軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第417話 咎の魔鎖

―――邪神の心臓・ 聖杯神域(ホーリーチャリス)

迫り来るセルジュが、聖剣を弓型に変化させた 聖弓(アルテミス) で矢を連射する。矢といってもそのサイズはバリスタから放たれる、攻城兵器のそれだ。シルヴィアの 墜ちる氷星(ヘイルミーティア) を一撃の下に粉砕した事から、矢の1本1本がS級魔法と同等以上の威力を秘めていると考えた方がいい。最悪を想定すれば、エフィルの 極蒼炎の焦矢(メルトブレイズアロー) よりも突破力に優れているかもしれないのだ。

「ふっ!」

「ハァッ!」

矢を迎撃するは、黒剣アクラマから放つリオンの 空顎(アギト) ・ 黒雷(コクライ) と、刹那の高速抜刀術から放たれる抜刀・燕。しかし、リオンが放つ斬撃の中でも特に威力が高いこの 空顎(アギト) でも、 聖弓(アルテミス) の矢と衝突すると打ち負かされ、 悉(ことごと) くが消滅してしまっていた。

唯一その力に対抗できたのは、刹那の『斬鉄権』を行使した斬撃だ。刹那が抜刀したその時点で放たれた矢にまで至るその斬撃は、相手が何であろうと歯牙にもかけずに斬り伏せる。セルジュの攻撃に対し、刹那の抜刀は効果的であった。

「ごめん、せっちゃん! 全部斬り落とせるっ!?」

「無理でも斬りますっ! 皆さんは次の手をっ!」

セルジュが矢を放つ速度と刹那の抜刀する速度は、ほぼ同等だ。他にあの矢に対抗できる有効打がない現状、刹那を信じるしかない。だが、それを補助する事はできる。

「シルヴィー、えっちゃん!」

「ん、壁を作ろう」

「ぶっ飛んだのを創造しますよっ!」

詠唱、詠唱、詠唱。3人の高速詠唱に合わせて青き氷塊、赤き焔、紫の雷鳴が境界に障壁を形作っていく。

「 紫電の巨番犬(ギガスケラヴノス) !」

「 絶氷山壁(ディープヘイルベルク) 」

「 獄炎山壁(ヴォルカノンベルク) !」

距離を詰めようとするセルジュの眼前に、空間の限界にまで展開された山の如き障壁が出現する。それは全てを凍て付かせる氷でありながら灼熱の炎を纏い、更には紫色の雷で形成された巨犬もが壁に乗り移って、バチバチと強力な稲妻を走らせ始める。宛らそれは地獄の体現、絶対不壊の防壁であった。

「炎と氷、それに雷を併せるなんて、面白い事をするねっ! でも―――」

セルジュは大きく跳躍すると、ジグザグに空を蹴って更にそのスピードを上げていく。そして、再び武器の形状を変化させた。

「――― 聖槌(ミョルニル) を防ぐには、ちょっと薄過ぎるかな!」

大巨人が扱うような、巨大な大槌。装飾は剣や弓の時同様、白銀に統一されていた。明らかに使用者とのスケールが合っていないその得物を、セルジュは自在に振り回す。あっという間に壁の中心地に達したセルジュは大きく振りかぶり、神の鎚をフルスイングした。

壁に 聖槌(ミョルニル) が触れた瞬間、3属性の獣が武器伝いにセルジュに襲い掛かるも、彼女はどこ吹く風と受け流す。この程度であれば致命傷にはならず、また直ぐに回復もできると高を括っているのかもしれない。

3人の力を統合して作り上げた防壁が、極大なる 聖槌(ミョルニル) によって一撃の下に粉砕される。その所業は神話に登場する神々によるもののようで、豪胆ながらも幻想的な光景だった。だが、それは驕りでもあったのだ。

「エマ」

「分かってる! 私の鎖、限度の3回まで全部使うよっ!」

シルヴィアに名指しされたエマが、防壁を破ったセルジュに手をかざす。

(………?)

