軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第412話 最強の弱点

―――邪神の心臓・ 聖杯神域(ホーリーチャリス)

「それで、どうかなどうかな? 今なら僕の正妻――― はちょっと無理かもだけど、教皇の妻として不便のない贅沢な生活ができると思うんだ。あ、セルジュが目立つのが嫌なら、秘密裏に囲う事もできるよ。時折宮殿を抜け出したりしてさ、禁断の逃避行に走っちゃったりロマンチックだと思わないかい?」

「おや、おやおや? こちらの絶世の美女は誰かと思えば、セルジュではないか! いや、すまない。放つオーラがあまりに眩いもので、ひと目で理解する事ができなかった。長年会う事ができず、私の中での偶像が過度に美化していまいかと心配だったのだが、どうやら無用だったようだ。本物のセルジュは、それ以上に美しいのだから」

「……素敵だ」

「す、すまない取り乱した。ああ、何から話せばいいのか……」

三者三様、ううん、四者四様の反応を見せる彼らに対し、フーちゃんは頻りに警戒している様子だった。僕の目から見ても動揺している事が分かる。

「い、いや、ちょっと待って! それ以上近寄らない、近寄らないで! 私にそっちの気はないんだってば!」

それに、ちょっと泣きそう…… ん、んん? 何か、変な言葉を聞いたような。

「ふふっ、気が付いたようですね、リオン様! これが私とシュトラちゃんが共に過去の資料、生き証人であるお父様ら関係者を徹底的に調査し、構築した対フーちゃん様包囲鎮圧陣なのですっ!」

「ど、どういう事なの?」

興奮気味に語り出したコレットに聞いてみる。

「かつてデラミスの巫女に召喚された勇者様方は、その全てが魔王を討ち取り、この世界に永住される道を選ばれました。しかし、そちらにいらっしゃるフーちゃん様だけは元の世界に帰られた。彼の勇者様を命の賭して慕い、そして愛したお仲間がいたというのに。それはなぜか? メル様とケルヴィン様とリオン様がいらっしゃれば何の未練もない私には分かりかねましたが、その答えをシュトラちゃんが出してくれたのです! フーちゃん様、貴女は特殊な性癖をお持ちですねっ! 多様で個性的などんな男性達とも恋を抱けない、そんな性癖がっ!」

「ギクッ!?」

フーちゃんがわざわざ擬態語を言葉で反応してくれた。よっぽど余裕がないみたい。それにしても、さっきまで圧倒されかけていたあの状況が、手段は兎も角一気にひっくり返っちゃった。トリップしたコレットはちょっと怖いし敵に回したら恐怖でしかないけど、味方になれば物凄く頼りになる。ケルにいも言ってたっけ。天は二物と一緒に大変なものを与えてしまった、って。うん、確かにその通りかも。

でも、フーちゃんの特殊な性癖って何だろう? フーちゃんのかつての仲間、古の勇者達はある種の理想の容姿を体現した人達ばかりだ。輝かしい銀髪と眩い笑顔を振りまく、ちょっと腹黒そうな美少年。女好きだけど一途なところもある、壮年の紳士。なかなか自分の気持ち表に出せないでいる、無骨で寡黙な騎士。極めつけは、褐色肌だけど恋愛の王道を突き進む亡国の王子様。

少女漫画やゲームに出てきそうなキャラクターを一緒くたに組み合わせた、女の子にとって理想の逆ハーレムパーティだ。そんな仲間を相手に、フーちゃんは逆に退き始めている。とーやんのような主人公属性、それかよっぽどの幸運の持ち主でなければ、こんなパーティを作れないと思うのに。うーん、ヒントになりそうな情報は―――

『私、出会った可愛い子は忘れない主義だから』

『私にそっちの気はないんだってば!』

「―――え゛っ!?」

思わず、僕も声を裏返してしまった。何となく、悟ってしまった。現代日本で14年間の歳月を過ごした僕にも、そういった情報は少なからず耳や目に入っている。ネットだったり、漫画だったり。今ではボーイズラブという単語は広くローカル化されていて、興味のない僕だって知る言葉だ。詰まる所は同性愛って意味で、知ってても自ら口にする人は少ないと思う。でもこの場合、フーちゃんはその逆で―――

「ふ、ふふふふ……! なるほどね、流石だよ。この際言ってしまうけど、コレットの予想は大正解。サイ達は仲間として、友人としては最高だと思うわ。だけど、恋人としてはノーサンキュー! だって、私が好きなのは、可愛い女の子なんだもの!」

