軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第356話 蒼き繭

―――グレルバレルカ帝国

作戦の開始後、ケルヴィンらは真っ先に魔都へ向かい疾駆。起き上がり始めるゴーレムは邪魔にならない限り極力無視し、兎に角魔都内部への侵入を最優先としていた。しかし、魔都の外部や城壁に隠されていたゴーレムの数は予想以上に多い。起動するなり紅き靄を纏い始め、隊列を組んで侵攻を阻む光景は宛ら実体のない深紅の壁。整然と統率されたゴーレムのその動きに、単独よりも連携される方が厄介なタイプだったのかとケルヴィンは感じ取る。

『統率されたS級モンスターの集団……! 俺にこいつらを見逃せと言うのかっ!?』

『はいはい。そんな顔したって必要最低限しか相手しちゃ駄目だよ、ケルヴィン君』

『それよりもエフィル! 挨拶代わりに派手に決めちゃって!』

高らかに先手必勝を提唱するセラ。世界広しといえども、帰省の最中に自らの実家に向かって爆撃を要請した人物は非常に稀有な存在だろう。それはこの程度であれば魔王城は壊れないという謎の自信か、それとも単に気分が乗っていたのか。

『承知致しました。ムドちゃん、いくよ?』

「「「グォン!」」」

竜化したムドファラクが地に伏せるようにして姿勢を低くし、その強靭な両手の鉤爪で地面を抉る。両足はしっかりと地を踏み締め、衝撃に対しての備えは万全。白菫色に染まる竜鱗に走る幾つもの蒼きラインが、準備は整ったとばかりに淡く光り始める。 火神の魔弓(ペナンブラ) を構えるエフィルはそんなムドファラクの背に立ち、鏃に猛炎を集束させていた。

ムドファラクの3つの口から溢れ出す3色の高エネルギー。異なる属性を伴う 息吹(ブレス) は放射されるのではなくただ1点に、三つ首の眼前にて極彩色を放ちながら小さな弾薬を形作っていく。エフィルが白熱する1本の矢を作り終えたのと同時に、ムドファラクも『圧縮噴出』を駆使して極限まで威力を閉じ込めた弾丸を完成させていた。

『僭越ながら、この一矢と一弾にて開戦の宣言とさせて頂きます』

爆音と共に投じられた矢の名は 破爆白矢(エクスプロードアロー) 。固有スキルによる蒼炎化は施されていないが、着弾と同時に大爆発を引き起こすという単純明快な、しかしながら純粋に威力の高い矢である。

そしてその白矢の後を追うは、ムドファラクが発射した 竜咆超圧縮弾(サジタリア) 。噴出された弾丸は銃撃と称するよりは地を這うレーザー砲に近いそれとなり、軌道線上にいたゴーレムをいとも簡単に融解させ、その余波で付近にいた者達をも弾き強烈な衝撃を与えている。

―――そんな衝撃の有効範囲にはケルヴィンらもバッチリと納まっていたりするが、アンジェは襲い掛かる衝撃をすり抜けて、ケルヴィンはアンジェより 悪食の篭手(スキルイーター) で借り受けた同様の力で回避。セラはというと、コレットが綺麗な虹を作りながらも付与してくれた障壁の護りが働いた事により、こちらも無傷で済んでいた。

『おおう…… 竜化したムドの本気、何気に見るのは初めてだな』

『綺麗な光ねぇ…… あ、お蔭で道が開かれたわ。うん、計画通り!』

『清々しいまでの力押しだよねー』

フレンドリーファイアを厭わないムドファラクの 竜咆超圧縮弾(サジタリア) 。大丈夫だと分かっていても自然と肝は冷えるもので、セラを除くケルヴィン班は思わず苦笑いを浮かべていた。だがセラの指摘通り、魔都へと繋がるルートを塞ぐゴーレムは一掃されている。更に魔王城へはエフィルの白矢、上方に曲線を描きながらムドの弾丸が尚も向かっていた。

(さて―――)

駆ける足を動かしながらも、ケルヴィンは流星の如く城へと接近する輝きに期待を込めた瞳で注目していた。何も、この攻撃で魔王城が崩壊する事を期待しているのではない。敵がどうやって贈呈した脅威を取り除くのか、子供のようにワクワクしながら熱い視線を送っていたのだ。それは窮地に立たされたヒーローが状況を打開すべく行動する様を、楽しみながら思い浮かべているような純真なもの。

(―――驚かせてくれよ?)

