作品タイトル不明
第419話 音信不通
―――邪神の心臓・ 聖杯神域(ホーリーチャリス)
「やった、のかな?」
「リオンちゃん、それは言わない約束。実際、どこかで生きてるんでしょうけど……」
周囲の警戒を一通りし終え、リオン達はフィリップら古の勇者達と合流する。どうやら彼らと戦っていた女性版古の勇者も、セルジュがこの場から消えた事でいなくなったらしい。
「結局、最後まで助太刀できませんでしたね…… 申し訳ありません」
「いやー、あれの相手しながらは流石に無理だと僕は思うな。本当に互角、むしろそれ以上の強さだったもん。あれを足止めできただけでも、僕は満足だよ」
「フィリップ教皇、貴方は少し自重してください」
「もう! サイは堅苦し過ぎなんですー」
「ところでフィリップ、女装に興味はないか?」
「え゛?」
「あはは…… 兎も角、皆無事で良かったかな。僕達は結構ボロボロだけどね」
そう言ってリオンが皆を見回す。最後にセルジュが放った 聖剣(ウィルジリオン) の一斉掃射を、完全に防ぎ切ったというには些か生傷が多過ぎた。体中が傷だらけであり、特に盾となって戦線に立っていたエマは、2本ほど聖剣による攻撃の直撃を受けていた。シルヴィアの魔法で威力を落としていたとはいえ、その傷口は実に痛々しい。
「いっつつ…… 使徒ってあそこまで出鱈目なの? 本気で自信なくす……」
「安心しなよ。守護者は使徒の中でも特に出鱈目な子だったから。おじさん、正直彼女に勝てるとは思わなかったよ。世の中面白いもんだねぇ。刹那ちゃんも虎狼流剣術に乗り気になってきたし、おじさんの剣生は薔薇色だよ」
「ニトさん、ちょっと黙って」
「それよりも誰か、白魔法使える人いる? エマを治してほしい」
「ああ、それなら僕に任せてよ。デラミスの教皇から治療を賜るなんて、一生に一度の栄誉だよ? なんちゃって」
「フィリップ教皇……」
「分かってるって、ちゃんと全員治療しますー。ほら、君らも並んだ並んだ。傷跡は残さないから安心してね」
エマの傷口にフィリップが手を当て、治療を開始する。眩く、けれども優しい光は瞬く間に傷口を塞ぎ、ついでとばかりに体全体の小さな傷までも治していった。
「シルヴィア、貴女もセルジュの蹴りをもろに受けたでしょ? 大丈夫?」
「痛かったけど、もう自然治癒で完治済み。他の傷も勝手に治るよ」
「ケロっとした顔でサラッと言わないでよ。見ていたこっちは心臓が止まるかと思ったんだから……」
「ん、気を付ける」
怪我はしても、会話ができる程度に元気ではあるらしい。ホッとするリオン。しかし誰かが足りないような気がして、気持ちが晴れない。誰かが、誰かが―――
「―――あっ、コレットは?」
コレット。そう、コレットの姿が見えないのだ。刹那達をこの空間に導いた後に下がった筈だったのだが、背後に四つん這いになっていたあの小鹿のような姿は見当たらない。
「そういえば、途中から姿が見えなかったような……」
「も、もしかして、フーちゃんに誘拐された、とか?」
「な! 勇者が人質を取るんですかっ!?」
「待ってください。あの心優しいセルジュが、そのような事をするとは考えられません。何かの間違いでは?」
「あれ? セルジュ、英霊の地下墓地で僕の隠し子誘拐してなかったっけ?」
「待て、フィリップ。隠し子とは何の話なのだ?」
「……ソロンディール、話が脱線している」
辺りが騒然とし出す中、リオンは冷静に状況を整理する。こんな時こそ慌ててはならない、それも獣王の教えだった。
