軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第302話 リーアの憂鬱

―――デラミス・孤児院

「本当にいいのぉ?」

修道服に身を包み、髪の色を金から栗毛色に変化させたエストリアが尋ねてきた。少なからずこの状況に戸惑っているようで、ここまでの道中で何度目だよと言いたくなるくらいにこの質問を繰り返している。

「だから何度言わせる気だよ? 俺とメルが納得したからいいの。ちゃんと教皇から許可も取ってる」

「だってぇ……」

だってもへったくれもない。エストリアにはこれまで通り、デラミスの孤児院で子供達と一緒に暮らしてもらうのだから。

「はぁ、これで最後だからな? コレット、説明してあげて」

と言いつつも、説明は同行してくれているコレットに投げる。

「はい、喜んで!」

繰り返しお願いされても、コレットは快く引き受けてくれる。というか、命令してくださいとばかりに俺を凝視してくる。分かったから、その荒々しい息遣いを止めろ。止めてください。

「メル様とケルヴィン様のお許しのもと、シスター・リーアにはある任務に就いて頂きます。では、リーア。その任務とは何でしょうか?」

「アトラの護衛役でしょう?」

「その通りです」

先の誘拐劇で、シスター・アトラが教皇の娘であることが判明した。聖槍イクリプスの特性について分かっていたのであれば、アトラの周辺警備を強化するのが当然。もっと早くからそうしておけよと言いたくもなるが、どうもフィリップ教皇の子供で明確に巫女の力を発揮したのはコレットだけだったようで、その辺りが疎かになっていたようなのだ。アトラの巫女としての力が極々僅かであった点、隠し子的な立ち位置であった点を今回は突かれた訳だ。しかし新たに護衛を付けるにしても、大人数や明らかに手練れの者では変に目立ってしまう。ここ、あくまで普通の孤児院だからな。目立つことなく、かつ実力が申し分ない者として浮上したのが、シスター・リーアことエストリアだったのだ。

「私としては問題ないのだけれどぉ、貴女達も物好きねぇ」

「リーア、話し方」

「……は、はひ! ごめんなさい!」

おお、一瞬で人が変わった。妖艶な雰囲気は今やなくなり、オドオドと不安そうに周囲を見回し始めている。彼女曰く、これは演技どうこうといったものではないらしい。過去に愛を求め過ぎた故に作り上げてしまった人格の1つであり、どちらかといえば妖艶な彼女の方が演技なんだそうだ。ややこしいことだが、こっちが自然体なのであれば問題はないだろう。

「勿論、手放しで貴女を置く訳ではありません。貴女の首にあるその十字架のネックレスには、ある制約を掛けています。そして、その制約を逸脱した行為をすると―――」

「す、すると、何ですかぁ……?」

心配そうに見詰めるリーアに対し、メルフィーナは何も心配ないとばかりに笑顔を振りまいた。

「そう心配せずとも大丈夫ですよ。普通に孤児院で生活し、これまで通りシスター・アトラと接していけば何の問題もありません。貴女がよからぬ行動をしない限りは、ね」

「な、何が起こるかも秘密なんですか!? あ、あの、私その制約の条件も教えてもらってな―――」

「さ、孤児院はもうすぐですよ。コレット、残りの説明を」

「そんなぁ……!」

女神に泣き縋る吸血鬼の女王の図。まあ、当然のことリーアにとっては不安でしかないだろうが、彼女に裏切る気があるのであれば、何がトリガーになるのか、一体何が起こるのかを秘密にしておくのは良い手だと思う。裏切る気がないのであれば、それはそれで問題ないだろうし。ちなみに彼女の聖鍵はアンジェと同様に使えなくなっていた。今のところは白だと思っておこう。

「それでは、護衛に当たる上での状況確認を致しましょう。現在、孤児院には反対派に誘拐されたシスター・アトラと子供達が無事に戻っており、今回の件が非常時における為の訓練だと伝えてあります」

「そ、それは無理がありませんか? アトラなんて、守護者に連れ去られていましたし……」

「幸い、子供達の大半は眠らされていましたので大丈夫です。暴力を振るわれた痕もありませんでした。シスター・アトラについても記憶が曖昧なようでしたので、私自ら経緯をお話しました。シスター・マリガンも事情はご存知ですし…… 後はシスター・リーアからもフォローして頂ければ、確かなものになるかと」

コレットから説明を受けたリーアが、恐る恐るメルフィーナの方を見る。

「 普段通り(・・・・) に、お願いしますね?」

「は、はひっ!」

女神に脅される吸血鬼の女王の図。ま、これで孤児院の方は一段落したかな?

