行動を取っていた。

「うーむ、ここも外れのようじゃな。行き止まりじゃわい」

「でしたら、更に壁を破壊していきましょう。上手くいけば、結界に歪みが生じるかもしれませんし」

「よ、良いのか?」

「良いのです。私達の第一の使命はご主人様から離れない事。ご主人様との連絡が取れない今、こちらから打って出るのが最上です。さあ、壁を破壊しましょう!」

普段お淑やかなエフィルであるが、ケルヴィンが絡むと暴走気味になってしまう。今が正にその状態であった。そんな孫の我が侭をついつい聞いてしまうのが孫煩悩なジェラールで、ここに来るまで言われるがままに破壊を繰り返していたという訳である。

(しかし、このままではこの場から脱却できぬ気もするのう。エフィルの王を想う気持ちは分からないでもないが、そろそろ別の手立てを考えんと……)

ズガンズガンと容赦のない連続爆撃を繰り出すエフィルに、流石のジェラールも注意しようかと考え始める。しかし、そんな時―――

「ジェラールさん、大きな空間に出たようです」

「……マジで?」

―――道は開かれていた。忘れがちだが、エフィルは『悲運脱却』によってかなりの幸運を授かっている。こういった力押しも、正解を引き当てる要素に繋がったりするのだ。

「むう、かなり広い空間じゃな。それに、今までと空気が違うわい」

「はい。これまでは魔力をふんだんに取り入れた迷宮といった感じでしたが、この場所は実に無機質…… 鉄と油、薬の臭いで充満していると申しましょうか」

ジェラールとエフィルがその中を覗き込むと、その穴は空間の天井部に繋がっていたようだった。空間の中は薄暗く、されど広大。中に緑色の液体が入ったガラスケースが並び、用途不明の機械が雑多に置かれていたのだ。明らかにこれまでの世界と乖離した場所である。

「兎も角、何らかの重要な施設に間違いはなさそうじゃな」

「そうですね。壊しましょう」

「えっ?」

ジェラール、耳を疑う。如何に屈強な武人といえど、年齢的にはお爺ちゃんもお爺ちゃん。そういえば最近耳が遠くなった気もするなと、まずは自らの耳を疑った。

「すまぬがエフィル、今なんと?」

「壊しましょう」

「ちょ、ちょっとそれは早計ではないかのっ!?」

「 破爆白(エクスプロード) ―――」

ジェラールが制止するよりも早く、エフィルの矢が白く輝き出していた。

「―――無礼なる侵入者よ、不躾な行動は慎んでもらおうか」

「「っ!?」」

暗闇の向こうから、声と共に何かが飛来した。エフィル達は咄嗟に穴から飛び降りてそれを回避。直後、さっきまで立っていた穴の付近で大きな爆発が巻き起こる。威力とその向かう方向からして、爆発の余波は通路にまで届きそうだ。躱す方向を誤って後方にしていれば、手痛いダメージを食らっていたかもしれない。

「それで、侵入者の諸君。私の工房に何の御用かな?」

「貴殿は……」

闇の中から、白衣を羽織った男性が現れる。片手には刃に筒が付属された異質な剣を携えており、その筒の先端からは薄く煙が吹いていた。恐らくはあの道具を使って攻撃されたのだと、2人は瞬時に読み取る。その剣はこの世界において周知されていない形状を取っているが、もしケルヴィンかリオンがこの場に居合わせていたとすれば、銃剣、或いはガンブレイドと喩えていた事だろう。

だが、それよりも注目すべきは白衣の男の顔だ。2人がその顔を見たのはこれが初めての事である。しかし、それでもジェラールはその顔付きに見覚えがあった。かつてトライセン城にて一騎打ちをし、共に戦った戦友、ダン・ダルバの面影がしっかりと残っていたのだ。

「貴殿はもしや、ジン・ダルバ殿ですかな?」

体はそうでも中身が違うという事は、ジェラールもエフィルも分かっている。しかし、元々の体の持ち主の確認はしておかなければならない。場合によっては後に、ジンの生死をダンに報告しなければならないからだ。

