作品タイトル不明
第411話 ガールズトーク稀に男子
―――邪神の心臓・ 聖杯神域(ホーリーチャリス)
そこは、真っ白な空間だった。壁も、床も、天井までも。純白でいて、奥行きが掴めない。ゆらゆらと揺らぎ、幻想的。まるで蜃気楼。そんな夢の中で見るような場所に、僕とコレット だけ(・・) が降り立った。
「うーん、困ったね。まさか、聖域に入った瞬間にケルにい達とはぐれちゃうなんて」
そう、僕たちははぐれてしまった。コレットの常軌を逸した頑張りで、邪神の心臓内に隠されていた聖域の扉は開かれた、までは良かったんだ。だけど、同じ入り口から侵入した筈なのに、出た場所は全く別の場所。幸い、念話は使えて皆との連絡は取れた。ケルにい、エフィルねえ、アンねえも別々の場所に飛ばされたみたいで、今は周辺の確認をしているらしい。僕もそうしたいけど、ここって何なのかな?
「これはデラミスの巫女の秘術、 聖杯神域(ホーリーチャリス) ですね。異空間に大規模な神殿を生成して、かつての古の勇者が活動拠点にしていたとか。内部構造、出入り口の繋ぎ目は巫女が自由に操作できるので、防衛の最高峰の秘術とされています。しかしながらこれほどの規模となると、私の魔力では作れそうにありませんね。一体、ここまでに至るまでどれほどの力を積めば―――」
「―――そりゃあ、聖人になっていない巫女さんじゃ難しいんじゃないかな?」
ふと、唐突に声がした。眼前には周囲の壁と一緒で、白く朧げな神殿が建っている。そしてそこの屋根に、彼女は楽しそうに腰掛けていた。
「ま、アイリスも生前は聖人になんてなれなかったんだけどね。余の中って世知辛いから」
「……フーちゃん」
彼女の名はセルジュ・フロア。コレットが召喚したとーやん達の先輩となる、先代の勇者。あ、僕も一応は勇者だったっけ? なら、僕の先輩でもあるのかな? ううーん、学校生活が希薄だっただけに、先輩後輩の接し方がよく分からない。
「私の愛称を、覚えていてくれた、だと……!? 君、素晴らしい! フーちゃん100点あげちゃう!」
あ、フーちゃんノリの良い人だ、たぶん。
「えっと、はじめましてではないよね。僕とは一瞬だったけど、デラミスで会ったの覚えてる?」
「うんうん、覚えているよ。私、出会った可愛い子は忘れない主義だから。ケルヴィン・セルシウスの妹さん、リオン・セルシウスだよね。出会い頭に攻撃してこない時点で好感度マックスだよ、うん! 人ってのは、やっぱり会話してなんぼだからね」
やっぱり、僕の事は知っているみたい。できる事なら敵は消しておきたいところだけど、フーちゃんには『新たなる旅立ち』がある。前の戦いから1ヶ月が過ぎているし、自己申請していた仕切り直しの時間は満たしている。倒したところで、ゲームのセーブポイントに戻るように生き返ってしまう。となると、無力化して拘束するのが最善。だけど、彼女の実力からしてそれは最も難しい事。ケルにい達とパーティ一丸となって挑んだ前と違って、今は僕とコレットしかいないんだ。その一方でここは使徒の本拠地、所謂アウェイ。フーちゃんも重荷がなくなって、今回は万全の状態。あれ? これってとっても不味いんじゃ?
