作品タイトル不明
第397話 母探し
―――魔都グレルバレルカ・血の噴水前
屋敷から 奈落の地(アビスランド) に戻って更に数日。この間、俺達はシルヴィアとの約束を守る為に、探し人であるシスター・エレンの情報収集に努めていた。グレルバレルカ周辺は勿論の事、ドクトリア王国の王であるガリアにも協力を願い、手の届く他国まで調査してもらう手筈だ。セラから義父さんにお願いして、義父さんがガリア王に命令するまでが、とてもスムーズで感心してしまったよ。翌日には調査報告が上がっている見事な仕事振りである。
俺はリオン、アンジェと共に復旧したばかりのグレルバレルカ名物、血の噴水前でこれら資料を纏めている。いや、遊んでいた訳ではないんだ。気晴らしに2人と散歩していたら、悪魔の遣いが突然現れて調書を渡すだけ渡して消えてしまったのだから。あの悪魔の様子を見るに、恐らくかなり急いでいたんだろう。形式上は元暴れん坊魔王な義父さん直々の命令だったしな。申し訳ない、悪魔諜報員よ。
とまあ感謝の念を捧げつつ、血の噴水の淵にてリオンとアンジェの間に座り、調書を広げる。
「んー…… 銀髪のそれらしき女性の目撃情報なし、宿に宿泊した形跡もなしか。どの街にも寄らずに旅してたとか?」
調査の結果、ここら一帯でシスター・エレンに関わる情報を見つける事はできなかったようだ。銀髪の美女であればかなり目立つと踏んでいただけに、やや肩透かしを食らった感じかな。
「私も時間の合間に探してみたけど、結果は同じ。見つからなかったというよりは、元々こっちに来てないんじゃないかな?」
「来てない?」
「シルヴィー、エレンさんはトラージの天獄飛泉から 奈落の地(アビスランド) に向かったって言ってたもんね。たぶんだけど、僕達が煉獄炎口から無限毒砂に到着したみたいに、天獄飛泉側の入り口はまた別の場所に繋がっているんじゃないかな? それだと、ドクトリア王国には来ていない事になるよ」
「あー、そうだったな、確かに」
いかんいかん。近頃趣味に没頭し過ぎていたせいか、そんな基本的なミスを冒してしまうとは。頭のネジを締め直さなければ。
「まあまあ、そんなに落ち込む事もないよ。シスター・エレンが絶対にトラージ側から行ったって保証があるもんでもないんだし、これはこれで彼女の後を追う裏付けになったんじゃないかな? お姉さんはそう思います」
「僕も僕も!」
「ははっ、励ましてくれてありがとな。俺もそう思う事にするよ。それじゃ、刀哉達のペンダントにこの文章を送って、と」
弟子4人のものと同型のペンダントを取り出し、実行する。
「あれ? そんな機能もあったんだ?」
「メルが変に凝っちゃったみたいでさ。俺も後で聞いたんだけど、他にも色々と多機能化しているそうだ」
「け、携帯電話みたいだね……」
うん、確かに。宛らこれはメールだろうか。刀哉達には説明していなかったけど、まあ気付いてくれるだろう。4人もいるしな。何せ、奴らは現役高校生。こういった機能には詳しいのではと勝手な偏見。
「それにしても銀髪かぁ、ちょっと憧れちゃうな」
「待て、リオン。その感情は一時の過ちだ。リオンはリオンのままが一番だ」
お兄ちゃん、髪を染めるなんて許しませんよ。
「あはは、本当にそうしようなんて思ってないよー。僕がやっても似合わないだろうしね。でもさ、エレンさんって銀髪なんでしょ? シルヴィーやコレットも綺麗でサラサラな銀の髪だし、やっぱり女の子としては憧れちゃうよ」
「うん、その気持ちお姉さんも分かるかも。憧れちゃうよね!」
「そんなもんなのか?」
「「そんなもんだよー」」
リオンとアンジェはすっかり意気投合してしまっている。ま、まあ憧れるだけなら自由なのかな? シルヴィアとコレットが綺麗で可愛いのは疑いようもない事ではあるし、2人とも、黙っていれば神秘的な容姿をしているからな。うん、食べ物や崇拝する女神に釣られたりしなければな。
「あ、そうだ。銀髪といえば代行者もそうだったよ。床まで届きそうな長さでさ、お手入れが大変だよきっと!」
