軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第418話 白と黒、決着

―――邪神の心臓・ 聖杯神域(ホーリーチャリス)

模擬取るもの、それはアレックスが 最深淵の黒狼王(ヴァナルガンド) に進化する際に会得した固有スキルである。影の上に映るものの形を真似、その特性までを模倣するコピー能力のようなものだ。制限は自身の体の体積の最大サイズまで、容量が余っても模擬できるのは1度に1つ、対象は武器やアイテムなどの無生物に限られる。

この能力を用いてアレックスとリオンが共闘すれば、アレックスのステータスを顕現させた武器をリオンが使う事も可能となる。リオンの言うところの人狼一体三刀流、『 影狼(かげろう) モード』の真骨頂の1つだ。

ただ、コピーしたからといってそれを十全に利用できる訳ではない。それが何らかの力を持った武器だとすれば、本物の所有者の方が圧倒的に使い慣れているだろうし、応用も利くだろう。あくまでこの力は技の1つであって、決定打にはなり得ない。が、セルジュの聖剣ウィルに関してだけは、前もってその力の特質を理解していたのもあり、リオンはその使い方をこっそりとデザインしていたのだ。

「―――私の 聖剣(ウィルジリオン) 、いえ、黒い 聖剣(ウィルジリオン) ?」

「フーちゃん、聖剣ウィルは思い描いた武器になるって言ったよね。なら、僕だって負けないよ。何せ、妄想力は人一倍だからさっ!」

「へぇ、面白い。よく分からないけど、それで私に対抗しようって言うんだね。いいよ、受けちゃう。受け止めちゃう!」

床に突き刺さった聖剣群が、白と黒とに分かれて宙に浮かび出す。白き 聖剣(ウィル) はリオン、刹那、シルヴィア、エマに向けて剣先を向ける。一方で黒き 聖剣(アレックス) はセルジュにのみその剣先が向けられた。同じ方向ではあるが、4人に攻撃が分散される分、後は仲間を信じて耐え凌ぐしかない。リオンはこの攻撃で全てを終わらせるつもりだ。恐らくは、セルジュも。

「「いっけぇぇーーー!」」

号令と共に放出され、踊り出す2色の聖剣。柄部分が爆発したかのように一斉に放射された、千に及ぶ互いの攻撃が衝突する。

すれ違い様にぶつかった2本の剣は、片や光の微粒子となって拡散、片や影の塊となってぼとりと地面に落ちていった。威力は全くの互角、そうなれば残弾の勝負となるのだが、これにおいても両者一歩も退かなかった。次々と新たな聖剣が誕生して、その度に放出される。リオンはより鋭く、より強い聖剣を夢想し続け、セルジュもまたそれを願う。生まれ来る聖剣は一進一退だった。

しかし、1点だけ2人の間で異なる事があった。彼女らの周りに、仲間がいるかいないかである。セルジュは両手にも 聖剣(ウィル) を携えて、 空顎(アギト) に似た斬撃を高速で放ちながら攻撃を防ぎつつ、自身の攻撃にも気を緩ませない。攻撃と護りを一手に担っているのだ。状態異常に侵されながら、それを可能にしているのは狂気の沙汰であろう。そんなセルジュを相手に、リオンの周りには―――

「リオンさん! どうかここは私達に任せて、攻撃に専念してください!」

「ん、盾になる」

リオンを最後列に置いて、最前列にシルヴィアとエマを、間に刹那を挟む絶対防衛陣が築かれていた。

「刹那ちゃん、できるね!?」

「ここでできなきゃ、いつできるんですかっ! 抜刀・ 椋鳥(むくどり) !」

刹那が抜刀する度に生じる斬鉄権を行使した無数の斬撃が、迫り来るセルジュの聖剣を迎撃。その都度にニトが手直しを口頭で施し、神経を研ぎ澄ませた刹那がそれを実行に移す。完全でなかった虎狼流の奥義も、今ではそれらしくなっていた。

「 膨焔(ベテル) !」

「 狂乱の氷息吹(アイアスリートブレス) 」

エマの大剣が高熱を発しながら膨張して、元の3倍はあろう刀身に変形。更にはシルヴィアがS級青魔法【 狂乱の氷息吹(アイアスリートブレス) 】を唱え、白き聖剣とは真逆方向に鋼鉄の氷が入り混じった暴風を風立たせる。氷塊をぶつけ進行方向と逆に嵐を巻き起こす事で威力を削ぎ落し、巨大に膨れ上がったエマの 太陽の鉄屑(ソルフォルム) を盾代わりにしようというのだ。特に 狂乱の氷息吹(アイアスリートブレス) は攻撃にも転用され、防御と同時にセルジュにも襲い掛かっている。

仲間達の支援のお蔭で、何もせずともリオンにまで攻撃が至る事はなかった。黒き聖剣の生成のみに集中できていた。だからこそ、勝負の明暗が分かれた。

「つっ……!」

セルジュの片足に、迎撃し損ねたリオンの剣が届いたのだ。この状況下で剣術の肝となる軸を失う。それは詰まり刻み続けたリズムが止まり、総崩れになる事を意味する。黒き聖剣は次々とセルジュに突き刺さり始め、その純白であった外装は赤く染まる。もちろん、獣王から対人戦のイロハを教わったリオンが、その隙を逃す筈もない。

『アレックス!』

『ウォン!』

聖剣群の中に1本だけ、狼の紋章が施されたジェラールの大剣が生成された。剣における最強のイメージ、リオンにとってそれは剣の師であるジェラールであり、想いは力となって漆黒の大剣に注がれる。

(フーちゃん、とっても強かったよ。次はケルにいともよろしくね)

不意に大剣が放たれた。向かい合う聖剣を弾き飛ばし、一直線にセルジュへと突き進む。その進路を塞がんと現れたのは、影ながら残っていた 聖盾(イージス) だった。この攻撃はセルジュの命に関わる。盾はそう判断したのか、自動的に動き出したのだ。

「抜刀・燕」

そして、その瞬間に刹那によって斬られ、 聖盾(イージス) もまた光の粒子となって消えてしまった。正真正銘、これで彼女を護るものは何もない。

―――ズン。

「……あーあ、勇者が死んでしまうとは情けない。まあ、足止めにはなったのかな。守護者としては失格、だけ、ど」

心臓を貫かれたセルジュは口から血を零し、左手の 聖剣(ウィル) を落とした。剣先から落ちたウィルはそのまま光となって分散してしまう。気付けば、宙に浮かんでいた千の聖剣の姿もなくなっていた。恐らくは右手のものが本体で、それ以外がなくなってしまったのだろう。

「 剿滅の罰光(ディザスターレイ) 」

空いた左から放たれる、極大レーザー。しかし、それはもうシルヴィアが破った魔法だ。何も言わず先頭に立ったシルヴィアが、二重魔装甲で攻撃を凌ぎ切る。眩い光の光線が消えた頃には、大剣に貫通したセルジュの姿はもうそこにはなかった。『新たなる旅立ち』による蘇生脱出。リオン達は周囲警戒に努めるも、それからセルジュが姿を現す事はなかった。長きに渡って行われた勇者の戦いは、現代の勇者達に勝利の女神が微笑んだ。