作品タイトル不明
第354話 いざ、魔都へ
―――ドクトリア王国・仮拠点
「さて、転移門の実証試験も終わった事だし、いよいよセラの里帰りを行おうと思う」
皆が仮拠点に集まったところで、打ち合わせを開始する。里帰りと言ってしまえば聞こえは良いが、実際は悪魔の軍隊さえも寄せ付けない魔都グレルバレルカへの侵攻と同義。この前のグスタフ似なゴーレムの件もあるし、そう生易しく物事は進まないと踏んでいる。
「俺とアンジェが偵察に行った時に遭遇した魔王の亡霊、もといゴーレムだった訳なんだが…… セラ、見た感じで何か思うところはあるか?」
クロトに回収して貰った例のゴーレムをテーブルの上に並べ、セラに尋ねてみる。魔王グスタフっぽく装飾されたそれなだけに、何か知っている事があるかもしれない。
「かなり高性能なゴーレムよね。ステータスだけなら、私たちの騎士ゴーレムを上回っているんじゃない? あ、装着させたマジックアイテムで認識阻害できるみたいだし、これも分解してワンやトゥー達の強化パーツに充てるのはどうかしら?」
「うん、確かにそれは良い考えなんだが…… 他に思い付く事はあるか?」
当然ながら有効利用はするけどさ。このゴーレムがグスタフに似ている理由とか、愛娘だから分かるような何かがないかな。
「父上に? そう言われてもねー…… 似せているって言っても、本当に最低限よ。父上が好んで使っていた大刀、私の髪と同じように真っ赤な長い髭――― 認識阻害の靄で輪郭を誤魔化して高速移動すればそれで済んでいたんでしょうけれど、正体が晒されたこんな状態じゃ、配下の悪魔には一目で偽物だと看破されちゃうと思うわよ」
まあ、確かに。顔を仮面で隠し真っ赤な衣服を羽織ってはいるが、ゴーレムの関節には機械的な継ぎ目が見受けられる。セラの話を聞くに、グスタフの偃月刀からは炎を吐くような機能はなく、赤魔法を使っているところなんて見た事も聞いた事もないらしい。グスタフと親しい実力者であれば、その戦闘法から不審に思ってもおかしくないとまで言い切られてしまった。
あのゴーレムの動きを見切れるくらいとなると、それこそビクトール、悪魔四天王クラスの奴じゃないと無理だと思うけどな。それでもトライセンで出現した巨大な青のゴーレムには劣るのが気になるが…… もしかすれば、量産型って線もあるか? 首都だけとはいえ、あれだけの領土に対する侵攻をカバーしていたんだ。他に同型が数体いたっておかしい話ではない。
「魔都周辺の支配領域は昔から変わらず父上の領土になっているみたいだし、周辺諸国にそうだと思わせたい誰かがいるのかも」
「グスタフがまだ生きていると思わせたい、か。しかし、やっぱりセラの妹がいそうだよなー」
「断罪者、あれで結構優しいところがあるからね。家族愛に溢れていても、私は不思議じゃないと思うよ」
「そうよね、何といったって私の妹だもの!」
「まだ似てるってだけで、全然確定してないけどねー」
豊かに実った胸を張って自信満々に自慢するセラに、あははとアンジェが笑みを浮かべる。だが一頻り笑った後、アンジェは途端に真面目な表情を作って静かに口を開いた。
「……でも、断罪者がエレアリスの使徒である事は間違いない。私やエストリアは使徒を裏切る形になったけど、断罪者が都合よくこちら側になるとは限らないよ? 何か他に理由があるのかもしれないしね。セラさんにはその時の覚悟をしておいてほしいな。自分の為にも、ケルヴィンの為にもね」
「………」
