軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第301話 裁決

―――デラミス宮殿・客室

俺とメルフィーナ、そしてリオンは客室へと戻り、ベッドや椅子に腰掛ける。今日の疲れを取る為にしっかり休息しなければ。と、休憩に洒落込みたいところだが、まだ決めておかなければならないことがある。

「リオン、エストリアを出してくれ」

「おっけー。アレックス、お願い」

リオンの声に呼応して、影がゆらりと動き返事をする。次いでその影から出てきたのは、クロトとアレックスの影に拘束されたエストリアだ。床にうつ伏せとなって、影から出でた黒き手で更にホールド。治療はしておいたから外傷らしきものはないが、MPが底を付いた状態は変わらないので生気は抜けている。

「……ここはぁ? 拷問部屋にしては、清楚過ぎるわねぇ……」

「さて、どこだろうな」

英霊の地下墓地にてセルジュを追う手前、俺とメルフィーナはアレックスの『這い寄るもの』の力を使ってリオンの影の中に潜り込んでいた。捕縛したエストリアも一緒にな。メルフィーナは捕らえたエストリアを見張る為。俺の場合はリオンの影の中にいた方が移動するのが単純に速かったから、というのが理由だ。そしてセルジュ撃退後もエストリアはこの中にいて、そのまま拘束されていた。運ぶのもこの方が楽だしな。

で、決めておかねばならない事とは、教皇にも一任されている捕らえたエストリアの処遇だ。固有スキルを返還してエレアリスの使徒から解き放たれた 体(てい) の彼女ではあるが、宣言通り勝手気ままに放置する訳にはいかない。以前から付き合いのあったアンジェとは、また立場が異なるのだ。最悪再び使徒に返り咲いて、俺たちに害を成す存在になる可能性だってある。ジェラールのストーカーになるくらいならまだしも、いや、屋敷の中まで付き纏われることに繋がるか。やはりそれも止めてもらいたい。

「これから貴女の処遇を決めさせて頂きます」

「転生神直々の神罰を受ける、って訳ねぇ。愛に生きた私には勿体ない最後、かしらぁ……」

「早とちりしないでください。どうなるかは今後の貴女次第です」

「ああ、俺たちにとって君は貴重な情報源である訳だし。できれば双方にとってプラスな関係を築きたいかな。まずは―――」

「おじ様の好みとかぁ、教えてくれる?」

「……ああ、いいよ」

あっれー? この人、目つきが急に変わったぞ? 獲物を狙うような目というか、鷹の目というか…… さっきまで死にそうな感じだったのに。まあ、対価がそれでいいなら構わないけど。

「まずは幾つか質問しようか。エストリアの能力、『反逆の徒』だったか? それについて詳しく聞きたい」

「もう使うことができないギフトを聞いてどうするのよぉ…… まあ、いいけど」

使う使えないの問題ではないんだよな。例えば、メルフィーナが氷漬けにした古の勇者。ムルムルだってそうだ。能力で蘇った者達が、ずっとあのまま生き続けられる保証はないだろ? よくある創作物のパターンでいけば、クローンの寿命は極端に短いのが定番だ。この場合クローンとは違うんだろうが、寿命が一定とは限らない。ダンジョンで遭遇したモンスターにも力を使った節があるし、この辺りは確認しておきたい。

「そうねぇ、まずは力を使う条件から話そうかしらぁ―――」

エストリアから反逆の徒についてのレクチャーを受ける。内容を纏めるとこうだ。

まず死者を蘇生させる条件だが、これには対象の遺骨や遺品などといった、その者に関連する何かと引き換えにしなければならない。体の一部であれば全身に近いほど、遺品であればより思い入れが強いものほど、完璧な形で蘇らせることができるそうだ。

この触媒の度合いは次の話にも係る。完璧の定義、それは何か? 生き返ったその者の寿命、生前のステータス、記憶の保持、よりその者らしい意識、など諸々である。アンデッド系のモンスターを触媒にしてもできなくはないが、その場合記憶や理性は皆無となって中身が伴わず、寿命も一瞬ときたものだ。第8層で見たモンスターの群れはこれに当たるな。戦闘に関してだけいえば自らを顧みない凶暴性のみを宿すので、理性があるよりもある意味で厄介ではある。

では、今回連れて来てしまった古の勇者はどうなるのか? 幸運なことに、ほぼ完璧な形での蘇生となっている。魔王グスタフを討伐した勇者パーティの一員なだけに、遺体が丁寧に埋葬されていたのが理由だな。触媒には十分だったのだ。戦闘力は残念だったけど。 ……ハァ。あ、ムルムルも同様だ。あのバカでかい墓を見れば分かるだろう。寿命も問題ない。