―――フーちゃんは百合だった。

「「「なぁっ!?」」」

「あー、やっぱりかぁ」

顎が外れるほどショックを受ける3人に対して、コレットのお父さんであるフィリップさんだけは予期していたかのようだった。

「この世界に留まる? 冗談じゃないかな。私や代々の勇者が持つ固有スキル、絶対福音の効果は知ってるよね? このスキルは周囲に私以上の幸運の持ち主がいない限り、まるで私が世界の中心であるかのように都合の良い展開が巡ってくるの。普通に生活する分はもちろん、戦闘面でもその効力は大いに発揮される。普通の男子ならラッキースケベにエッチな美味しい展開もあったでしょう。そして、それは私も例外ではなかった。美少年美青年美中年――― 古今東西、行く先々で出会い、アタックされて来た。少女漫画の主人公みたいに、色んなトラブルにも見舞われた。でもね、このスキルは可愛い女の子なんて用意してくれなかったんだ。だって、一般的な女の子としての幸せしか与えてくれないからっ!」

「あ、あの、コレット? 何か、地雷を踏み抜いちゃったみたいだよ……?」

「ええ、計算通りです」

「古の勇者達、コレットのお父さん以外魂抜けてるよ……?」

「はい、計算通りです」

あう…… コレット、恐ろしい子……!

「唯一私よりも幸運が高かったアイリスと一緒にいた時だけが、心の底から安心できる時だった。その時だけは不自然なトラブルも起きなかったし、アイリスはいつも優しかった。だから今度は、私がアイリスを助ける番なんだよ。今のアイリスは半神状態でかなり不安定、昔の記憶も疎らな状態。私とアイリスの邪魔をするって言うなら、サイ達でも容赦はしないよ」

フーちゃんの瞳が真剣なものに変異する。茶化したような態度や、動揺する様子はもう見られない。覚悟を決めたようだ。

「……何と、言う事だ」

「そ、そんな…… 私は、セルジュを追い詰めていたのか……?」

「い、いや、まだ諦めるには早い! セルジュよ、その心に嘘偽りはないのかっ!? 何かの間違いではないのかっ!?」

「自分の性癖が変なのは百も承知だよ。でもさ、ずっと旅をしてきた仲間達に一気に告白された時の私の気持ち、想像できる? 男主人公が仲間の男共全員に告白されるような心境だよ!? そりゃ元の世界に逃げるよっ! 私は女の子が好きなんだもんっ!」

「「「ぐふっ……!」」」

魂の叫びが白き空間に轟く。そして、止めを刺した。今は敵の立場な僕だけど、同情せずにはいられなかった。フーちゃんにも、かつての仲間達にも。

「……うん、やっぱりね。僕の読み通りだ。皆、顔を上げなよ」

「フィリップ……?」

そんな中、フィリップ教皇だけは膝をつかずにどっしりと構えていた。聖人のような、救いを差し出す微笑みを作って。

「この勝負、僕の勝ちのようだね。セルジュの演技の下に隠した、彼女の真意を汲み取った僕の、ね」

「「「……は?」」」

「え? ちょっと、フィリップ?」

「僕はね、セルジュが異世界に帰ってしまってから、ずっと考えていたんだ。あの優しかった彼女が、なぜ告白の返事もせずに帰ってしまったのか、ってね」

「だから、それは―――」

「数多の男達に迫られたセルジュは、本当の愛とは何か分からなくなっていた。だからセルジュはね、試練を僕たちに与えていたんだ。本当に私を愛しているのなら、時間を空けた今でも愛してくれる筈。例え私の口から拒否されたとしても、本当の心の内を理解してくれる筈、ってね」

「いや、ちょっと―――」

「そしてその中で、見事僕だけはセルジュの真意に達する事ができた。いわば、本当の愛をセルジュに届ける事ができたんだ。あはは、ごめんね、皆! 既婚者の僕が先を行ってしまって!」

「「「………」」」

古の勇者達の目に活力が戻って来た。何言ってんだ、それくらい見抜いていたわ。とか言いそう。

「流石は人心掌握術に優れた教皇ですね。落とすだけ落としておいて、最後に希望の芽をお与えになりました。これでフーちゃん様が今後何と仰ろうとも、彼らが止まる事はないでしょう。後は、例のものを施すだけですね」

立ち上がった勇者達は、誰もが全てを受け止めるような精悍な顔つきになっていた。