仁王立ちのまま、セラは動かない。厳しい言い方をしているが、アンジェはセラを心配しているんだ。断罪者、ベルがある覚悟を持って本気でセラを打ち倒そうとしてきた時、セラが甘い考えから脱却できるかを。遠い昔に家族を亡くしたと思われていたセラの前に現れたのが、あのベルという少女だ。ただでさえセラは妹疑惑な彼女に甘い嫌いが見られる。バアルの姓についても知っていると暗示する発言をしたりと、仮にこれが使徒の策略だった場合、かなり危険になるかもしれない。
「うん、無理にとは言わないよ。もしもの時は私が―――」
「―――いえ、大丈夫よ。今、優先順位を決めたわ」
「そっか。無理しないでね」
「セラねえ……」
無言の最中にセラの中でどれほどの葛藤があったのか、戦闘でしか能がない俺では想像もつかない。それに本来は俺から言わねばならない事を、アンジェにフォローしてもらった。俺は俺で力にならないとな。
でも優先順位、俺が先だと良いな…… せめてお義父さんには勝ちたい。と、俺が脳内でそんな馬鹿な事を考えても雰囲気がやや沈み気味。ここは当たり障りのない、無難な話題を振って緊張を緩和させるが吉である。
「そういえばコレット、無理に呼んで悪かったな。結構留まってもらっちゃったが、巫女の仕事の方は大丈夫なのか?」
話の矛先はコレットだ。この数日ですっかり仲間達と馴染んでしまい、打ち合わせの中にまで自然と入ってしまっている。先生として連れて来た俺が言うのも何だが、本業の巫女を放置した現状を危惧している。これでもコレットはデラミスのナンバー2、会社でいえば副社長なのだ。そんな彼女が無断で長期間不在になっては、混乱は必至だろう。
「ご心配なさらず。私の意思でケルヴィン様に付いて来ただけですし、配下のクリフを通じて教皇の許可は既に取得済みです。もう1週間ほどは滞在できますよ。それにデラミスの巫女にとって、神に従事するのが最も大切な神事――― 詰まり、これも立派なお勤め! メルフィーナ様と行動を共にし、身を粉にして、いえ、この身を捧げる心積もりで貢献する所存なのです! 精励恪勤、大死一番、愛及屋鳥の精神で追尋致します! 例えそれが敵中へ投じられる囮であろうと、真夜中に誘われようと、私は喜んで―――」
「はい、ストップストップー。段々声が大きくなってるぞー」
「も、申し訳ございません。興奮してしまいまして、ハァハァ」
ごめん、全然無難な話にならなかった。小さな子もいるんだと配慮してほしいかな、聖女様。
でもなぁ、コレットをグレルバレルカへ連れて行くのは想定外なんだよな。万が一があった場合、果たして護り切れるかどうか。
「あなた様、コレットは何かと役立つと思います。私は連れて行くのに賛成ですよ」
「メ、メルフィーナ様ぁ……!」
感極まって顔から色々で出てしまっているコレットはエフィルに任せる。
「んー、巫女の秘術は強力、コレット自身も高レベルだしな。同伴する組次第じゃ、化けるかもしれないか……?」
「ケ、ケルヴィン様ぁ……!」
「あの、コレット様。それ以上出されると脱水症状が―――」
いっその事、うちのパーティに入れてしまうとか。エリィとリュカみたいな感じになってしまうが、パーティの人数が増えたからといって経験値が減る事もないし。 ……ううむ、何時の間やらコレットをそこまで信頼するまでになってしまったか、俺。正直、立ち位置としては弟子の刀哉達よりも上かもしれない。あと、今はとにかく水を飲め。
「セラもいいか?」
「私? コレットなら文句なしでしょ。何かあったら私が助けてあげるわ、ふふん!」
「……そっか。うん、そうだな」
「?」
いつものドヤ顔にややキレがない。強がりな気もするが、セラの方も一先ずは大丈夫か?
「―――それじゃメンバーが決まったところで、魔都グレルバレルカへ遊びに行く算段、説明しようか」