軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第299話 絶対福音

―――英霊の地下墓地・第8層

「これは……」

地表より突き出すは10の柱。オーラによって生み出された青の神殿の効果により、セルジュの動きは目に見えて鈍くなった。

「セラさん、今です!」

モンスターの山から現れる血塗れの奈々が叫ぶ。こんな所で息を潜めるなんて行為、デスマーチ前であれば悲鳴を上げて辞退するところであったのだが、セラによって半強制的に慣れさせられた地獄の特訓による効果があったのだろう。べっとりと付けられた赤いものなど歯牙にもかけず、堂々とした様子なのだ。そこにいつも弱気であった奈々はいなかった。

そして、奈々の手にはある物が握られていた。奈々達デラミスの勇者がケルヴィンと初めて出会った際の戦いで、盗賊団黒風の幹部であったプリスラから雅が 借り受けた(ぱくった) 魔力宝石である。最上級物のダイヤモンドは奈々の 氷天神殿(フローズンテンプル) を強化し、その威力を抜群のものとした。奈々の魔法を皮切りに、セラもまた動く。

「運が良いらしいアンタには、こっちから詰め寄るしかないようね! 起きなさい、 血を浴びし黄泉の軍勢(ヘイディーズブラッズ) !」

セルジュの周囲の床に付着した血がズズズと立体化し出し、深紅の骸骨を作り出していく。セラはセルジュの居場所がアンジェから送られて来た際、この部屋にて連れて来ていた 血を浴びし黄泉の軍勢(ヘイディーズブラッズ) を液体化させ、モンスターの血糊として擬態化させていた。間違ってこれらの血に触れれでもすれば、少なくとも機動力を奪えると算段しての策である。尤も策は見事に失敗した為に、こうして直接的に出向くこととなったのだが。

「「「オオオオオッ!」」」

反対派の信者達が素体となっている亡者の軍勢が、エレアリスの使徒であるセルジュに襲い掛かるとは何とも皮肉な話だ。今は亡きモンスター達の装備を拾い上げ、死して尚信じていたものに縋る様に、妄信的な急襲を決行。中には早速転倒してしまう骸骨もいたりするが、相手が悪いので咎めることはできない。

(剣で攻撃する様子もないし、こいつも私の『血染』は知ってるか。あの子も知っていたことだし、ま、当然ね。それと近付いただけじゃ浄化されない…… ってことは、リオンの『絶対浄化』は持っていない。だとすれば注意すべきは幸運、かしら? んー、何か違うわね)

セラは釈然としない感じを覚えながら、勇者に髑髏が群がる戦場へと飛んで行く。セルジュは格段に鈍くなっている。だが、それでも 血を浴びし黄泉の軍勢(ヘイディーズブラッズ) に触れられずに回避する体捌きを失うには至っていなかった。

「 罪人の重し(フェレニークラッシュ) 」

前仕込みはまだ終わっていない。別のモンスターの山から現れた雅が唱えたのは、対象のみを重力で圧迫する黒魔法であった。その対象はセルジュ――― ではなく、その背におぶられたアトラだ。

「お、重っ! シスター、重い!」

「女の子に体重の話は厳禁。その重りで悔い改めるといい」

最強の勇者よりも一般人の方が効果がありそうとの発想からアトラを対象にした雅。その目論見は覿面であったようで、戦闘においては重荷でしかないアトラは更にその意味を増していた。「重い」だの「重り」だのと、心を抉る度にアトラのまぶたがピクピクと動いているのは、せめてもの意思表示なのだろうか。

「私の追撃は止まらない。 黄泉の軍勢(ヘイディーズアーミー) 」

特徴的な漫画であるような決めポーズを取る雅は、部屋中の死骸を利用しての黒魔法を発動させる。自らを隠していたモンスター達の亡骸はゾンビじみた動きで起き上がり、セラの 血を浴びし黄泉の軍勢(ヘイディーズブラッズ) と合流してセルジュへと集り始める。シュトラの魔弾に引き続き、数の暴力による戦法だ。流石のセルジュもいなし切れないのか、 黄泉の軍勢(ヘイディーズアーミー) のみを狙って撃破を開始した。その最中、亡者の集団に入り混じりセルジュに向かう者達が2人。

