作品タイトル不明
第423話 蔬菜帝の力
―――邪神の心臓
「トリスタンのクソ野郎を探せば良いんだな? よっしゃー! そんなら、まずは生まれ変わった俺の力を見せてやりますかっ!」
意気揚々と大声を張り上げたダハクは大空洞の中心部、その上空に留まって腕をを広げ始めた。
「ダハク、何をする気?」
「まあ見てなって。今の俺にかかれば、この程度の瘴気何でもねぇからよ」
ダハクの周囲を覆っていた闇、もとい黒土の粉末が、激しく震えながら大空洞へと舞い落ちていく。黒土はダハクの鱗から飛散しているもので、よくよくダハクを観察してみれば、うっすらと鱗の表面から絶えず黒土を放出されているのが確認できた。
「この黒いのは見た目が格好良いだけじゃねぇ。『黒土滋養鱗』を粉にして振り撒けば、どんな土地だって俺の体で育てたみたいに元気な植物が育つんだ。言わば、大地を甦らせる活性剤みたいなもんよ」
「わぁ……!」
ダハクの黒土は瞬く間に大空洞の全方向へ、全深域へと降り注がれていった。あれだけの黒土を散布させたというのに、ダハク自身は全く意に介していないようだ。シュトラはセラの血のようなものなのかと考えつつ、その幻想的な光景を目に焼き付ける。
「土台が完成したら、お次は種蒔きだ。土竜王の旦那と 奈落の地(アビスランド) 中を駆け巡って勝負した、野菜コンクール5連勝負。その時に採取して集めた屈強な植物達の特性を、俺の『異種交配』で品種改良! こいつは朱の大渓谷で使った浄化作用の比じゃないぜ? 昔エフィル姐さんが嘆いていた、某S級冒険者が作っちまったダークマターだって解毒しちまう代物よ!」
「ええと、最後の比較対象の例えがよく分からないけど、兎に角凄いのね?」
「そう、兎に角凄い!」
誇らし気なダハクは、両腕を腰の辺りからゆっくりと上に上げていく。すると、見通しの悪かった瘴気が途端に薄れていき、透き通った空気の奥に緑が点在するのが見えてきた。信じられない事に、どのような雑草さえも生えない死の大地とされていたこの邪神の心臓に、植物体がどんどん生い茂っているのだ。
「ほ、本当に凄い……! あの植物達が、大空洞の毒気を浄化しているのね?」
「土に栄養さえあれば水も必要なく育っちまう『不死食草』、それに最強の解毒植物達を掛け合わせたからな。 奈落の地(アビスランド) や地上のどこを探したって、これ以上の秘草はねぇさ」
「おかしい、ダハクが活躍している」
「明日は槍が降るかもな……」
「っ……! ふ、ふん、まだまだこれからだぜ?」
ムドとボガの驚きっぷりに噛み付きたいダハクであったが、またシュトラに怒られそうだったので何とか堪える。それ以上に、ダハクにはやるべき事があった。
「これで大空洞は結界なしでも問題なく行き来できる筈だ。けど、その辺をかなりの数のモンスターが徘徊してやがんな。鬼強化した『災厄の種』も植えとくか。こいつらなら大抵のS級モンスターも余裕だろ」
「ゴルディアーナさんとの戦いで使った食人植物ね?」
「うっす。なんつうか、色々と思い入れの深い奴だかんな。俺の愛を全てこれに注ぎ込んだと言っても、決して過言じゃねぇ!」
ダハクが腕を上空に突き上げると、漆黒竜の愛を称えるように、地上の各所で蕾達が数百の牙を咲かせ舞い踊っていた。そして食らう、食らう、食らう――― 大口を開けた災厄達は、大空洞のモンスター達をことごとく打ち破っていた。
「信じられない、ダハクが輝いている」
「明後日は隕石が降るんじゃねぇの?」
「もうっ! ムドもボガも大人になりなさい! そういう事は思っていても口にしちゃ駄目なのっ!」
「………」
地味にシュトラの言葉が一番効いている。
