軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第376話 挨拶は盛大に

―――試練の塔

欲望の確たる証である涎を拭ったケルヴィンは、すぐさまにグスタフへと駆け出した。隙を作って自身に施した補助魔法の効果時間は限られている。グスタフの強さも今がピークだろう。先ほど最終決戦を宣言した通り、やるのならばこれが最後。短期決戦にて、この素晴らしき戦いにけりをつけようとしていたのだ。

「■■っ!」

グスタフが放つはリーチの増した偃月刀。長大な得物を片腕で繰り出すのはグスタフの怪力ならではだろう。横に薙ぎ払われた一撃は地を揺らし、触れるもの全てに死を振り撒いていく。

(今までで一番速い、がっ!)

普段の状態のケルヴィンであれば、反応できずに当たっていたであろう攻撃。しかし、今においてのケルヴィンは最大まで精神を研ぎ澄ましたバトルジャンキー。トリップしたコレット並に昂っているのだ。ドバドバと放出されたアドレナリンによって、高速で接近する偃月刀の隅々までを捉えていた。

そして、死神を補助するのは 風神脚(ソニックアクセラレート) ・ Ⅳ(クアッド) 。この一瞬の間にしか効力を及ぼさない超限定的な強化魔法であるが、その効果は絶大。S級魔法以上の魔力消費と引き換えに、ケルヴィンの敏捷を5倍にまで引き上げているのだ。アンジェをも超越するスピードを得た戦闘狂は、グスタフの攻撃を掻い潜り、両手の武器を握り直した。

「■■■、我が■■!」

背後から襲い掛かる異様なプレッシャーを感じ取る。紅の偃月刀がケルヴィンの後方へと過ぎ去ろうとした瞬間、その形状が大刀から液体へと姿を変えた。大量のグスタフの血液がばしゃりと空中にて停止し、また変異。血は幾千の針となって再びケルヴィンへと反転してきたのだ。

「 衝撃(インパクト) ・ Ⅳ(クアッド) 」

凄まじい衝撃がケルヴィンの後方に放出される。数は多くとも針は軽量、吹き飛ばしてしまえば問題はない。E級魔法程度であれば魔力超過を Ⅳ(クアッド) で使用するとしても、魔法の発動は無詠唱で実行可能。よってケルヴィンは最大威力の 衝撃(インパクト) にて迎撃を行った。威力が強過ぎて塔の壁まで吹き飛ばしてしまったのはご愛嬌だ。

衝撃(インパクト) による風の力はケルヴィンの速さを更に押し上げる。伸縮して来た肋骨型の血を、腕の刃を躱し切ったケルヴィンは、遂にグスタフの懐へと到達した。培った剣術を、リオンから借りた二刀流を全解放。グスタフのがら空きとなった腹部へと連続で斬撃を叩き込む。

「■っ、ぎ■……!」

「かってぇな、おいっ!」

生成したばかりの血の短剣だけならまだしも、愚聖剣には 大地の研磨(グランドクリーヴ) と 狂飆の覇剣(ヴォーテクスエッジ) が施されている。それも Ⅳ(クアッド) だ。だというのに、ケルヴィンが放った剣戟は浅くしか入らなかった。憤怒による肌の硬化は想定を遥かに凌いでいた。斬撃によるダメージは本命ではないにしろ、この鉄壁はケルヴィンを十分に驚嘆させた。

「無駄■、■■なの■!」

必要以上の追撃はしない。傷は浅くとも血は出るもので、グスタフはそこから新たな血で武器を形成するからだ。案の定、直後に腹部より飛び出た血の槍を尻目に、ケルヴィンはグスタフが何の状態異常にも掛かっていない事を確認する。

(呪いは効果なし。セラの血染も物量に押されるか)

グスタフの体内は血染を有した血が巡っている。短剣となったセラの血で表層を多少塗らそうとも、グスタフを操作する事はとてもではないができない。ケルヴィンの体内への浸入をセラの血が防いだ、先ほどの意趣返しとなってしまっていた。愚聖剣クライヴの呪い付加効果についても同様だ。敵意むき出しの口から垂れ流す呪詛の言葉が、クライヴの呪いを巻き込みながら吸収していると、ケルヴィンは脳の激痛が増している事から察する。脳への負荷がリミットを超えた為か、目や鼻からは血が滴っていた。

「―――シィッ!」

緩急を付けた超スピードによる背後からの強襲。残像を幾つも残しての攻撃に、グスタフは目で追う事もできなかった。ケルヴィンが装備する 悪食の篭手(スキルイーター) には現在、リオンの『二刀流』と、アンジェから別れ際に受け取った『凶手の一撃』が篭められている。不意打ちを必ずクリティカルヒットさせるこの隠し玉であれば、鉄壁を誇るグスタフにも大ダメージを与えられる。そう目論んでの攻撃だった。

「残■だっ■■、痒■■っ!」

だが、背後からの強襲は見破られていた。目で追えなくとも、ずば抜けたグスタフの察知スキルはケルヴィンの位置を正確に捉えていたのだ。認識されれば凶手の一撃は発動せず、不意打ちとなる筈であった攻撃は先刻と同じ結果に終わってしまう。

