軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第323話 召し上がれ

―――火竜王の塒

倒壊したバーベキュー場から溢れる噴煙、パラパラと転げ落ちる破片の数々。張り巡らせた俺とメルフィーナの結界をも貫通し、 剛黒の城塞(アダマンフォートレス) 製の建造物まで粉砕した火竜王の大火力が凄まじいものであった事を噛み締める。流石はエフィルの本気と正面から撃ち合っただけはある、といえるだろう。黒焦げとなってしまった俺のお手製スペースの残骸を見詰めていると、心が痛くなってくる。なぜならば―――

「くそっ。バーベキューは帰りの清掃までが基本だってのに、余計な手間を増やしやがって……」

散らばってしまった瓦礫やゴミのクリーンナップ中だからである。溶岩プレートの洗浄と簡単なゴミの分別、バーベキュー場の解体だけで済む筈が、火竜王の大規模範囲攻撃によってとんでもない大掃除となってしまったのだ。あの野郎、キャンプしたらそこら中にゴミ捨てていくタイプだな。絶対。

「うむ。何時ぞや紋章の森を誤って刈り取ってしまった王の台詞とは思えませんな?」

「後になってダハクに同じ木々の苗を植えて貰っただろ。長老にも許可取ったし、気合い入れて土下座もしたし」

まあ、あの件のお蔭で魔法の扱いが上達したとも言えるけど。メルフィーナ主催のブートキャンプ、懐かしいな。キャンプはキャンプでも、セラが刀哉達に施したらしいデスマーチが生温く思える程、血生臭いものだったけど。

「ケルヴィン、一通りの片づけが終わったわよ」

セラがゴミの入った大袋を抱えながら報告してきた。これらは基本生ゴミなので、ダハクが肥料として使うとの事。

「ん、了解だ。後はこの瓦礫の山だけか…… クロト、食べていいぞ」

俺がそう言うと、ローブの袖から出てきたクロトが膨らみ、瓦礫を丸々覆い始めた。瓦礫といっても、元々は俺の魔力で生成したもの。魔力の塊は何でも吸収できるクロトにとって大好物なのである。保管の中に魔力も溜まるし、一石二鳥だ。

「見る見るうちになくなっちゃったね」

来た時よりも美しく、それがアウトドアの掟である。さて、さっぱりしたところでご対面といきますか。

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「ご主人様」

「よ、エフィル。お疲れ様」

一際大きなクレーターの中心地。戦闘によってメイド服が破けてしまい、肩まで露出した状態となったエフィルが何時ものように出迎えてくれた。メイドとしての仕草は完璧だが、僅かに頬と耳先を染めているのがポイントである。何という趣か。

「き、貴様ら……」

「よう、火竜王。凄い姿になっちゃったな。でも、まだ息があって良かったよ」

息も絶え絶えな火竜王が、地に伏せながらも鋭い瞳で睨み付けてきた。バリスタに使用されるような大型の矢が、蒼の炎を伴いながら尻尾から胴体へかけて火竜王を串刺しにしている。失った両腕の断面は焼け焦げた為に出血はしていないが、体に纏っていたマグマが黒く固まり切ってしまっているあたり、完全にガス欠となってしまったんだろう。

「何を、言っている……?」

「いやさ、ちょっと聞いておきたい事があってね」

エフィルの過去に関わる貴重な情報源である訳だし、火竜王はできるだけ生かして捕らえるように命じていた。殺すだけなら、腕じゃなくて最初から頭を狙えば良い話だしな。

「火竜王、お前この子に見覚えはあるか?」

火竜王の前にしゃがみ込んで、エフィルに視線を向けながら言う。

「……! 女、既視感があるかと思えば、何時ぞやのエルフか……! いや、しかし、貴様はこの手で、確かに殺した筈……? だが、その髪留めは―――」

「その方は、私の母です」

ゆっくりと、確かな口調でエフィルが言い放つ。

「何を――― いや、あの時、既に……?」

「考え中なとこ、悪いんだけどさ。まあ敵討ちみたいなものだよ。エルフの里を襲い、罪のないエフィルの母親を弄んだ愚行。きっちり清算してもらうからな」

「馬鹿な事を言うなっ! 元はと言えば、貴様らエルフが我を誑かした事が発端であろう! エルフの男は我の血を騙し取り、持ち逃げした! 里から連れ去った女は、人間の男と共に消え去った! 最初に我をまやかしたのはエルフであったのだ! 何が森の賢者か! 初めから女を逃がすように結託していたのは、貴様らではなかったか!」