「―――最後は生物の体温や気配に敏感な植物体を育てるぜ。こいつが発見したもんは俺とも情報を共有させてるから、不審な動きをしている奴がいたら1発で分かる筈だ。流石にセラ姐さんやアンジェの奴までとはいかねぇが……」
再度拳を振り上げるダハク。連鎖的に生えてきたのは、美しくも儚い印象の白き花々。邪神の心臓周辺はもはや不浄の大地などではなく、緑が生い茂る全く別の場所へと生まれ変わっていた。
「私が見た事もない草花ばっかり……!」
「俺が交配させたオリジナルだからな。しっかし、トリスタンらしき奴はいねぇみたいだ。ケルヴィンの兄貴達が突入した、使徒の隠れ家にでも逃げ帰ったんじゃねぇか?」
「その可能性もあり得るわ。下手に私達まで乗り込んだとしても、やれる事は少ないし危険かな。ケルヴィンお兄ちゃん、わざと私を遠ざけてくれた節があるし…… 意思疎通で情報だけ共有して、私達は神域の外を固めましょう。いざとなった時、他の使徒が逃げられないように。ダハク、もっと防衛に適した植物はある?」
「なくたって、注文さえしてくれれば俺が応えてやるよ。安心しな!」
「そう、なら手始めに―――」
自らの能力に太鼓判を押すダハクに、シュトラが次々と戦略上必要である要素を注文していく。自信満々な様子のダハクであったが、徐々に徐々にと容赦のないシュトラの要求に額に汗を流してメモを取り始めた。
「第一弾として、まずはこれだけをお願い。できるかしら?」
「お、おう、余裕、今の俺なら余裕だぜ。余裕余裕……」
割とギリギリらしい。
「ふん、まあ竜王ってのは然るべき巣を持つもんだからな。手始めにその要望にお応えして、この場所を俺好みの巣に、 奈落の地(アビスランド) を 漆黒竜の地(ダハクランド) に変えてやるぜ!」
半ば 自棄糞(やけくそ) である。
「良かった、いつものダハクだ」
「あのネーミングセンスは絶望的だよな」
「それな」
「ムド、ボガ、何やってるの。貴方達にも仕事を割り振るわよ?」
「「え゛っ?」」
幼き姿の賢女によって竜王達は酷使され、大空洞の再構築は着々と進んでいった。
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―――邪神の心臓・ 聖杯神域(ホーリーチャリス)
(シュトラ達、面白い事をしてるわね)
シュトラより配下ネットワークへ送られてきた報告書を読み上げ感心するのは、使徒の神域内を駆けるセラであった。邪神の心臓南部の殲滅を終えたセラ。彼女は昂然として神域に乗り込んだのだが、迷宮のように入り組んだ場所に転送されてしまい、以降こんな調子で出口を探していたのだ。ただただ白いだけの同じような通路ばかりに歓迎され、セラは少し退屈気味であった。
(分かれ道……)
何十回と繰り返してきた選択。またかと心の中で呟くも、選ばない訳にはいかない。持ち前の察知能力と豪運で、当たり前のように正解を選んでいく。尤も正解を選択したところで、セラにとってはどこに繋がっているのか理解していないのだが。
(もう少しな気はするんだけどねー。その距離感がいまいち掴めない。んー、感覚が狂ってるのかしら? この結界内、厄介極まりない事この上ないわー……)
そんな愚痴をこぼしながらも、セラは走る。走る以外にできる事がないのももどかしい。
「ハァ、そろそろ派手なバトルと洒落込みたいんだけど……」
「全くもって同感だよー。1番ここに詳しい筈のアンジェさんが迷子だなんて、笑い話にもならないよー」
「「……ん?」」
面と向かって逆方向の通路から走って来たのは、ケルヴィンと共に侵入した筈のアンジェだった。セラとアンジェ、意図せず合流。