「くっ!」

背中にできた傷口から雪崩のように放出される針の山。1本1本が強靭に伸びるそれらは、ハリネズミが針をミサイルの如く飛ばす様に似ていた。点の攻撃が密集して面となり、 衝撃(インパクト) で吹き飛ばそうとも躱す隙間をどんどん塗り潰していく。ケルヴィンは両手の剣で次々と処理していくが、それでも頬や腕などを掠らせてしまった。少量の血であればセラが護ってくれる。が、補助魔法のタイムリミットは刻々と迫っていた。

「終■■だ!」

「いいえ、これからですよっ!」

―――もう一度説明するが、今のケルヴィンはコレット並にトリップしている。コレットがその狂気を信仰に捧げるように、ケルヴィンは相手を打ち倒す事しか考えていない。そこに諦めの文字はなく、飽きる事なく頭を回し続けて勝ち筋を模索する事だろう。自分は死なない、相手は逃がさない、何が何でもぶっ倒す。その点を徹底的に突き詰めるのは過去の反省からか、それとも単なる趣味趣向か。兎も角、彼は諦めが悪かった。攻撃を受けながらも、ケルヴィンは詠唱を完成させる。

「 全土崩壊(サブサイデンスクエイク) 」

禁じ手の1つ、S級緑魔法【 全土崩壊(サブサイデンスクエイク) 】。ケルヴィンが足場と認識した視界の地面一帯に大地震を引き起こさせ、全てを崩壊させる大魔法である。外で使っては大災害待ったなしになってしまう為、まず使用しないと決めていた魔法なのだ。しかし屋内となれば話は別。目に入るのは断罪の間の床しかなく(壊した壁の向こうは意図して見ないようにする)、塔の最上階である高所であれば震えるのはこの階層のみ。

―――ゴゴゴゴゴゴゴッ!

尤も、試練の塔は確実に倒壊してしまうだろうが。

「ぐ■っ!? 貴■、塔■■!」

「お義父さん。たぶん、次がラストチャンスなんで…… 存分に楽しみましょう!」

大地震と共に粉砕される断罪の間。4層の径庭の試練の天井部、5層の断罪の試練の床の境目にて起こった崩壊であるが、塔の外壁が振動を伝って、または上空から舞い落ちる瓦礫が下層部にぶつかって、試練の塔の倒壊が始まった。セバスデルの能力によって内部の空間を広くしていた塔は元の広さへと戻り、塔の壁が中心へと押しやられてくる。

「ぬ■っ」

足場の崩壊に際して宙に投げ出されたグスタフであるが、すぐさま翼を広げて羽ばたき、その場で停滞する。

「奴■……?」

周囲は瓦礫が未だ雨となって降り注いでおり、ケルヴィンの姿は視認できない。ならばと察知スキルで位置を特定しようとするが―――

(……っ!? 奴の気配が、周囲に50!?)

グスタフを取り囲むように、瓦礫の向こう側にはケルヴィンと同質の気配が無数にあった。タネは魔法によるものと魔力察知で瞬時に理解する事ができたが、肝心のケルヴィンの気配が読み取れない。恐らくは、このどれかに溶け込んで隠れている。そして闇に乗じて接近するつもりか、無数の気配はグスタフの方へと近づいていた。

「小■、■■までも■癪っ! なら■、全■■殺■み!」

グスタフは全身の傷口に備えた武器を大型の弾丸へと変え、ありったけを周囲に放ち始める。攻撃は最大の防御、己の限界に至るまで撃ち尽くすつもりか、空には血の薔薇が咲き誇っていた。その射程範囲には身を潜めていたケルヴィンも含まれているが、当たっているかは不明である。

「ぬうっ!?」

ザスッ、とグスタフの翼に何かが突き刺さった。見れば、ケルヴィンが持っていた愚聖剣クライヴが翼を貫通している。攻撃に集中していたが為の僅かな反応の遅れ。グスタフは片翼を落とし機動力を削がれ、宙への停滞を崩した。そして、いつの間にか取り囲んでいた気配はグスタフの直ぐそこにまで迫っていた。

「……ふう」

全身を撃ち抜かれ、体に3発ほどの大穴を開けたケルヴィンが、大鎌を振りかぶる。大穴にはセラの血全てを固めて血が出ぬように塞ぐ、最低限の手当てのみ。回復なんてしている暇はなかった。何よりも他の魔法を使って察知されては意味がない。使うのは、攻撃の直前。絶対に当たると確信した、 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) を生成する時だけだ。

本来は救難信号代わりに扱われる自身の気配を増進させるE級白魔法【 点滅(ブリンク) 】。ケルヴィンは塔崩壊時、この魔法を自在に操作可能にアレンジした 誘導点滅(アモルブリンク) を乱発したのだ。これは自身に掛けるのではなく、対象と酷似した気配を発する魔力玉を飛ばす魔法だ。 誘導点滅(アモルブリンク) は目には見えず無害ではあるが、察知スキルは過敏に反応してしまう。対セラ用として密かに開発していた魔法によって、グスタフは見事に惑わされた訳だ。

「ありがとう、ございましたっ! これからよろしく―――」

「―――するかボケっ!」

グスタフの純粋な怒りの詰まった熱き拳がケルヴィンの顔面を直撃し、死神の大鎌がグスタフを引き裂く。直後に瓦礫と共に落下する2人を視認していたエフィルは、酷く動揺しながらもメルフィーナに念話を送っていた。