「時間が惜しいな。諸君らが欲する情報を端的に答えてやろう。この体の持ち主は鉄鋼騎士団の副官、ジン・ダルバ。そして私の名はジルドラという者だ。これだけ情報を与えてやれば、もうやる事は1つであろう? 今は亡きアルカールの騎士、ジェラール・フラガラック。そしてルーミルの娘にして我が娘でもあるエルフ、エフィルよ」

「「……っ!」」

全てを見通しているかのように、ジルドラの言葉が突き刺さる。結果として、小さくない衝撃が2人を襲った。

「貴様、なぜワシの名を、それもファミリーネームまで……?」

「私としてもとても遺憾です。なぜ貴方が父になるのでしょうか?」

「時間が惜しいと言うに、質問ばかりだな。まあいい、答えてやる」

溜息の後に、ジルドラは2人を見据えたまま口を開く。

「ジェラールについてはその声に聞き覚えがあったのでな、記憶を掘り起こして思い出したまでの事。アルカールの酒場で得意気に英雄譚を語る輩がいた、田舎騎士団の長の地位にあった、これだけでも十分な情報だ。特定さえすれば、今でも鮮明に覚えているよ。特に、お前は最後まで抵抗していたからな。娘の亡骸をその手に抱いたまま、な」

「貴様っ!」

「ふん。次はなぜアルカールを滅ぼしたか、という質問でもするか? その口で聞けば教えてやらない事もないぞ?」

「要らぬっ! もう、ワシの心は貴様を倒す事で合致しておる!」

ジェラールから放たれる怒気がどんどん膨らんでいく。しかし、それをエフィルが鎮めるような事はなかった。少なからず、エフィルからも同様の感情が漏れていたからだ。

「その狂犬が飛び出さぬうちに、エルフの娘についても話しておこうか。お前がどこまで母を理解しているのか、それは私の知ったところではない。だがな、今のお前の容姿はルーミルに瓜二つなのだ。トライセンにて一戦交えた際、私は娘であると確信した」

トライセンでの一戦。蒼き巨大なゴーレム、ブルーレイジと戦った時の事だ。そしてジルドラの話は、エフィルの母であるルーミルに移る。

「かつて、ある研究で私は竜王の血を必要としていた。ちょうど手頃な所に頭の弱い火竜王がいたのでな、少しばかり細工をして血を頂戴したのだ。すると奴は怒り狂い、周辺のエルフが住まう森を所構わず焼き払った。恐らく、その時の私の姿がエルフであったからそうしたのだろう。全くもって短絡的な事だ」

「……火竜王には、然るべき罰を与えました」

「そうか、気が晴れたか? どうでもよい事ではあるがな」

「………」

「ルーミルはその災厄を回避する為の、エルフ達が火竜王に捧げた供物であったのだ。彼女は竜に連れ去られ、奴の巣へと運ばれた。竜王に狙われていた私は奴を監視していてね、そこで私はとある実験を思い付いたのだよ。白魔法には呪いを裏返し、加護に変える魔法がある。ならば、生まれながらにして強力な呪いを授かった者を量産すれば、それは強力な生命体になり得るのではないかと」

ジンの、ジルドラの口が醜く歪んでいく。

「生まれながらにして恨みを背負った子を作る為、私は奔走した。エルフの姿でわざと殺されかけ、予め用意しておいた炎に耐性を持つ人間に体を移したのだ。抜け殻となったエルフの死骸を見つけた竜王は、暫く余韻に浸っていたよ。その間に新たな体を得た私は奴の巣へと忍び込み、ルーミルを攫った――― さて、これ以上の説明は必要かな?」

「……いえ」

「お前がハーフエルフである理由、考えた事はあるか? エルフと人間との間に生まれる種族だ。子さえ生まれれば、母体に用はなかった。感謝を込めて火竜王に送り返してやったよ。その後の事は知らないし、尤もその子も呪いに馴染むまでコストが掛かり過ぎるのもあってな、適当に捨てた覚えが―――」

爆発音が鳴り響いた。エフィルが射った矢を、ジルドラが銃で迎撃したのだ。

「―――もう、説明の必要はありません。それに、やはり貴方は私の父ではない。私はもうハーフエルフではなく、ハイエルフです。父の血は捨てましたから……!」

「そうか、興味深いな」

ジェラールが前進し、エフィルが次なる矢をつがえた。