軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第342話 研究班

―――ドクトリア王国・仮拠点

体調不良になってしまったガリアが配下の悪魔達と一緒に城へ帰ったところで、本格的に転移門の検証を行う。補佐役にはシュトラを付ける事とした。学園都市ルミエストとやらを最年少の首席で卒業したこの2人だ。トントン拍子で都合良く進むとは思っていないが、それでも密かに期待をしてしまう。金の賢女と銀の聖女の力、見せてもらおうか! 学園都市が何なのかいまいち把握してないけどなっ!

「それでは、転移門を拝見しましょうか」

「コレットちゃん、布取るね。んしょ……」

「シュトラには大き過ぎるじゃろう。どれ、お爺ちゃんが取ってやるとしよう。どっ、せいっ!」

気合いの入った掛け声と共に、転移門の片方を覆い隠していた大布を一気にはぎ取るジェラール。布の下から現れたのは、これまで見てきた転移門と同様のものだ。強いて言うなら、使用者の情報を読み込む為の台座とゲートを展開する門が、土の上で横になってしまっているところだろうか。地面と接している筈の断面には複雑な紋章が組み込まれていた。違う種類の魔法陣を何重にも重ねているっていうのかな。それぞれに意味はあるんだろうが、俺にはさっぱりである。

「思えば、現存する転移門を調査対象にするのは初めてですね。一向に転移門の研究が進まなかったのは、どの国も破損を恐れ、表面上までしか調べなかったのが一番の原因でしたから」

「お兄ちゃん、ちょっと分解しても良い? こんな機会、きっと今しかないと思うの!」

シュトラよ、そんなときめき顔で懇願しないでくれ。ジェラールじゃなくとも許可せざるを得ない。

「セラ。いいかな?」

「いいんじゃない? 2つもある事だし」

「本当に!? コレットちゃん、許可が下りたよ!」

「流石はケルヴィン様、素晴らしい先見性です。これは世紀の大実験になりそうですね……!」

ん? 気のせいだろうか。転移門の解析から実験に様変わりしているような?

「まずは見えるところから検証していきましょう。この幾重にも重なったシンボル、ここだけで5種類もの力を刻み付けていますね。固定と分散、進行に変位―――」

「それに接合と短縮系統も組まれているね。あとコレットちゃん、隅にこっそり描かれてる隠匿を見逃しているわ」

「私としたことが…… やはりシュトラちゃんには敵いませんね」

早くも2人はよく分からぬ世界に旅立ってしまった。複雑に重なった魔法陣を指差しながら、2人にはその記号の意味するところが理解できるらしい。何それ、暗号の解読?

「あら、それってもしかして紋章学? 懐かしいわね」

「セラお姉ちゃんも分かるの?」

「小さい頃に学んだの。担当教師のラインハルトの描き出す紋章がとっても綺麗で、一時期ハマったわね。暗記は苦手じゃないけど、見本を見ないで精密に描くのは苦労するのよね。あ、その紋章なんだけど、分散じゃなくて魔力と変異って意味もあるわよ。 奈落の地(アビスランド) だけかもしれないけど」

「「―――っ!」」

シュトラとコレットが驚愕しているが、それ以上に俺が驚いている。なぜにセラが天才達の会話へナチュラルに混ざっているんだ? 君はセンス全振りの明日は明日の風が吹くタイプじゃなかったのか。

「お、お姉ちゃん、ここは?」

「一見3つの輪になってるけど、この線だけ幅が違うわね」

「なるほど。であれば、こちらと組み合わせて別種の印になる可能性は―――」

うん、思い出した。異常なまでの勘とセンスに埋もれてしまって忘れがちであるが、セラはセラで天才的な頭脳を有していたんだった。俺の趣味であるゴーレム作りのアシストをする時など、斜め上の発想で助言してくれる事も多々あるし、エフィルが家計簿をつける時など暗算が誰よりも速かったりするのだ。グスタフの英才教育、侮れない。この状況を一言で言い表せばこうだろうか。

―――研究班にセラが仲間に加わった!

しかし、こうして改めて面子を見渡してみると圧巻だな。神より秘術を授かる聖女コレット、恐らくは人類最高峰の英知シュトラ、そして悪魔の頭脳、何時の間にやら白衣に眼鏡姿となったセラがここに加わる。これはもしかしたらもしかするんじゃないか?

「うん、うん…… これならば…… ケルヴィン様っ!」

「はいっ!?」

急に話を振るなよビビるだろ。無学な俺は話に混ざれないぞ。

「3日、3日だけお待ち下さい! さすれば、必ずや私たちが転移門の機構を解明致しますのでっ!」

「お願いお兄ちゃん! 私たち頑張るからっ!」

「ケルヴィン、待っていなさい!」

「お、おう、頑張れ」

3人の勢いに押されてつい許可してしまった。いや、逆だな。数日で世紀の大発見をする気なのであれば、これはやらせるべきだろう。転移門の設置と起動に成功したら、どうするかな。屋敷の地下に設置しちゃう?

「ご主人様。3日ともなれば、このまま外で作業して頂くのは少々……」

「そうだな、ちゃんとした部屋を作るべきかな。待ってろ、今仮拠点の一部を改装してくるから。クロトは転移門をいったん保管に入れて、新しく作る研究室にまた出してくれ」

「ああ! クロト、あと少し待って! 今いいところなの!」

「クロト、ハウスよ! 待ちなさい!」

黒を帯びたスライム状の大口が、転移門を包み込もうとした間際で静止する。表情を出せない筈のクロトが、困惑するように俺に視線を向けた気がした。ああ、俺もどうしたら良いのか分からんよ。

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―――ドクトリア王国・国境

さて、研究班が解析を進める間、手持ち無沙汰になってしまった俺であるが、このまま時間を浪費する気はさらさらない。もっと言えば、暇で死ぬ。メルフィーナやムドファラクであれば、不味い不味いと言いながらも悪魔の国食べ歩きツアーを敢行するところであるが、流石にそれについて行くのは自殺行為だ。俺の胃は鉄製でも宇宙でも異次元でもないのである。

「ケルヴィン君、こっちこっち!」

「時間はあるんだから、そんなに急ぐなって。唯でさえ 風神脚(ソニックアクセラレート) を付与した俺より速いんだからさ……」

風の力を纏った俺がかなり本気で前進する中、後ろ走り更には笑顔で応対するアンジェ。汗の1つもかかず、後ろに目が付いているのか余裕で障害物を躱している。ドクトリアを出発してからずっとこんな感じで、走っているのに向き合いながら会話するという奇妙な状況になっているのだ。ってかマジで速い。走り方からして手を抜いているのに差が縮まらない。

俺たちが向かうは当面の目的地としているグレルバレルカ帝国、そして唯一残った最後の領土たる首都だ。時間があるなら少し探りを入れようと、今はアンジェと共に偵察中なのである。あまり人数が多いと目立つだろうし、いざとなれば召喚術があるからこそのこの人数なのだ。

「だって、2人きりで行動するのって久しぶりじゃない? とっても楽しみなんだもん。これってデ、デートみたいなものだよね?」

密偵活動(デート) ? おお、そんな読み方もあったのか……! ああ、いや、俺も少し意識してたけどさ。

「…… 密偵活動(デート) だな!」

「だよねっ?」

惚れ惚れするようなにやけ顔のまま、背後から強襲してきたモンスターの首を見事に掻っ捌くアンジェ。モンスターさん。残念だけどそこ、死角じゃないです。彼女にとってはキルゾーンなんです。