軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第396話 世話好き

―――ケルヴィン邸

簡易転移門を使って一端屋敷へと戻った俺は、私室に置いてある書物を目当てに地下の階段を上って行く。すると、暫くして濡羽色の髪と透き通った白い肌を持つ美人さんを発見。近頃、メイドとしてめきめきと頭角を現してきたロザリアである。何かを探しているようだ。

「あら、ご主人様。お帰りなさいませ」

「ただいま。ロザリア、探し物か?」

「探し物といいますか、どちらかといえば探し人ですね」

「あー…… フーバーか」

「恥ずかしながら。またどこかで無精をしているようでして…… ですがご安心を。見つけましたら、しっかり教育しておきます」

そう話すロザリアの右手には冷気が荒々しく舞っている。うん、良い冷気だ。

「教育も程々にな。そういやさ、ムドファラクに続いてボガも竜王になったよ」

「まあ、本当ですか? ……祝福すべき事ですが、少し嫉妬してしまいますね。竜騎兵団にいた頃は、まだまだあんなに幼かったのに、今ではすっかり追い越されてしまいました。ダハクも焦っているのでは?」

「焦り半分、残りはやる気に回ってる感じかな。勝手に飛び出して、今は土竜王のところに行ってるよ。もしかすれば、帰って来たら竜王になってたって事もあり得るかもな」

「む、ダハクはダハクで努力しているのですね。私とした事が……」

いつも気高いロザリアにしては、珍しくも赤面して恥じらっている。お前の中でダハクはどんな悪戯小僧だったんだ。一応はあの頃から竜の頭を張っていたんだろうに。ヤンキー成分高めだけど。

「それなら、ロザリアも竜王を目指したらどうだ? 今は無理だが、時間ができたら協力するぞ? うちのメイドの戦力強化は望むところだしな」

ロザリアは白銀竜で氷の 息吹(ブレス) を使うから、目指すとすれば氷竜王が妥当か。どこにいるかは知らんけど。

「嬉しい申し出ですが、未熟な私ではまだまだ母に勝てるとは思えません。暫くはメイド力と実力の向上に努めたいと思います」

「そうか…… 待て、ロザリアのお母さんは竜王なのか?」

初耳です。

「そういえば、まだご主人様にはお話ししていませんでしたね。私の母は西大陸の『レイガント霊氷山』に巣を置く氷竜王サラフィア。あの背中は遥かに遠いです」

お母さん、氷竜王だったのね。ダハクの父親も闇竜王だそうだし、竜王とは割と近所にいるような身近な存在だったんだな。所在が分からないのは風竜王と雷竜王くらいなものだ。

「実のところ、私とアズグラッドが一緒にいたのは母から授かった修行の一環でもあるのです」

「アズグラッドっていうと、竜騎兵団の事か?」

「はい。人の世話をするのも竜の使命と厳しく言い付けられていまして。人の世と深く交わる事で、経験し学んで来いと…… ふふっ、母らしい言葉です」

「人の世話、か。解釈次第ではメイドは天職だったのかもな」

話を聞く限り、氷竜王は良識的な考えの持ち主のようだ。ッチ、火竜王のように喧嘩を売る訳にはいかないな。今のところ理由がない。

「ええ、そうかもしれません。母なんて人里から赤子を攫って育ててしまうほど、母性に溢れていましたから。懐かしいですね、私とアズグラッドの出会いもそうでした」

「……待て、ちょっと待って。色々と内容が明後日の方向に行ってない?」

「はい?」

氷竜王の奇行もそうだが、ロザリアとアズグラッドとの出会いがそれって、あいつ赤ん坊の時に氷竜王に攫われて育っちゃったの!? 野生児ってやつですか!?