「リオンちゃん直伝!」

「飛ぶ斬撃!」

奈々や雅と同様に隠れていた刀哉と刹那が放つは、リオンから教えられた 空顎(アギト) であった。まだまだ会得途中段階である為に射程は短いが、各々の力を練り込んだ斬撃を放つことができるのだ。刀哉であれば二刀流による2つの斬撃を、刹那であれば速度に長けた全てを断つ斬撃を。群がる亡者の影となった死角から、亡者ごと斬り放つ。

「君達が今代の勇者? いやー、噂の後輩ちゃんが逞しくて私も誇らしいよ」

セルジュの力が働いた為か、刀哉の放った斬撃は亡者のみを巻き込んであらぬ方向へと飛んで行く。刹那の斬撃は正しく進みはしたが、セルジュはそれを視界に入れてからギリギリのところで回避してしまった。

「くそっ! やっぱり駄目か……!?」

「いーえ! よくやったわ!」

回避行動による無防備な状態、そんなセルジュの横っ腹にセラの拳が深く突き刺さった。メキッ、と鈍い音が内部で鳴り、セルジュの口からは一筋の血が垂れる。

「がっ……」

「と・ら・え・たー!」

渾身の叫びと共に異形の拳を振り抜くセラ。アッパー気味に繰り出された一撃はセルジュ(+アトラ)を天井まで打ち上げ、そのまま叩き付ける。逆方向に陥没する天井。しかし、直ぐ様にセルジュはそこから飛び出して戦線に復帰――― ではなく、部屋の出口へと飛び込んだ。アトラを庇う形で叩き付けられたようで、純白だった外装は土埃に塗れ、どこかに引っ掛けたのか腹部の衣服は破れていた。白い肌と痛々しい傷口がむき出しとなっている。

(都合よくまあ、私が叩き込んだ血の箇所だけ破けるものねっ!)

「いっつ…… 直撃受けるとか、やっぱ慣れないなー」

直撃した箇所を摩りながらセルジュが愚痴る。

「やばい、逃げられる!」

刀哉が叫ぶ。

(でも――― 当たりはするのね)

『一斉攻撃、開始』

地上にて、リオンとエフィルが。空中にて、アンジェが。 風神脚(ソニックアクセラレート) を受け最速に至った3名が『隠密』状態を解き、手数に長けた攻撃を繰り出す。荒れ狂う斬撃、爆撃、猛毒ナイフ――― セルジュの360度全てを覆うそれらの内いくつかは、逸れることもあっただろう。手元が狂い、自らを傷付けることもあっただろう。しかし、それらを些細なこととする異常な速度は瞬時に修正を行い、再び攻撃を放ち続ける。やがて両手の聖剣にて迎撃を行っていたセルジュに1つ、また1つと直撃を与えるに至り始めた。ただ、アトラは無事である。

『流石にこれで無傷なのは不自然だ。やっぱシスター・アトラに直接的なダメージを防ぐ結界か何かを施しているな。あんまり大きなダメージは無理なのか、そっちはセルジュが防いでいたみたいだけど』

『ご主人様、手加減しますか?』

『いや、そんな余裕はない。常に結界が壊れるギリギリの威力で攻めろ』

リオンの影が大きく膨らむ。漆黒の影から出でた漆黒のローブ。ケルヴィンが姿を現し、セルジュを見上げる。

『『絶対福音』は強力なスキルだ。強力過ぎると言ってもいい。だが、必ずしも万能じゃない。真に万能であればシュトラのガトリング砲を剣で迎撃するまでもなく、魔弾の方からセルジュを避ける筈だ。セラの拳が当たる筈もないし、亡者達は全員が攻撃不可能な事態にされる筈だ。今思えばリュカのナイフも何本かは刀哉に通じていたしな。雅の魔法がシスターにかかるなんて以ての外』

(……今、何かとても失礼なことを言われた気がする)

雅、これでも勘は鋭い。

『ここから推測されるのは、セルジュの幸運が一度に相手できる数には限りがあるってことだ。これだけの数全てにリソースを割く余裕はなく、あぶれた量は自力で処理しなければならない。流石の最強もこの物量は無理って感じだな』

片腕を上げたケルヴィンに呼応し、床の性質と形状が変化。無数の剣が生成される。

「なあ、勇者様よ。早く本気を出してくれよ? この程度じゃないだろう? 味見とは言ったが、そっちは女の子を誘拐してる身だ。手加減はしない。あんまり出し惜しみしてると、死ぬぞ?」

大地の研磨(グランドクリーヴ) を施された剣が飛び立ち、勇者を射貫いた。