「あの、ケルヴィンさん」

「何だ?」

「その、お暇ができたらまた孤児院に遊びに来てください。シュトラちゃんが来れば子供達も喜びますし、えっと、ジェラールさんが来てくれれば私も、あの、嬉しい、かなって!」

……その性格が素であれば、ジェラールの受けもいいんじゃないかなと思うのだが。

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―――デラミス宮殿・客室

リーアを無事に孤児院へ送り届けた俺たちは、一度デラミス宮殿へと戻った。今回の件で得た情報は多く、何よりもこれからの方針を明確に決めたかったからだ。ということで、メンバー全員を俺とメルの部屋に集める。あ、刀哉達はいないけどな。今は勇者帰還パレードの準備をしているんだっけ? 他人事だが大変なこった。

「はい、静粛に。それでは定例会議を開きます」

「あの、ケルヴィン様。会議をされるのでしたら、それ用の部屋をご用意致しますが?」

今回は影の功労者であるコレットも参加している。何せ、さっきの今でフィリップ教皇から莫大な報奨金とデラミス転移門の使用権利、デラミス領内及びリンネ教関係施設での優遇措置など様々な恩賞をもぎ取り、もとい、約束してきてくれたからな。

「いや、いいよ。会議とは言ったが、実際はあんな感じで皆参加してるし」

そういってベッドに寝転ぶセラを示してやる。うつ伏せになりながら足をブラブラさせる基本スタイルは今も変わらない。顎下にクロトの分身体を置いて枕代わりに使う完全安息モードである。メルフィーナもいつものように菓子を食べる手が止まらない。

「ジェラール、遂に再婚するんですって?」

「それは本当ッスか!? マジッスか!?」

「いやいやいや、しないから。どこからそんな噂話を嗅ぎ付けるんじゃか……」

ダハクはプリティアの件があるから祝福するだろうな。まあ、俺だってどっちに転ぼうが祝福する気ではある。 ……ってそうじゃない。話がまた脱線してる。

「一応、これからの行動について共有しておこうと思う。セルジュの話じゃ、俺たちを使徒の本拠地に招待してくれるそうだ。場所は 奈落の地(アビスランド) のどこからしい」

「どこか、って言っても 奈落の地(アビスランド) は広大よ? 手探りで探し当てれるとは思えないけれど」

「そうッスね。地上の大陸並みッスよ?」

「場所についてはエストリアから聞いて大よその見当は付けてある。問題は 奈落の地(アビスランド) へ行くルートだ。現在判明している地上から 奈落の地(アビスランド) へ行く手段は2つ。東大陸トラージ領にある巨大な滝『天獄飛泉』から降るか。西大陸ファーニス領の大火山の天辺『煉獄炎口』から降るか、だ」

「どちらも危険な道のりですね」

「だから地上に悪魔が現れることも少ないんだけどな。ま、セラやダハクの帰省にもなるだろうし、寄り道は多くなるだろうな」

「クックック、遂に俺が土竜王になる日が来る訳ッスね……!」

それとこれとは別の話だよ。というか、お前の帰省先闇竜王の方じゃないの?

「我々デラミスも力になりたいのですが、場所が場所だけに兵を手配する訳にもいかず…… ですが、少数精鋭で必ずや力添えを!」

コレットが使命感に燃えている。女神は菓子を食っている。この差は何だろうか。

「まあ今すぐ出発するってこともないし、どちらから行くかは後で多数決を取ろう。それまでは各々自由行動。質問は?」

―――名ばかりの会議を終えて皆が部屋を出る中、メルが耳元で話し掛けてきた。

「あなた様。今夜、お時間はありますでしょうか?」