「へ~、僕としては長い髪も憧れちゃうな――― あり得ないけど、シスター・エレンは実は代行者だった! とか、あるかな?」
「あはは、リオンちゃんの発想力は凄いね。流石のアンジェさんもそれは思い付かなかったよ」
「アンジェは元同僚だもんなー。代行者ってデラミスの巫女の先祖なんだろ? それならその末裔であるコレットと同色でも不思議じゃないさ。容姿も似ているのか?」
「うーん…… そうなんだけど、コレットをもっとこう、たわわとさせた感じかな?」
「たわわ?」
「……胸がね」
「あ、そうなんだ……」
「「………」」
ねえ、お願いだから胸の話になった途端沈黙するの止めて。2人の間に挟まれている俺はどんな反応をすればいいのさ? 俺だけ置き去りにされちゃってるよ。
―――ピロリロリン♪
「「「?」」」
そんな沈黙の中、俺達の脳内にひと昔前の携帯のような着信音が鳴り響いた。俺にとっては渡りに船な心境だけど、メルフィーナ先生のセンスだろうか、この音は。
「お、雅からか。やけに返信早いな、おい」
しかもよく見れば、メール文章じゃなくて通話になってるじゃないか。説明受けた俺よりも使いこなしているような…… いや、それ以前に俺も通話機能があるとは知らされていないぞ。後でメルに問い質さなくは。
「あーっと…… 雅か?」
見た目は普通のペンダントなだけに、使い方がこれで合っているのかとやや不安になりながら声を掛けてみる。
『……やっぱりこれが電話になってた。ちょっと待って、刹那と代わる』
念話のような感覚で頭に入ってくるな、これ。アンジェとリオンにもしっかり聞こえているようだ。
『え、私が出るの? これ、電話? 携帯電話なの? だ、大丈夫? 触っても壊れない?』
『大丈夫。本物じゃないから刹那の機械音痴スキルは発揮されない。思う存分電話して』
『で、でもやっぱり雅が出て。私が未だにガ、ガルケー? なのは知ってるでしょ! 無理、無理よ! 雅はレインも得意でしょ? お願い!』
『ガラケーなのは知ってるし、今はラインも関係ない。私は奴と積極的に会話したくない。大丈夫、そこから話すだけでいい』
『本当に本当っ!? 急に爆発したりしない!?』
高性能も考えものか。しっかり音を拾ってる。それに何か、かなり取り込んでいるな…… 雅が俺を嫌っているのはいつもの事として、刹那の焦りようが凄い。彼女が落ち着くまで、俺達は黙って顔を見合わせて待つ事しかできなかった。
『も、もしもし。刹那です。ケルヴィンさん、ですか?』
「ああ、そうだよ。えっと、大丈夫そうか?」
『な、何とか頑張ります』
……大丈夫だろうか?
「俺が送った文章は読んでくれたか? こっちでも調べはしたんだが、全くシスター・エレンの足取りを追えなくてさ」
『ええと…… あ、はい。皆も確認できました。シルヴィアさんとエマさんがとても感謝しています。ここまで詳細な調査報告があれば、大分範囲を狭められるって。でも、本当に凄いですね。短期間でどうやってここまで?』
「……企業秘密だ」
悪魔の国を総動員させたとか、言っても信じてくれないだろうしな。黙っとこ。
「そっちはどうだ? 何か手掛かりになりそうなものは見つかったか?」
『私達も国々を回って色々と調べたのですが、それらしき情報はあまり掴めてなくって……』
「そうか……」
『あ、でも1つだけありました。通りすがりのキャラバンの子供から聞いた話で、あまり信憑性はないんですが…… 遠目に、それもその子が見たというのも相当昔のようでして、うろ覚えな話だったんですよ』
「構わないよ。聞かせてくれ」
『それがですね、銀髪の綺麗な女の人が、 奈落の地(アビスランド) では稀有な白い法衣を羽織って、邪神の心臓という場所に向かったと言っていまして。その場所は悪魔の間では禁忌とされる禁断の地です。可能性は低いんじゃないかと私達は話し合っていたのですが―――』
ふーむ、邪神の心臓か。 ……ん、んん?