作品タイトル不明
第355話 里帰りは劇的に
―――グレルバレルカ帝国
以前、俺とアンジェが 密偵活動(デート) の際に出くわした魔王グスタフを模したゴーレム。こいつが複数体いると想定して、配備されていると予想される場所から更に離れた場所より魔都を観測する。今回はちゃんとエフィルから『千里眼』を借りてきたから、ここからでもバッチリと様子を窺う事ができる。
『城壁の上、魔王もどきを3体発見。やっぱいるな』
『こちらエフィル。同じく紅い靄を纏う亡霊のような者を4体発見。起動はしていないようですが、他にも巧妙に隠蔽されているゴーレムが見えます。それらは紅い靄を発生していません』
『了解。起動する事で靄を出すよう連動させているのかもしれないな。どちらにせよ、沢山いるのは良い事だ』
『お兄ちゃん、敵は少ないに越した事はないよ?』
『……え?』
『うん。私も慣れちゃったから、もうこれ以上のツッコミはしないからね』
そ、それはそれで悲しい…… いや、別に狙って言ってる訳でもないんだけどさ。つい自然と疑問符が頭の中に浮かんでしまったのだから、仕方ないんだ。お兄ちゃんは悪くない。ああ、いかん。これではジェラールと一緒ではないか。俺は理性的、俺は理性的な戦闘狂。
『王よ、何か酷く失礼な事を思っておらんか?』
『気のせいに決まっている!』
『う、うむ? そうか……? ならば、そろそろ作戦――― 否、帰郷開始じゃな』
『ああ、分かってる。各班、準備はいいか?』
魔王城を見据えながら念話を飛ばす。おっと、もう1体発見。
『エフィル班、配置完了致しました』
『メルフィーナ班も同じく。いつでもいけますよ』
『ジェラール班、まあ見ての通りじゃて』
魔都グレルバレルカへのセラ帰郷作戦。正体不明S級相当のゴーレムを蹴散らし、魔都の内部にいると有力視される神の使徒、及び蘇生されているとすれば魔王グスタフを相手せねばならない。では如何にすれば効率的に、かつ平和的に解決する事ができるだろうか? 答えは簡単、力押しである。
まず、城攻めを行うグループをパーティから更に4つに分けた。
1つ目が魔都内部へ乗り込み、王座を目標としてゴーレムを操る黒幕の打倒を目指すケルヴィン班。俺が率いるここはセラとアンジェが一緒だ。
2つ目が遠方からの火力支援を目的とするエフィル班。リーダーのエフィル、ムドファラクが狙撃を担当、万が一に敵が近付いた際の露払いとしてリオンとアレックスを置いている。
3つ目はメルフィーナがリーダーを務め、コレット、シュトラと共に魔都周辺のゴーレム殲滅の主力となるメル班。魔都の外であればエフィル班の支援を受けやすいだろうし、何よりもメルの傍の方が力を発揮するだろうとコレットをここに選んだ。トリップし過ぎて倒れても持ち駒の多いシュトラが救助してくれるだろう、たぶん。
最後はジェラールを頭とし、火竜王となってからお披露目となるボガ、力を集中させたクロト(戦闘体)が所属するジェラール班。主な役目は――― まあ、お楽しみという事で。
で、この面子で力押しの帰郷作戦を行おうというものなのだが、おいおい、他にやりようがあるだろうと指摘の声もあるだろう。だけどさ、問答無用で侵入者を排除しようとするゴーレムを相手に話し合いを始めとした平和的解決を求めるのは愚策、ナンセンスだ。
お義父さん(グスタフ) が居たらどうするんだ? 居たにしろ、どうせセラを巡っての殴り合いが始まるだろ。溺愛する 愛娘(セラ) から授かった情報を吟味すれば、それくらい誰でも予想がつく。ならば後腐れなく、最初から気持ち良く開戦したいというのが人の常。殴り合いからの友情エンドしか思いつかなかった訳ではない。逆に俺は今、真理に至ったのだ。
『帰郷開始後、エフィルとムドは挨拶代わりに魔王城へ爆撃と狙撃を。メル達はゴーレムの殲滅に努めてくれ。俺たちは眼前の敵を崩しながら魔都内部へ突貫する』
『僕とアレックスは状況を見ながら遊撃隊に移るね。エフィルねえとムドちゃんなら、正直護衛がいるのか微妙な気がするし』
『暫くして大丈夫そうなら、念話での報告後に個々の判断で動いても構わない。あくまでリオン達は向こうの隠し玉に対しての保険だからな』
まあ、2人なら白兵戦も竜王相手にできちゃうんだが。
『ねえ、ケルヴィン。打ち合わせで決めた通り、相手があの子だったら私に譲りなさいよね。寸前になって「気が変わった」は通じないから!』
『……え?』
『お兄ちゃん……』
念話越しにシュトラの冷たい視線が伝わってくるようだ。冗談はそろそろ止めておこう。 ……冗談だよ?
