軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第324話 裏の支配者

―――ファーニス城

場所は移り変わり、火山群から遥か東南へ。ケルヴィン一行が火竜王を打倒した丁度その頃、ファーニス城の城壁の上は外の光景に見入る者達で溢れていた。城の兵が、使用人が、文官が――― 誰もがある方向に視線を向け、あれやこれやと噂を立てている。

「山の向こうからでかい爆発音が聞こえたかと思えば、お次は竜の――― 悲鳴、か? これは?」

「あ、聞こえなくなったわね。怖いわ……」

「いやいや、お前さっきまでハイテンションだっただろ。目を輝かせていただろ」

「いつも黒煙で覆われていた火山群が、眩しいくらいに照らされていた…… 何時もの火山の噴火じゃ、ここまで大した音だって届かないってのに。そっちは聞いたか?」

「あれだけドガンドガンと盛大に騒がしくされれば、誰だって気付くだろ。夜勤明けでぐっすり安眠な俺だって一発で目が覚めたよ」

「で、一体何事なんだ? 街を襲った火竜は勇者様が退治してくれた筈だろ?」

ごく最近に一体の火竜に襲われたばかりのファーニス。女性らは図太いものだが、男達の反応はやや機敏である。中には調査隊を編成すべきと意見する者、暫く様子を見て静観すべきと反対する者が出始め、所々で議論が開始されている。

「おい、この騒ぎは何事だ!?」

威厳のある声と共に颯爽と現れたのはファーニス王である。大騒ぎに気付き、駆け付けたのだろう。背後には大臣を従えている。

「こ、これは国王様! 実はですね―――」

顔をよく知る伝令の兵が説明をする。赤と蒼の異常発光。通常の噴火を超える爆発音。竜らしき悲鳴。どれもが何かの前兆のようにも思えると、兵の表情は必死そのものであった。

「―――火山地帯でそのような不可思議な現象が? ううむ。大臣よ、何か感じたか?」

「恥ずかしながら、集中していまして…… 国王様は?」

「私も同じだ。場所も地下であったからな」

腕を組みながら苦慮の表情を浮かべる国王。どうも2人はこの大騒ぎにも関わらず、今の今になるまで全く知らなかったようだ。兵は余程大事な物事にあたっていたのだろうと、自ずから納得する。が、納得できない点もあった。

「あの、つかぬ事をお伺いしますが、何で怪しげなローブを着ていらっしゃるのですか? お二人とも……」

2人は普段着ている正装ではなく、なぜか黒で染まったローブを着用していたのだ。物語に出てくるような、典型的な黒魔導士の格好に王冠を被る国王の姿は実に珍妙だ。しかも、やたらと年季が入っている。

「これか? これは、その――― なあ?」

返答に困ったのか、ファーニス王が大臣に視線を送る。

「え、えー…… あ、ああ! これは重大な機密であるからして、このような場所では話せぬのだ。そうですね、国王様?」

「う、うむ! その通りだ! だから、ここで私と大臣を見た事も忘れるがよい。皆も良いな?」

「へえ。それじゃあ、アタシにも秘密なのかい?」

「無論。機密であると何度言えば―――」

国王と大臣が声のする方に振り返った先、そこには満面の笑みを浮かべた妙齢の女性がいた。健康的な小麦色の肌に琥珀色の長い髪を靡かせる長身の彼女は、どこか双子の王女、レンとランの勝気な雰囲気を醸し出している。それもその筈。なにしろ彼女は双子姫の母であり、ファーニス国の王妃であり、彼の国最強の武人であり、火の国の実質的な裏支配者である、バッケ・ファーニスであったのだから。

「「げぇ、バッケ!?(王妃様!?)」」

しかし、その笑顔とは裏腹に放たれるプレッシャーはやばいの一言。一瞬にして国王と大臣の表情が絶望に染まる。それはそれは苦々しく、身に付けるローブの色のように。

「もう一度聞こうか? アタシにも、秘密なのかい?」

「ま、待つのだバッケ! お前、遠征に出ていたのでは!?」

「ふふふ、私たちが呼んだんだよー」

「私たちとお母様は以心伝心だもんねー」

「お、お前達……!」

大柄なバッケに隠れるようにして、レンとランがひょいと顔を左右から出す。悪戯が成功したかのように手を口元に添えてニヒヒと2人は笑っているが、国王と大臣は悪戯では済まされない予感をヒシヒシと感じていた。

「聞いたよ。アタシが火竜を追い返して遠征に出た後に、デラミスの勇者様が来たんだって? ったく、タイミングが悪いこった。少しばかり出発を後らせたら、美男子と名高い勇者様に会えたのにね」