最後になるが、反逆の徒にはもう1つの特性がある。完璧な形で蘇生された筈のムルムルが、少々暴力的だったのは記憶に新しい。いや、今思えばあれは普通に俺が悪いのだが…… まあそれを置いたとしても、生前にない記憶があったりと曖昧な感じだった。古の勇者は更にそれが顕著だったらしいな。化物となった枢機卿に向かって母だの幼女だのセルジュだのと、特殊過ぎる性癖を披露していたと聞いている。そりゃセルジュも日本へ還るだろうさ…… サイ枢機卿に同情するばかりだ。

話が逸れてしまったな。本筋に戻ろう。反逆の徒のもう1つの特性とは、対象の記憶や意識の改変だ。ムルムルは破壊されたのが自分の墓であると知っていた為に、出会った直後からプッツンしていた。古の勇者は愛する者の幻覚を見て、それを護ろうとメルフィーナに反発した。全ては俺らと戦わせる為の改変だった訳だ。

「エストリア、俺の中でお前の好感度が上がったぞ。正直見直した」

「あなた様!?」

尤も、こちらの力は完璧に蘇生した時でしか使えないらしい。意識がない奴に使っても意味ないしな。

「ふふ、これでおじ様に一歩近付いた訳ねぇ」

「……物凄く納得しかねますが、今は我慢しましょう」

コホンと咳払いをし、メルフィーナが威儀を正す。

「では、私からも質問致します。枢機卿マルセル・ゴッテスに『杭』を与えたのは貴女ですか? エストリア・クランヴェルツ」

「……ええ、そうよぉ」

エストリアは肯定する。マルセル枢機卿…… さっきの話にもチラッと出た、赤いストールの老人か。自らの心臓に杭を突き立て、最後はモンスターとなったんだったな。

「マルセルは反対派に組するような者ではありませんでした。貴女が、彼に何かを焚き付けたのではないですか?」

「彼はねぇ、もう何十年も前に妻と子供を亡くしているのぉ。特に子供の方は悲惨でねぇ。権力闘争の末…… 暗い話になるからぁ、この辺りは省略するわぁ。ま、彼にも色々と思うところがあったのよぉ」

「それで?」

「ちょっとだけ、間が悪かったのよねぇ。力を行使している現場を見られちゃってぇ…… 懇願されちゃったの。娘を生き返らせてくれってぇ。後はまあ、ご想像の通りかしらぁ。彼は私を利用し、私は彼を利用したぁ。この力を無償で使う気はなかったしぃ、それなりの対価を払ってもらったのぉ ……それだけよぉ」

そう言うと、彼女は口を噤んでしまった。恐らく、マルセル枢機卿の娘はどこかで蘇生させているのだろう。何となくであるが、安全な場所で、それなりの生活を保障された状態で。

「それだけ、ねぇ。マルセル枢機卿は馬鹿な奴だな」

「……何でよ?」

「だってそうだろ? 娘1人の為に孤児院の子供達を危険に晒し、自分勝手な欲望に従った。馬鹿じゃなければ愚かだな。よく枢機卿になれたものだ。なあ、メルフィーナ?」

「そうですね。彼は聖職者として失格です。実に嘆かわしい……」

「―――よ」

「ん、何か言ったか?」

周囲に心地良い殺気が充満されていく。

「アンタ達に、彼の何が分かるっていうのよ! 彼は代償を持って愛する者を生き返らせた! その行為に切望はあれど、それは決して悪しきものとは私は思わない! だって、あんなにも愛に溢れているんだもの! そんな彼を馬鹿にするなんて、如何に慈愛の神といえど許さない!」

一息に、感情に任せて思いの丈をぶつけた彼女は肩で息をする。俺とメルフィーナを睨む眼光に、嘘は見受けられない。愛に生きるが故に、それを馬鹿にされるのが許せないのか。或いは、マルセル枢機卿の生き方に重ねるものがあったのか。正直分からないが、俺は嫌いじゃないな。この手の輩は強くなる。ここ重要。それと、その話し方の方がジェラールは好みなんじゃないか?

「何だ、地も出せるんじゃないか。メル、完全に信用した訳じゃないが、やり方次第では良いんじゃないか?」

「……そうですね。早速準備致します」

殺気駄々漏れなエストリアを蚊帳の外にして、俺とメルフィーナは勝手に話を進めてしまう。

「ジェラ爺も大変だね」

「ウォン(罪作りなお爺ちゃんだね)」