軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第422話 漆黒竜の帰還

―――邪神の心臓

神竜ザッハーカの最後の足掻き、神の 息吹(ブレス) での対抗。しかし、勝ち目など元からありはしなかった。数秒と拮抗する事もなく、神柱の一柱は葬られてしまったのだ。轟く 息吹(ブレス) が全てを無に帰した後、バラバラと地上に降り注ぐ肉片。それすらも許さないとボガの体から 追躡砲火(ヴォルテルム) がミサイルとなって放出され、対象の残骸を追撃する。数度に渡る爆発。結果として、空中には塵の1つも残っていなかった。

「終わってみれば呆気なかったな、トリスタンの奴」

「ボガ、油断しない。トライセンの時も、あいつは呆気なく死んでいった。死んだ振りをして、不意に出て来るかもしれない」

「ああっ? おでらの全力 息吹(ブレス) を食らったっていうのにか? 流石に無理だろ。それっぽい気配もねぇぞ」

「いえ、その可能性はゼロではありません。かつてトリスタン将軍は、配下であるゴーレムの特性を利用した召喚術を使い、ケルヴィンさんから逃れた経験があります。仮にその時と同様の力を持った者が配下にいるとすれば、生き長らえていると考えても不思議ではないでしょう。それに、残りの神柱はまだ戦意を持っているようですので」

油断なくロイヤルガードに周囲警戒をさせるシュトラ。トリスタンの気配らしきものは感じられない。ボガとムドファラクもそれに続くが、やはり発見する事はできなかった。トリスタンを追い掛け、邪神の心臓東部から大分西に進んでしまった。真下は大空洞の真っただ中、これ以上探索するのならば、降下してくまなく探すしかない。

「いねぇな」

「死んでいるに越した事はないのですが…… 常に最悪を想定して動くとしましょう。まず処理すべきは残った神柱ですね」

「まだロイヤルガードと戦ってる?」

「ええ、付かず離れずで時間稼ぎをしています。ここで竜の神柱を倒してしまいましたから、恐らくは強化されている筈。急ぎましょう」

ボガが翼と背の噴火口から炎を燃やし出し、ムドも高速飛行の体勢に。シュトラは兄のアズグラッドがそうしていたのを真似、自身を魔糸で固定。飛行による衝撃に備えるのであった。しかしそんな時、不意に念話が届く。

『おっと、その必要はないぜ! たった今、この俺様が蛇と虫を討ち取ったからな!』

『えっ?』

その声は久しく聞いていないものだった。手紙だけを残して忽然と姿を消した、どこか行動原理が主に似てしまった、彼の声だ。

『待たせたなっ! このダハク様が帰って来たぜ!』

闇竜王の息子にしてケルヴィンの第一の舎弟、ダハクである。ロイヤルガード達のところにいるのか、姿は見えない。

『ああ、おかえり。やっと帰って来たか、この不良息子め』

『どんだけ時間掛けてんだ、って感じだよな。あのヤンキー』

『出迎えの第一声がそれかよ…… てめぇらちょいと調子に乗り過ぎなんじゃねぁか? もとはと言えば、光と火は俺が目指す道じゃなかったんだ。だから仕方なく! てめぇらに譲ってやったんだぜ?』

『世迷いごとをほざいてる。あの時、最も速く私が止めを刺した。ただそれだけの事』

『火竜王を倒す時だってそうじゃねぇか。そもそもダハクは肉食えねぇし。端っから除外されてるし』

『ふん! 竜王になっても本質を掴めねぇとは、情けねぇ連中だ。肩書が泣いているぜ!』

『『『……ぶっ殺!』』』

久しぶりの再会に竜ズは喜びを隠し切れないようだ。再会した子犬達のように、ただただじゃれ合いたい。ダハク達はそんな心境なのだろう。ただ、このまま放っておくと 奈落の地(アビスランド) がやばい。

