作品タイトル不明
第357話 意地でも壊す
―――魔都グレルバレルカ・魔王城王座
(ッチ、やはり火竜王の力まで取り込んでいたか。ますます化物じみてきたわね)
唾を吐き捨てるが如く、苦虫を噛み潰したような表情が浮かぶ。ベルは王座の間より天井越しに空を見ていた。領土全土に冴え渡った彼女の察知能力は上空より降下するボガの全長を、重量を正確に捉えて数値化する。
ボガの身を覆っていた岩は黒く変色し、刺々しい溶岩石で見上げるほどの山が形成されるようになっていた。大きな特徴としては兎も角巨体、見るからに超重量。黒岩の隙間からは燃え盛る溶岩の光が洩れ、口に備えられた塔のように聳える大牙は相手が何であろうと捕食するだろう。以前とは一変したボガの姿から煉獄炎口で火竜王の力を受け継いだのだと、ベルは容易に想像する事ができた。
(あの巨体からの落下、それも真上…… 蒼風反護壁(ディセクトカウンター) 自体は破壊されなくとも、このままじゃ威力を削り切れずに弾くまでに城に届いてしまう。これだから召喚士を相手にするのは厄介なのよね。まあ―――)
ベルが足先でコツンと2度3度床を叩くと、脚甲より放出される風の流れが変わり始めた。
「―――それがどうした。って感じだけど」
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―――グレルバレルカ帝国
ケルヴィンがボガを魔王城の丁度真上へ召喚した直後、魔王城を覆っていた蒼き繭に変化が生じた。風が繭の上半分に集中して、その厚みが部分的に強化されたのだ。
(あの結界、魔力をコントロールして強弱を自在に操作できるのか。良いな、実に良い。だがなぁ、あの蒼い風、ガウンの闘技場で見たベルの風に似てるんだよなぁ。って事は、十中八九あの術者はベルって訳で……)
喜びと口惜しい気持ちが同時に込み上げる。ケルヴィンは何気なくセラの方を向くと、偶然に視線がぶつかってしまった。
『ベルの相手は私よね?』
『……うん』
まだ何も言っていないが、その前に笑顔で釘を刺されてしまったケルヴィンは頷く事しかできなかった。交渉の余地は皆無らしい。
そうこうしているうちに上空のボガが繭への突撃を開始した。
「グゥルルアーーー!」
大声量による音の破壊力は進化後更に昇華されており、それだけで繭の表面を大きく歪ませるほど。接触の直前に放たれた音の 息吹(ブレス) で繭が陥没したところを、ボガの巨体が舞い降りる。大きく開けられた牙を真下にするようにボガが繭を喰い破らんとし、更には背の黒岩が大火山を思い浮かばされるような噴火を引き起こした。これにより結界にかかる負担は増大。ボガの岩肌が魔王城の先端に触れるまで、あと僅かのところまできている。
しかし、ベルの 蒼風反護壁(ディセクトカウンター) の殆どはボガの触れる面のみに集中するよう移行。強まる逆風と相まって反発しようとする力は高まり、一方でボガは自身の噴火が徐々に弱まっている事に気が付く。風の結界を食い破るのはもう少しで可能そうだが、このままでは弾かれてしまいそうだ。
『横の護りが薄くなった今でしたら魔王城を爆撃できますが、如何しますか?』
エフィルが次矢を装填しながら具申する。
『城を破壊するのが目的じゃないから、今はいい――― と言いたいところだが、情けは人の為ならずって言うしな。もう一発いっとこうか』
『承知致しました。ですがご主人様、そのことわざの意は若干異なるかと』
『え、そうなの?』
それよりこの世界で日本のことわざが通用している辺りどうなのよ、等とケルヴィンはふと考えたが、日本由来のトラージがあるから伝わっていてもおかしくはないかと自己解釈。既に語学力においてエフィルに負け始めている事は気にしないように努めていた。