火竜王が猛る。

「我の血を奪い逃亡したエルフの男は探し出した。女を連れ去った後、我の怒りに恐怖を覚えたであろう人間は、あろう事かエルフの女を送り返してきた。だからこそ、そのどちらも八つ裂きにした! だからこそ、殺したのだ! 血も女も、アレらは元々我のものであったのだから! そして女の死体は里の者らに恐怖を刻んだ! どれもが因果応報ではないか!」

「あー、うん。もういいや。大体分かったから」

セラの血染を使うまでもなかったな。勝手にバンバン喋ってくれた。怒りのあまりヒステリー気味な火竜王であるが、大よそ過去に何があったのかは理解できたかな。前に里の長老から聞いた話にあった、火竜王の探していたエルフ。そいつが火竜王から血を騙し取ったのが始まりか。で、火竜王はそいつを既に殺していて、ルーミルは火竜王に囚われた後に誰かによって助け出された――― もしかすれば、その人がエフィルの父親か? だけど、後になって送り返すってのが分からない。火竜王自身はルーミルの子であるエフィルの存在自体を知らない感じだし、そこらの情報は期待できそうにないか。

「経緯はどうであれ、お前がエルフの里を焼き、エフィルの母親を殺した事には変わりないよ」

「貴様、我を前にして何と無礼な……!」

「何、もうすぐその偉大な座から降りてもらうんだ。気にする事もないだろ?」

聞く事は全て聞いた。俺は立ち上がって、召喚の準備をする。

「エフィルの方も準備はいいか?」

「はい。『火竜王の踊り食い・ヴェリー・ウェルダン風』、完成です」

火の王を貫く矢は串に見立てられ、同時に内外から熱を与えるそれはジュウジュウと芳ばしい香りを漂わせる。焼き鳥のそれに近いかな。

「うん、良い感じだ」

「おど、何だと……!? まさか―――」

焦り出す火竜王を他所に、俺は魔法陣を敷く。召喚するは今宵の主役、岩竜ボガ。

「我が家の竜に雑食なのはこいつしかいなくてさ。まったく、ベジタリアンや甘党も考え物だ」

「兄貴、それ以前に俺は夢があるんでパスッスよ」

「私は死守したホットケーキを食べるのに忙しい。ボガに譲る」

「ゴアァ」

ボガの口から大量の唾液が垂れ落ちる。この為にバーベキューでの食事を抜いていたからな。空腹もいいところなんだろう。

「離してください! 私は、私は!」

「姫様よ、暴れんでください!」

「メルはさっき食べてたでしょ、両腕とも!」

さて、ジェラールとセラが食欲に塗れたメルフィーナを抑えるのにも限界がある。手早く済ませてしまおうか。

「ま、生きたまま食われる痛みを痛感しながら逝くといいさ。さ、目一杯踊ってくれ」

「ボガちゃん、召し上がれ」

「グゥルルゥアアー!」

「や、止めろぉーーー!」

ボガが眼前のご馳走にありつく。大きく開かれた口は、噛み千切り、咀嚼し、その極上の味わいを吟味する。幾度も、幾度も、それを繰り返す。火山群の山々には絶叫が轟き、遥か遠方まで流れていった。

「ご主人様、気は済みましたか?」

「おいおい、それは俺の台詞だろ」

「クスッ。だって、私の分までお怒りになって頂いていたようでしたから」

「……どうだかなー」

自然と繋がれたエフィルの手は、とても温かかった。