『心得てるよ。相手がベルならセラが、グスタフなら俺が担当。もしそれ以外の奴だった場合は、アンジェを加えての念話ジャンケン一発勝負後出し負け、で決めるだろ?』
『そ、公平にね!』
『私としては不公平この上ないんだけどねー。こう、運命力的に』
不満気なアンジェが頬を膨らます。念話ではなく普通に対面してやる分には、十中八九アンジェが勝つんだけどな。ジャンケンの動作と咄嗟の判断が素早過ぎて。対して念話であれば判定を決めるのは声、勝負の行方を左右するは運のみ。念話なら時間も取らないし、実に公平じゃないか。
『ブーブー!』
『頬を膨らませても駄目だって。俺だってセラを相手するんだからさ』
『ん? ジャンケンだから勝率は皆五分五分でしょ?』
『『……ソウデスネ』』
まあアンジェには悪いが、俺にとっては運任せの勝負の方がまだ勝算がある。分が悪いのは変わりないけどさ。
『ご主人様、そろそろ……』
『ああ、時間か。それじゃあ――― 帰郷、開始!』
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―――魔都グレルバレルカ・魔王城王座
「……ッチ、来たか」
邪悪を体現した魔王の王座にて寝そべっていたベルは、面倒臭そうに目を擦りながら身を起こした。サイドポニーにまとめた紅き髪が前に垂れる。
「……ふうん、随分と大所帯じゃない。どうやら本気のようね、セラ・バアル」
両目を閉じて神経を研ぎ澄ましたベルは察知能力を魔都の外まで伸ばし、状況の把握を完了。次いで晒していた素足に風が舞い、純白の脚甲があたかも最初からそこにあったかのように、瞬時に装着された。脚甲の隙間から蒼き風が噴き出しては、部屋中に、それどころか魔王城中に魔力が満たされていった。
「カラクリを知った暗殺者が相手じゃ、ゴーレムを停止状態にしても意味ないかしらね。カーディナルレイジ357機、全駆動。私たちの邪魔をさせるな」
そんなベルの呟きに返答するように、グレルバレルカの領土中で電子的な起動音が鳴り響いた。
「とはいっても、今のあいつら相手じゃまだ弱いか…… ッチ、反魂者の力を借りるみたいで反吐が出るけど、仕方ない。今ばかりは感謝してあげるわ、無駄な脂肪の塊。彼らを蘇らせてくれた事だけは―――」
瞬間、ベルはある方向を向いた。大規模な魔力の塊が、遥かその先から放たれたのを感じ取ったのだ。勇者との決戦の地であったこの堅牢なる城でさえ、簡単に吹き飛ばしてしまうほどの恐ろしき力の集合体。それも、このままでは数秒後には魔王城へ着弾する。
「――― 蒼風反護壁(ディセクトカウンター) 」
純白の脚甲が、再び風を噴き起こした。