「勇者セルジュ様、お聞きしますが―――」
「コレット、フーちゃんって呼んでくれないと、何にも答えないぞっと」
「……勇者フーちゃん様」
気のせいか、コレットまで押されているような。
「話し合いで済むのなら、こちらとしてもその意見を順守したいと思います。ですが、なぜ私達をバラバラの場所に分けたのですか?」
「んー、区分けしたのはアイリスだからなぁ。私はただここを護っているだけで、詳しい事はアイリスに聞いてほしいかな」
「それでは、アイリス様はどちらに?」
「ここ」
そう言って、フーちゃんは真下を指差した。屋根にいるフーちゃんの真下は神殿の入り口。神殿は光のように白く輝いているのに、奥の方は不思議と見通す事ができなかった。明るいとか暗いとかじゃなくて、魔力的な視覚妨害が働いているんだと思う。
「通して頂いても?」
「それは駄目。基本的に何もしないぐうたらな私にも、唯一役目が課せられていてね。ケルヴィンとメルフィーナ以外は、ここを通す事ができないんだ。君らにはここで大人しく、私とガールズトークに花を咲かせてほしいかな」
「……とどのつまり、ケルにいとメルねえはその先に転移させられたんだね?」
「あ、いっけない」
しまったとばかりに舌を出して苦笑いを浮かべるフーちゃん。だけど、その言葉とは裏腹に大して問題にはしていないような、そんな印象を受ける。
「残念だけど、大人しくはしていられないかな。フーちゃん、そこを通してもらうよ」
「リオン様、非力ながら私もお助け致します」
「……ふふっ」
思いがけない冗談に不意を突かれたように、笑い声がこの空間に木霊した。
「一応言っておくけど、勇気と蛮勇は別物だよ?」
「うん、知ってる。有名な言葉だもんね」
「それなら止めようよ。勝ち目のない戦いに挑むなんて、まるで勇者の所業――― あ、勇者か」
「うん! ケルにいが呼び出してくれた、立派な勇者だっ!」
アクラマとカラドボルグを抜き、叫びながら前に駆け出す。正直、勇者としての自覚はないけど、ケルにいによってこの世界に召喚された誇りは持っているんだ。それだけは否定されたくない。轟かすは雷鳴、紫電の軌跡を残して、僕は 稲妻反応(ライトニングエンハンス) と 霹靂の轟剣(ジェネレイトエッジ) を施した。
「はてさて、何事もなくここまで来れるかな?」
「勇者フーちゃん様。『絶対福音』の力を当てにしているのなら、それは諦めた方が身の為ですよ?」
「え?」
魔力の流れを感じて、僅かに足を止める。コレットの声の後、神殿を取り囲む形で周囲に異なる光が灯された。この光は、魔法陣の……?
「刀哉やシルヴィアさんに混じって特訓はしましたが、私がまだまだ弱いのは周知の事実。フーちゃん様が相手では、手傷ひとつ負わす事も叶わないでしょう。ですが、私はケルヴィン様と同じく召喚士なんですよ?」
そうだ。ケルにいに見慣れて忘れてしまっていたけど、召喚士とは本来支援に努めるもの。普通は前衛に出て直接戦う職業なんかじゃない。
「ふぅーん。それで、何を召喚してくれるのかな? 聖騎士のクリフ団長? 石像のモンスター? 残念だけど、どっちにしたって少しだけ役不足だよ?」
「いいえ、違いますとも。召喚するのは、フーちゃん様の元お仲間です♪」
「……え゛っ!?」
フーちゃんの声が、ビックリするほど裏返った。大慌てで周りに出現した4つの光を見回すフーちゃん。さっきまでの余裕は今やなく、冷や汗を流しながら酷く動揺している。
「やあ、セルジュ! 暫くだけど、元気だった? 僕結婚したんだけど、立場上まだまだ婚姻は結べるんだ。ところで今夜暇かな?」
「待たせたな、レディ。貴女を迎えに黄泉の国から帰って参りました。私の名はソロンディール。何、しがない伊達エルフです。おっと失敬、あまりにも可愛らしいお嬢さんで、つい口が勝手に」
「……やはり、尊い」
「セル、ジュ? セルジュ、なのかっ……?」
魔法陣から現れたのは、古の勇者フィリップ・デラミリウス、ソロンディール、ラガット・タイタン、サイ・ディルの4名、かつてフーちゃんが魔王を倒す旅を共にした、仲間達だった。