『はいはい、見えない相手と喧嘩しないでください。ロイヤルガードで神柱の停止を確認しました。まずは合流しましょう』

『その声、シュトラか? 何だ何だ、すっかり大人びちまったな。記憶を取り戻したのか?』

『そんなところです。私がロイヤルガードで先導しますから、付いて来てください』

『おう、頼んだぜ!』

指から出でる魔糸を操るシュトラが、護衛のゴーレム達に案内をさせる。魔糸は引き寄せられるようにシュトラの指先へと戻って行き、ロイヤルガードの移動速度を僅かながらに上昇させるのであった。ボガがその様子を珍しそうに眺めていると、東の空に影らしきものが見えてきた。

影は小さなものが複数、大きな影が1つだ。複数あるのはシュトラの人形だろう。となれば、残る大きい影はダハクになる。

「どうよ、一新した俺の偉容はよ!」

それを一言で言い表せば、闇であった。巨大な竜らしきシルエットはうっすらと目に映るのだが、その周囲に暗き闇が広範囲に広がって、ダハクの姿を隠してしまっている。その闇は隣を飛行するロイヤルガード達にまで行き届き、黒の鎧が溶け込んで更に見辛い。

「ん、闇?」

「ダハク、闇竜王を継いだの? 親孝行とか意外……」

「馬鹿、ちげぇーよ! これは闇じゃなくて黒土の粉末を漂わせてるんだよっ! 俺は歴とした土竜王、進化する事で得た新たなスキル『黒土滋養鱗』を使ってんだ! どうだ。親父の姿から発想を得てやってみたんだ。かっけぇーだろ?」

「そ、そうですね。自然の香りが漂って良いと思います」

「何だ、闇じゃなくて土なのかよ。そう考えると格好良さは半減だな」

「道理で土臭いと思った。納得した」

「よし、ムドとボガはそこに並べ。順番にその喧嘩を買ってやる!」

ダハクの感情の起伏に繋がっているのか、黒土の闇が激しく唸り出す。隣のロイヤルガード達がかなり迷惑そうにしている。

「あのう、喧嘩は後で―――」

「ダハクは黙ってフルーツだけを作っていれば良い。この優良農家……!」

「い、今更褒めたって遅いんだぜ? 俺はキレちまったからよぉ」

「ですから、それは事を済ませてから―――」

「肉を食わない竜は半人前だぜ? 野菜だけじゃなく、好き嫌いしないのが一番だ! エフィル姐さんもそう言ってた!」

「おま……! 姐さんを引き合いに出すのは卑怯だろ! それを言ったら、ムドだってデザートが主食じゃねぇか!」

「わ、私は食べようと思えば食べれる。ただ、甘味を優先しているだけ」

「それを好き嫌いしてるっつーんだよ!」

「……スゥ」

言い争いが止まらない竜ズの喧嘩。こうなった3体は、主のケルヴィンが止めるかエフィルが叱るか、彼ら以上に格上とされるジェラールやセラが間に入らない限り終わらないのだ。そんな彼らの様子に、シュトラは静かに息を吸い込んだ。

「―――だから、喧嘩は止めなさいって言ってるでしょ!!!」

「「「びくっ!」」」

邪神の心臓全域に響き渡るような大声。それは信じられない事にシュトラの口から発せられたもので、なぜか彼女は幼き姿に戻っていた。そして、見るからに怒っている。プンスカしている。

「ねえ、私言ったわよね? 今は喧嘩をしている場合じゃないって。ケルヴィンお兄ちゃん達は使徒と戦っている最中なのよ? その辺分かってるの? 馬鹿なの?」

幼き姿に戻っても、王者としての威圧感は変わらない。むしろハッキリと怒っているのが分かる辺り、撒き散らす重圧は強まっていた。

「あ、いや…… それはこいつらが……」

「馬鹿なの!?」

「……はい。馬鹿ッス。すんませんッス……」

土竜王、少女の怒りに心折れる。

「ムドファラクもボガも、久しぶりに会えて嬉しいのは分かるけど、もう竜王なんだから自制心を持ちなさい! もう――― 馬鹿なのっ!?」

「ご、ごめんなさい……」

「すんません……」

「謝る暇があるなら、周囲探索! 手を動かす足を動かす翼を動かす! 時間は有限、早くっ! エフィルお姉ちゃんに言い付けるよっ!」

「「「は、はいっ!」」」

こうして竜王達による必死の捜索が開始された。