「ひょっとして、アズグラッドが竜の騎乗が妙に上手いのって……」

「幼い頃から私と練習していましたからね。自分の体で走るようなものでしょう。アズグラッドの成長を見守った私にとって彼は弟、いえ、息子にも似た感覚を覚えています。トライセンに帰った今でも母とは家族としての繋がりがありますし、ルノアの事も気に入っていましたね。山に巣くう害虫を駆除してくれたとかで、生涯に1度しか与える事のできない竜王の加護を与えるほどでしたから」

シルヴィアが氷竜王の加護を持ってたのって、そこが発端だったのかい。何気ない話から新事実が次々と発掘されていく。

「ああ、そうです。ご主人様、せっかくムドファラクとボガが竜王になったのですから、加護を頂戴しては如何でしょうか? 竜王の座に就けたのもご主人様のお蔭ですし、2人とも喜んで授けてくれると思いますよ」

「竜王の加護か。そうだよな、加護があったんだよな……」

「……? 何か問題でも?」

やべぇ、すっかり忘れていた。今、ムドとボガは生還者のおじさんを絶賛追跡中だ。召喚術を解除する訳にもいかないし、これは事が終わるまで待つしかない。

「いやー…… 2人とも別件で別行動中でさ。戻って来たら頼んでみようかな」

「あら、そうでしたか。ですが、竜王の加護を受けるメリットは大きいですよ。メイド長を傍に置くご主人様なら既に実感されていると思いますが、その系統属性の威力が増し、その上敵の攻撃は殆ど無力化する事ができます。魔法を嗜まれるご主人様にとって、これほど強い味方はそうないかと」

ええ、実感済みですとも。火竜王の攻撃を正面から食らっても、メイド服が破損するくらいでエフィル自身は平然としていたからな。仮に俺が加護を受けるとすれば、やっぱムドからだろうか。白魔法的に。しかしな、エフィルに心酔しているあいつが俺に加護をくれるかは不安要素でもある。一応、主は俺なんだけど…… ま、何とかなると信じよう。

「加護を与える…… 甘美な響きですね。私もいつか、そのような時を迎えたいものです」

「ま、まあ挑む分には問題ないだろ。現役のムド達の強さを目安に頑張ろう」

「はい、僭越ながら努力致します。それではご主人様、私は引き続きサボり魔フーバーを捕らえてきますので。もし発見されましたらご連絡ください。では―――」

深く礼をした後、ロザリアは粛々と屋敷の奥へと消えて行った。じゃ、俺も地下のゴーレム製作部屋へと行きますかね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「お前、ここにいたのか……」

「あ、あはは…… ご主人様、見逃してください!」

目的の部屋に到着すると、そこにはミニスカメイドのフーバーが物陰に隠れるように息を殺していた。尤も、ここにはセラ達もいる為、隠密活動がまるで意味を成していない。

「私が来る前からここにいたのよ。フーバー、ここの入室許可出してたかしら?」

「いや、してない筈だけど…… さては誰も来ないのを良い事に、俺の留守中のサボり部屋にしていたな?」

「うう、そうです。はい……」

こりゃ後でエリィとロザリアに絞られるな。まあ、メイド業が大変なのは承知しているけど、ここまで堂々とサボるとは御見逸れした。ぎゃくに天晴れである。でも罰は受けような。

「取り敢えず、俺らが帰って来たらエフィルの賄い飯はフーバーだけ1ヶ月抜き」

「なあっ……!?」

「あとの処理はエリィ達に任せるよ」

「メ、メイド長の賄いが、唯一の楽しみがぁ……」

そこまで落ち込むならサボるなと。まあ、この部屋も立ち入り禁止にはしているものの、重要なアイテムなどはクロトの保管に入っているから、それなりに高い機材くらいしかないんだけどね。

「フーバーはさて置き――― 皆、準備は良いか?」

「お兄ちゃん、私は大丈夫だよ」

「ふふん、コレットは確保して来たわ!」

「メルフィーナ様にお手伝いするよう神託を授かりました。全身全霊を尽くします」

ヌイグルミを抱えながらちょこんと座るシュトラ、メルフィーナを食べ物で買収してコレットを借りてきたセラが心強い声を上げる。皆白衣である。

「ちょ、ちょっと…… 何で私も呼ばれたのよ? それに、何よこの格好!?」

その中でただ1人、なぜか戸惑っているのは白衣姿のベルだった。うん、駄目元だけど着てくれたのね。

「いやー、セラが是非とも研究班にベルを招きたいって聞かなくてさ。エフィルに頼んで即席で作って貰ったんだけど、ピッタリだな。似合ってる似合ってる」

「良いわね。流石は私の妹!」

「うう……」

格好から入れば気合いも入る。決して俺の趣味とかそういうのではない。どちらかと言えばセラの趣味だ。そしてやるからには本気の本気。俺らの全力を以ってシュバルツシュテレを最高のシュトラ仕様に仕上げてやる。目指せ、ジルドラ越え。