「お母様ったら、本当に勿体ない事をしたわ」

「でも勇者様は私のものよ」

「ああ、応援してるよ我が娘達。最悪、無理矢理にでも既成事実を作っちまいな!」

「「はーい」」

「いや、お前が言うと洒落にならないから止め―――」

「あ?」

「いえ、何でもないです」

登場時の覇気はどこに消え去ったのか、国王はシュンと小さくなってしまった。背後の大臣は既に正座待機中である。

「で、だ。本当のところはどうして帰って来たんだ? 遠征の日程では帰還はまだまだ先であっただろう?」

「うん? ああ、その事か。虫の知らせみたいなものが私に知らせてくれたのさ。また火竜が暴れる、ってね」

「馬鹿な。お前が逃がした火竜は、勇者である刀哉達によって討伐されたのだぞ?」

「アタシには分かるんだよ。迷信だろうが、ファーニスの女には火竜の血が流れている。なんて言うくらいに、あのトカゲ共の動きに敏感なんだ。アンタも知っているだろ? この国を火竜が襲う前に、うちの女共が騒いでたって話」

「う、うむ。まあそうであるが……」

火竜襲来前夜。野生動物が災害を予知するように、国の女達はなぜか落ち着かない様子であった事を思い浮かべる国王。バッケの場合は目をギラギラさせながら腕を鳴らしていた。この光景は血の気が引きそうになってしまうので、国王は急いで記憶の隅に追いやった。

「さて、そろそろ話を逸らすのは止めてもらおうか。私はこう言ったんだよ? もう一度チャンスをやろう。死ぬか、もしくは包み隠さず喋るか、どちらか選べってさ」

「「喋ります」」

即答である。

「実は―――」

国王と大臣は包み隠さず語り出した。なぜこんな格好をしているのか。なぜ騒ぎに気が付かなかったのかを。

「ああ? 地下で呪いの儀式だ?」

「の、呪いなんて大層なものではない。ちょっとお腹が痛くなる程度の、そう、悪戯みたいなものなのだ」

「そうなのです。国王様は姫様の仇を少しでも討とうと必死でして…… 一心不乱にやっていたもので、外の騒ぎにも気付かず……」

「……ハァ」

バッケが火竜の 息吹(ブレス) を思わせる大きな溜息をついた。ファーニス王や大臣がトラージ産の藁人形やらの呪いグッズを貿易がてらに収集しているのは分かっていたが、まさかここまでのめり込んでいたとは思わなかったのだ。

「で、仇ってのは?」

「その、娘らの仇を……」

「だからぁ! あの子達は何も悪い事をしてないの! 逆に私たちを介抱してくれたのよ! あの後、何回も説明したでしょうが!」

「し、しかし!」

「しかしもかかしもないの! 無謀でも浅はかでも、私たちは義理は通すのよ。それがファーニスの女ってもの! そうよね、お母様?」

「ああ、そうだ! よく言ったね! 大体アンタら! 仇を討つ気概があんなら、討伐隊でも編成して突貫して来い! 茶の入れ方ばかり上手くなって、武術は相変わらずからっきしなんだから!」

「あ、相手はあの『死神』なんだぞ!? 恨みを買ったらどうするんだ!? 国の危機だぞ!」

「うんうん。その通りで―――」

「お・ま・え・が――― 言うなっ!」

炸裂したバッケの右拳が国王を宙に浮かばせ、いや、飛ばした。大臣、国王に乗っかり立ち上がりそうになるが、正座待機に戻る。その綺麗な目は何かを悟り切っていた。

「こちとら『女豹』だ! 文句あっか?」

「いえ、これっぽっちも」

大臣、裏切る。

「ぐぉぉ、大臣……!」

「さあて、遠征でアタシも結構溜まっていてね。ここらでお互いに鬱憤を晴らそうじゃないか、アンタ。今日は寝かせないよ!」

「ま、待て、待つのだ。大臣、助けぇ―――」

大臣、耳栓を装備する。耳に入らぬ叫びは次第に遠のき、国王の姿はどこかへと行ってしまった。

「わあ、お母様とお父様ってばラブラブね」

「見てるこっちが恥ずかしくなるわ」

多少の異変が起きはしたが、火の国ファーニスは今日も暑い太陽の日差しが燦々と降り注ぎ、男達は慎重に、女達は情熱的に生きていた。本日も平時と変わらず、いつも通りの日常である。

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―――火竜王の塒・煉獄炎口

―――くぅー。

「あ、あら?」

巨大火山の竜の口、『煉獄炎口』を下って 奈落の地(アビスランド) へのゲートを目指す最中、可愛らしくも我が家の財貨を圧迫する凶悪な腹の音が聞こえてきた。俺はまたかと顔を上げる。

「メル、さっき食事にしたばかりだろ? 今日はいくらなんでも早過ぎだぞ」

「お、おかしいですね。先ほども妙にお腹がすいて自分を抑えられませんでしたし、調子が悪いのでしょうか? この暑さで消耗が激しくなっているのかも……?」

おいおい、この先はもっと暑く危険になるんだぞ。誰かに呪術を掛けられた訳でもないし、もう少し気を張ってもらいたいものだ。