『エフィルねえ、ちょっとだけ手強い敵が来たよ! 固有スキル持ちかも!』
絶妙なタイミングでリオンからの念話が舞い込んできた。ゴーレム程度であればリオンが念話を寄越す必要はない。となれば、今エフィル班へ向かっている者はそれ以上の強者となる。ケルヴィンは何でそっちに行ったかなと心底げんなりしつつ、次こそは自分に来い来いと打算的な祈りをグルメ神に捧げた。
『エフィル、こっちは別の手で何とかする。リオンの支援を頼んだ。ムドも余裕があればメルフィーナ達の援護を優先してくれ。何となくそっちにも行きそうな気がする』
『承知致しました』
『『『承った』』』
念話を打ち切り、ケルヴィンは再び 蒼風反護壁(ディセクトカウンター) を破ろうとするボガの様子を推察する。
(やはりと言うべきか、あの蒼の風に触れてからボガの力が噴火力が弱体化しているか。ボガならギリギリ破壊してくれそうなもんだけど、このままじゃ弾かれるのは時間の問題……)
ケルヴィン達は既に城下町の中枢部にまで到達している。内部は思いの外警備にあたるゴーレムが少なく、わざわざケルヴィンが手を下すまでもなく先頭を走るアンジェとセラが切断・粉砕してこれを駆逐。このまま順調に進行できれば魔王城も直ぐそこだ。言うなればケルヴィンが 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) を使えば良い話で、そこまで無理をしてベルの結界を破壊する必要もないのだが、戦いにおいて負けず嫌いなケルヴィンはあまり妥協したくなかった。ぶっちゃけ相手がどこまでやれるのかを計りたい気持ちも強かったのだが。
(配下の力も召喚士の力、って事でここは1つ)
謝る気など更々ないが、形式上心の中で手を合わせるケルヴィン。すると、天に魔力が集まり出す。ボガの背後に顕現したのは、ボガを召喚したものとはまた別の魔法陣であった。魔法陣となれば当然ながら何者かが現れるもので―――
「ゴ、ゴアッ!?」
降り注いだのは、もう1体のボガであった。これには闘争本能全開だったボガも目を丸くしてしまう。何せ、自分と瓜二つな巨大な火竜王の姿が隣にあったのだ。しかし半透明な黒を含んだその色合いは見覚えがあり、ボガは次の瞬間には全てを理解した。
『おかわり希望だそうだ。クロト、存分に喰らわせてやれ』
そう、このボガの正体は保管内にある体を引っ張り出したクロトが擬態したもの。普段であればここまで体を大きくさせる事は絶対にないが、やろうと思わばできてしまうのがクロトである。戦力を掻き集めたクロト戦闘体である為に地力も高い。
ボガ1体で互角の勝負。そこにクロトが加われば天秤のバランスは崩され、結界も同じくして破壊される。ケルヴィンの目論見通り蒼き繭は許容オーバーを起こして決壊。金属化でコーティングされたクロトの牙と、火竜王の荘厳なる牙を持つボガに食い破られた。
「――― 魔人蒼闘諍(スクリミッジディビリテイト) 」
魔王城の最高部、屋根上にて呟かれた少女の声。立ち上がった彼女の足や尻尾、翼、角には蒼き鎧が施され、更にその上には純白の脚甲が新たな姿に適応する形で生まれ変わっていた。彼女、ベル・バアルの心情を反映するかのように、脚甲の隙間からは荒々しい豪風が吹き荒れ続けている。
「グゥガァアアーーー!」
明らかな敵意に、クロトとボガは次のターゲットとして狙いをベルに定めた。重力に誘われるまま、複数の大牙の猛威が振るわれる。
「ったく、こんなところで姿を晒す気なかったのに……! 人の家に土足で入り込んでおいて、更には破壊活動に勤しむ? 親の顔を見てみたいもの、ねっ!」
蹴り上げられた蒼と白の軌跡が、竜の牙と衝突した。