軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第343話 国境越え

―――ドクトリア王国・国境

ドクトリア王国の領土はその殆どが砂漠や乾燥地帯で覆われている。空には灼熱の太陽が2つ、熱気により発生した蜃気楼が遠方の景色に映り、そんな中で走る俺の汗は止まる兆しを見せない。ここ連日暑苦しい場所ばかり旅しているが、光を吸収してしまう黒色を着込む身としては――― いや、ここで弱音を吐く訳にはいかない。同じ黒で統一された装備を纏って先行して走るアンジェは悠々と、バック走で景色を楽しむ暇さえあるのだ。男として負けてなるものかっ!

「あっ」

「どうした?」

俺が決意を固めていると、ふとアンジェが立ち止まった。

「ケルヴィン、あの辺りが国境じゃないかな? ほら、土地の気候が変わってる」

「うへー、綺麗に区分されてるのな…… あれが 奈落の地(アビスランド) の国境線か」

視線の先、今俺たちの立つ乾き切ったドクトリアの大地が、ある場所を境に草木が生い茂る草原へと変容していた。境界線は両方の土地をごちゃっと混ぜたかのような有様で、数メートル幅の線で土地を区切っているようにも見える。それもよくよく注視すれば、この線が微妙に動いている事が分かる。

「まるで浜辺の波だな。線はハッキリしているけど、行ったり来たりを繰り返して不安定だ」

奈落の地(アビスランド) において、領土の広さは国の力が強力であると誇示する事に繋がる。これは俺たちの住む地上にも当て嵌まる事ではあるが、この悪魔の世界ではよりそれが顕著なのだ。何せ、あの国境線のように力の大小が視覚的に捉える事ができる。

魔力が地上より溢れている為か、より悪魔達の闘争意識を高める狙いか。転生神であるメルフィーナの管理を離れた地底の不思議現象。どのような原理なのかは不明なんだが、この地下では力ある者の影響を受けて環境が変化する。力ある者の定義はその地で最も強力な個体であったり、国を主導する王であったりと様々だ。情報を集めた感じだと、個体の場合代表的なのが竜王だ。まあこれも配下に竜がいたりするから明確ではないか。実際問題よく分かっていない現象だし、ニュアンスで考えておこう。

環境の変化は基本的にその者が住まうに適した環境に変わるという。ガリアを例にするとこの乾燥地帯、お向かいのグレルバレルカだと草原に限らず多種多様な感じらしい。人間ならどうなるんだろうな? まあいいか。で、個人であれば自分の生態に合致した環境が広がるだけに問題はないだろうが、国の場合はかなり厄介になる。なぜなら、多くの場合異なる種族が共存できないのだ。

「ドクトリア王国はかなり特殊で、問題も山積みだね。前王ラインハルト、現国王ガリアにとってこの渇いた環境は都合の良い土地だけど、この国にはグレルバレルカ帝国が崩壊した際に付いて来た民草や部下も多い。グレルバレルカという色々な気候の土地柄があったからこそできた共存共栄が、この国ではとっても難しいんだよ。それでも今まで保ってこれたのは、ラインハルト王やガリア王の手腕、頑張りのお蔭! ってのがこの国の一般的な認識かな」

「あの短時間で拉致、ゲフンゲフン! ……謁見のお膳立てから情報収集までよくやるよ。ホント頼りになる」

「これでも元神の密偵だからね。さあ、もっと頼ると良いよ、ケルヴィン君!」

お姉さんなアンジェはすっかりその気だ。相手が相手であればここは気を抜くなと窘める場合もあるだろうが、そうはいってもアンジェは冗談抜きで頼りになるからな。仮に俺が 奈落の地(アビスランド) で旗揚げしたら、アンジェに要人暗殺頼むだけで大方制圧できる気さえする。

「今のままでも十分助かってるよ。しかし、他国じゃ異種族が共に住むってとこは少ないらしいな」

「ドクトリア王国は例外として、同じ環境を好む種族が集まって国を成すのが普通だよ。私たちみたいに共通の環境を好んでいる訳じゃないからね。国と国とで和平を結び続けるなら可能かもしれないけど、戦争にでもなれば生態系の押し売りをするようなものになっちゃうかな。悪魔は結構好戦的で、国民が多くなればより広大な領土が必要になる。更にどんな土地でも奪ってしまえば自分好みのものになるとすれば――― ま、後は現状を見れば分かるよね?」

「戦いを誘発させる為にあるような場所だな、ここ」

んー、地上を管理するのが女神だとすれば、地底を管理するのは…… 邪神、とか? いや、それこそエレアリスがその邪神(仮)と入れ代わっている可能性だってあるんじゃないか? うん、帰ったらメルフィーナ先生に聞いてみますかね。

「小難しい話はさて置き、それじゃあそろそろ国境越えと行きますか」

「あ、そうだ。国境線をジャンプして越えてみようよ!」

む、どこかで見た事がある気がするアレか。

「数メートルあるけど、まあ距離は大丈夫か。いっそのこと、手を繋いでやるか?」

「え? え、ええっと、まあ、うん…… それくらいなら、いいよ?」

アンジェはほのかに顔を赤らめながらも了承してくれた。よし、流石にこの程度では照れ隠しの首狩りはしなくなったか。小さな一歩だが大きな前進だ。そう、俺たちは着実に前へ進んでいるんだ。この 密偵活動(デート) 、隙あらばアンジェにアタックしていく所存である。周りを危険にさらさずに慣れさせる絶好の機会、無駄にしてなるものか。え、それもう場合によっては目立ちまくって偵察もクソもないんじゃないかって? 馬鹿野郎、それはそれで 殲滅活動(デート) にすればいいだろうが! ……まあ、グスタフがいたら見つかる前に逃げるけどな。

「じゃ、跳ぶか」

「カウントするね。3、2、1…… とおっ!」

「ほっ!」

しっかりとアンジェの手を握り、そのまま跳躍。身体能力を比較すれば、アンジェは俺の遥か上をいく。なので、ここは俺の力にアンジェが合わせてもらう事にした。それでも数メートルの国境線を越えるには助走なしでも十分なほどで、軽々と草原に着地できた。初到来、グレルバレルカ! などと馬鹿な事を心の中で考えていると、草原以外の変化にも気が付いた。

「暗いな。夜になったのか?」

「ケルヴィン、上見て上っ! 2つあった太陽がなくなって、代わりにおっきな赤い月が出てる!」

地底なのに2つ太陽があったのもおかしな話だが、今度は赤いお月様である。どうやら環境変化は土地や気候だけでなく、昼夜まで変えてしまうらしい。

「夜空と星々も少し赤みを帯びてるな。何というか、アレだ」

「血の色みたいだよね」

「ああ、それそれ」

セラの『血染』みたいな。ってか、本当にこの空は本物なのだろうか? 魔法的な何かで作られた高度な映像とか、そういうオチじゃないよな? ……地底ならあり得るか? 兎も角、今するべき事は―――

「ケルヴィン君、もう一度跳んでみよう!」

「おうっ!」

国境越えによる瞬時の環境変化を楽しむ、だ!

「明るいっ!」

「暑いっ!」

それから俺とアンジェは、グレルバレルカとドクトリアの国境線を行ったり来たりと、暫くの間跳び跳ね満喫していた。密偵活動? 密偵活動(デート) だってば。