口端が心持ち邪悪なのはいつもの事だ。そして、どうやらケルヴィンの願いは叶えられたようである。変化が生じたのは衝突に至る直前だった。

肉眼でも確認できるまでに蒼に染められた風の撚り糸。どこからか現れた無数のそれらは瞬く間に魔王城を囲い、美しい繭を紡ぎ出した。やがて、白矢と弾丸が蒼き繭へと進撃した。

―――カッ!

地上を覆い尽くす光と熱気が、魔王城を中心として波状する。エフィルが魔力を入念に注入した 破爆白矢(エクスプロードアロー) が、その名に恥じぬどころか十分過ぎるほどの大爆発を引き起こしたのだ。まともに喰らえば山をも削り取る大打撃、いや、大爆撃である。爆発の中へ 竜咆超圧縮弾(サジタリア) が更に突貫。災害のデュエットとはこの事だろう。

(((((……やり過ぎじゃない?)))))

誰もが「あ、魔王城死んだ」と見做してしまう。そのくらいに挨拶にしては酷い惨状であったのだ。だが、戦闘狂は直後に口端を吊り上げる。 ―――魔王城は健在だった。

キノコ雲を立ち昇らせたエフィルの爆撃。蒼き繭はその姿を爆破によって変形させられながらも、爆発を受け止めるかのようにその箇所の表面層を沈下、やがては押し込まれたゴムが反動で押し戻ろうとする如く、炎を押し返し始めた。時が経つにつれて炎はその苛烈さを失っていき、大多数は弾き返されると同時に宙へと消えてしまった。

ゴーレム達を容赦なく葬ったムドファラクの一撃はどうか。下から上へと斜めに抉るような形で繭へ潜り込んだ弾丸は、爆発と同様に繭と接触する度にその威力を失っていくが、 息吹(ブレス) を集約し圧縮させた猛威を刈り取り切るまでには至っていない。であるが、抉り込んだ一撃は繭の外層を伝い楕円状に進行方向を修正され、最後には受け流されて遥か後方の空へと消えていった。

結果的に、繭の内部に隠れた魔王城は無傷である。

『―――ハ、ハハハッ! 何だアレ? 爆撃と狙撃を受け切り、いなし切りやがった……!』

『良かったわね、ケルヴィン!』

こちらはこちらで笑顔が弾けていた。喜ばしい事に歓喜するも、自称理性的な戦闘狂は分析も忘れていない。

『細やかな風が絡み合って、削ぐ弾くに特化した柔軟な障壁を作り出したのか。柔らかい結界ってのは斬新だな。なるほど、そういう運用の仕方もあるか。一見緑魔法で作り出した風の障壁だが、まだ別の何かが組み込まれているな。固有スキルだとすれば、 智慧の抱擁(アスタロトブレス) で魔法を分析できたとしても同様の運用までは難が―――』

『並列思考で戦闘に支障はないけどケルにい、研究中のシュトラちゃんみたいになってるね』

『え、私? そ、そうかな……?』

夢中になれるものがある。実に素晴らしき事だと口にしたのはケルヴィンの弁である。

『なら、これはどうだ?』

魔都の城壁を囲う深紅の外堀を 飛翔(フライ) で乗り越えたケルヴィンが杖を掲げる。呼応するように魔王城の上空へと現れるは、空を覆い尽くすほど巨大な魔法陣。召喚術で配下を使役する際に出現するそれを見たコレットは、自身が用いるものとのスケールの差に酷く敬服したようで、それはもう良い笑顔を曝け出していた。嘘偽りなく笑顔溢れる職場がここにある。

『ボガ、初仕事だ。何、簡単な力押しだよ。思う存分押し潰せ』

『ゴアアァァーーー!』

魔法陣より降下した黒岩竜は、その日までに眼にした誰よりも、何者よりも超大であった。