違和感、自身の体に何かを巻き付かれたような感覚に、セルジュは眉をひそめる。察知系スキルは反応していない、特にこれといった異常がある訳でもない。しかし、何かをされたのだと確信はした。

エマの持つ固有スキル『咎の魔鎖』。対象の状態異常や補助効果を固定化する能力である。分かりやすく言えば、毒などの状態異常になった相手はどんな回復魔法やアイテムを使おうが毒のままであり、魔法の効き辛い体質であるシルヴィアに対しても効力を有効化させる事ができるのだ。

発動条件はエマの視界に入っており、かざした手の先に相手がいる事。1度に固定化できるのは3回まで。そして今、エマは条件を達してその全ての鎖をセルジュに投げ打った。固定化対象は壁を破壊する寸前にセルジュを襲った凍結、火傷、麻痺の3種。これによりセルジュはエマを倒さない限り、それら状態異常は何をしようと治療できなくなった。

(治らない? やっぱり何かされてるなぁ……)

即刻治療を行おうとしたセルジュは、その事実を早い段階で知る事ができた。そして、次の方針も定まる。速攻で倒す、だ。

「 聖弓(アルテミス) !」

形態を弓に戻し、空中からの連射。徐々に凍り付いていく氷と、全身が本来の動きができないままでの攻撃だ。火傷を負った傷だって痛まない筈がない。攻撃速度は格段に落ちている。その代わり、天歩による猛烈な立体機動で射撃位置が攪乱されていた。

「なっ……! ペナルティー貰っている人の動きじゃないですよっ!?」

「落ち着いて! 矢は私が斬ります!」

「ん、時間を掛けるほどに私の氷は侵食する。彼女は向かって来るしかない」

「なら、僕達の全力をぶつけるまでだよっ!」

ジグザグな軌道を描きながら迫るセルジュの矢を、刹那が冷静に対処していく。矢は全てが斬り捨てられ、遂には痺れを切らしたセルジュが別の手に出た。

「 聖槍(アンサラー) 」

空中に足場を作り、一気に駆け上がったセルジュが槍を持ってリオン達と衝突する。真っ向からリオン、シルヴィア、エマを相手取っての剣戟が響き渡った。弓同様、セルジュの動きはさっきよりも鈍い。囲い込むようにして攻撃を仕掛けるリオン達に対し、槍のリーチを活かし、追従する 聖盾(イージス) を使いながら巧みに渡り合うセルジュ。戦いは互角のものとなっていた。いや、時間を稼がれると侵食領域が広がる分、セルジュが不利だ。

気が付けば、宙に浮かぶ 聖盾(イージス) の数が2つに増えている。エマはまだ増えるのかと辟易しつつも、セルジュにも余裕がなくなっているのだと確証を得ていた。同時に、不穏な予感を感じ取る。

「 剿滅の罰光(ディザスターレイ) !」

無詠唱による極大レーザーが、セルジュの片手から放たれた。予備動作なし、エマが咎の魔鎖が使った時のように、ただ手を掲げただけの簡単な動き。されど、放たれた光はエマを一撃で屠るに十分な威力を伴っていた。

「最善手」

「シ、シルヴィア!?」

レーザーとエマの間に押し入ったシルヴィアが、その身を盾に光とぶつかる。足元を氷で生成した鉤爪でガッチリと留め、固有スキル『二重魔装甲』を自動発動。極大の光の束が、シルヴィアに弾かれていく。

「「ハッ!」」

「とっ……!」

セルジュが魔法を使った隙を突いて、刹那が 聖盾(イージス) の1つを斬り裂き、その間を縫ってリオンがセルジュに斬りかかる。紙一重で躱すセルジュであったが、もう明らかに限界であった。

(きっついなぁ。やっぱり、メルフィーナクラスを4人ってのは言い過ぎたかな? でも、あれは絶対福音が発動していればって話だったし…… あー、もう。うだうだしていたらもっと駄目! 私はやればできる子! 元気な子! 逆境こそ勇者の腕の見せ所、ってね!)

「ウィル、もう全力で力を見せつけるよっ!」

「「「「―――っ!」」」」

その瞬間、4人全員が後ろに退いた。セルジュが 聖剣(ウィル) の形態で床に刃先を突き刺した矢先、大量の 聖剣(ウィル) が地面から現れたのだ。百、千――― いや、もっとかもしれない。

「この 聖剣(ウィルジリオン) はホント維持するの辛いからさ、さっさと終わら―――」

「―――『模擬取るもの』、発動」

空間に存在していた一切の影が蠢き、立体化していく。千の聖剣を揃えたセルジュに対峙したのは、千の漆黒の剣を揃えたリオンであった。