(うーん…… 勇者と言っても、日本には古今東西色んな種類の勇者がいたからなぁ。もちろん創作の世界でだけど、ダークヒーローってジャンルがあるくらいだし。なりふり構わない状況になれば、フーちゃんもたぶんそうする。僕だってケルにいの為に必要であれば、すると思う。でも、フーちゃんが途中で何か行動を起こしていた様子はなかった。とすれば、第4の能力とか―――)
先の戦闘と現在の状態から、可能性を洗い出すだけ洗い出す。ただ、結末は案外と単純なものであった。
「―――ご安心ください。コレットはここにおりますので!」
まさかの探し人本人からの宣言。しかし、姿は見えない。
「えっ? ど、どこ?」
「こちらです。神殿の裏側です」
コレットがひょっこりと神殿背後から顔を出す。どうやら、今まで隠れていたようだ。
「コレット! もう、心配したよー」
「リオン様も皆様も、お騒がせして申し訳ありませんでした。戦いの邪魔になるまいと、あそこで巫女の秘術を使い気配を断っておりまして」
「だとしても、先ほどから何度も呼びかけていたのですが…… 巫女様、あの裏で一体何を?」
「い、いえ、それが何と言えばいいのでしょうか。魔力の大量消費による反動のピークが、その……」
コレットのしどろもどろな答弁に、この時点で事情を察したリオンなどの一部の者達が、「あー」と心の中で呟く。そして、神殿の裏側は覗くまいと心に誓った。
「そ、そうだ! フーちゃんとの戦い、コレットの策があったから勝てたんだよ! 本当にありがとう」
気を利かせたリオンが、話題転換を図ってくれた。この心遣いはコレットにとって鼻血ものだが、何とか堪える。
「いえ、私にできる事を精査しただけですから。途中からは隠れていただけでしたし……」
以前セルジュがシスター・アトラを誘拐しようとしていた事から、隙あらば自身も狙われる可能性があるのではないかとコレットは予想していた。聖槍イクリプスの鞘、それがデラミスの血を引く者を対象とするのなら、コレットは正に狙い目だったからだ。教皇のフィリップも対象には入るのだが、絶対にセルジュからは近づかないだろうと推測して、こちらは捨て置いていた。案の定、セルジュはフィリップを眼中にも入れてなかったようだ。
「うん? コレット。今、愛しのお父様に何か良からぬ感情を抱かなかったかい?」
「教皇、胸の内に聞いてくださいね。コホン、失礼……」
「ですが、デラミスを代表する方々が一挙に集まるとは、思い切りましたね。本国は大丈夫なんですか?」
「ここだけの話、行方の分からぬ使徒がまだ存在する現状において、デラミス国内に留まるよりも、ケルヴィン様方と行動を共にした方が安全でもありましたからね。世界の何処を探しても、これ以上に頼もしい方々はいらっしゃいませんから。本国は先代光竜王のムルムル様にお任せしていますし、いざとなれば水国トラージの水竜王様がいらっしゃる事になってます」
「はぁー、豪勢な面子だねぇ。おじさん、もう竜はこりごりだから絶対行きたくないよ」
「……? ニトさん、何の話です?」
ニトの脳裏に甦るは、逃げては逃げては逃げまくった死と隣り合わせの鬼ごっこ。実際に死んでいたのは分身の自分ではあったが、刀である彼も気が気でなかったのかもしれない。
「よし、治療おしまい! これで全員、満身創痍から全回復した筈だよ」
「いよいよ敵本陣、ですね」
「ん、お母さんがいるかもしれないね」
次なる目的地は神殿の奥、ケルヴィンとメルフィーナが先に向かったであろう場所だ。そしてそこには、恐らく代行者、アイリス・デラミリウスがいる。
「……あれ?」
「リオンちゃん、どうしたの?」
隣で小首を傾げているリオンに、刹那が尋ねた。何やら困惑しているようだ。
「ケルにい達にこれから向かうって念話しようと思ったんだけど、繋がらないみたいで…… おかしいな、こんな事今までなかったんだけど……」
「えっ?」