軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第283話 目覚める者

―――英霊の地下墓地・第6層

俺たちは駆ける。目の前に迫る敵を倒し、斬り、射抜き、燃やし、崩し――― 手段は兎も角、最短で下層への階段まで辿り着けるよう努めていた。メルフィーナの知らせを聞いてから、俺の胸は高鳴るばかりなのだ。急ぐ理由は言わずもがな。古の勇者が俺を待っているから! これに尽きる。まあこの中で足が遅いのは俺だからな。いくら俺が急ごうとも、皆が俺に足並みを合わせてくれる。ありがたい。

さて、現在のパーティは俺とエフィル、そしてリオンとアンジェの4人だ。クロトの助力により念話はできるが『召喚術』での召喚に対応していない者らで組んだパーティなんだが、戦力のバランスはかなり良い。前線に立つ勇者であるリオンに、色々と度を越し過ぎてる盗賊のアンジェ。超火力&絶対命中の矢を放つ狩人のエフィルと、皆を支援するMPお化けたる魔法使いの俺。ロールプレイングゲーム的に言えばこんな感じだろう。当たり前だが進行方向に対して一列ではなく、ちゃんとフォーメーションを組んでいる。

戦法としてはこうだ。俺とエフィルは後方に陣取り、ルートを遮るモンスターを魔法と矢で駆逐。リオンが先頭を走ればそれだけで大多数の敵アンデッドが昇天し、心なしか幸せそうな表情な気で消えていく。アンジェは持ち前の機転と素早さを活かし、その取りこぼしを完璧にカバー。これにより俺たちの通り道はさながら聖書に載るモーゼの海割りのように、不自然なほどに綺麗な不可侵の領域が形成されていた。

どうもこの『英霊の地下墓地』に出現するモンスターとリオンの固有スキル『絶対浄化』は相性が良いようで、これまで攻撃らしい攻撃をまったく受けていない。いや、魔法を扱う魔導士系のアンデッドや呪詛を仕掛けてくる無礼な輩から攻撃はされているのだが、防御するまでもなくリオンのテリトリーに侵入した時点で綺麗さっぱり消え去ってしまうのだ。大体リオンの周囲3メートルくらいの範囲だろうか。対象が悪霊的でよろしくない影響を与える存在であれば、それがモンスターや魔法、状態異常であろうと等しく平等に浄化してしまうのがリオンの力。最初の頃はてっきり状態異常解除に特化したスキルかと勘違いしていたが、俺が思っていた以上に強力な能力だったのだ。

されど第6層ともなれば敵モンスターも強力になり、A級クラスもぽつぽつと出始める。例えばアレだ。揺らぐ幻影の如く俺たちの正面に顕現した『ブッチェリーレイス』。ボロボロだがなぜか真っ白な衣服を纏い、人型ではあるが異常に背が高い。壊れたテープレコーダーのように不気味な言葉にならない声を繰り返すその口もまた異様、裂けるほどに三日月を描いた口角は見る者を恐怖させる。もしこいつが野に放たれたとすれば、呪われた屋敷を根城とする超強力なボスモンスターとして登場するだろうか。ホラー要素の塊だし。

そんな超強力な悪霊さんもリオンが至近距離まで近づくと、悲鳴に似た叫びを上げながら逆に逃走する。それはもう見事なフォームで。しかし残念なことに、リオンを相手にするにはそれでも速さが足りない。逃避行は数秒も持たずに追いつかれ、絶対浄化の効果範囲に。

「嫌イ嫌イ嫌イ嫌イ―――」

おお、珍しく踏ん張った。余程現世に未練があるんだろうか? 悪霊さんにも意地があるらしい。濁った声には黒板を爪で引っ掻く行為にも似た不快感が感じられ始め、それが呪いの類であることが容易に想像できた。

だがその努力も悲しきかな。音による不快感はそのままであるが、ブッチェリーレイスの放つ呪詛はリオンの手前でシャットダウン。スコーンとアンジェが投擲したクナイが悪霊の額に刺さり、すれ違い際に聖なる力を帯びさせたリオンの黒剣によって今度こそ完全に浄化されてしまう。

「嫌、イ…… アリガ……」

消滅する寸前、邪気が抜かれた悪霊の本当の顔が一瞬表に現れる。儚い雰囲気の女性と言えばいいだろうか。彼女は意外と美人さんだった。最後の最後は笑顔だったのが救いかな。 ……って待て待て、それよりも先に進むの優先だ。待ってて、古の勇者さん!

『ケルにい、メルねえは何だって?』

リオンが先ほどのブッチェリーレイスと同格のモンスターを斬り伏せながら念話で語り掛けてくる。そこに容赦などは微塵もなく、相手が逃走しようが進路上に居さえすれば浄化を決行。何と言うか、獣王との訓練を経て本当に逞しくなったな、妹よ。お兄ちゃんは複雑な心境です。ともあれ、メルから受け取った情報を皆に話す。

『古の勇者の復活? 死者が復活したってこと?』

『メルフィーナはそうだと言ってた。だから急ごう! でなければ勇者がメルに食われる!』

『その言い方は誤解を招いちゃうよ、ケルヴィン。でも、死者の復活か…… うーん、思い当たる節がひとつあったりするんだよねー』

アンジェが煮え切らない様子で腕を組む。死者が蘇ることはあり得ない。だがアンジェが言うように、俺にも思い当たるところはある。まあそれもアンジェのお陰なんだけどさ。

『しっかし、無駄に広いな……』

『5層6層は最も広大な階層ですから。正解の道順を辿っても、もう少々かかってしまいそうですね』

第6層は全体的に闇に覆われている。とは言っても先がまったく見えない訳ではなく、僅かではあるが蝋燭の光があって、うっすらと視界を確保する助けとなっている。雰囲気としては廃墟が近いかな。心霊スポットとしては如何にもな場所だ。加えて呆れるほどに広く、現れるモンスターもそっち系が大多数ときたもんで、この手の空気が苦手な人には辛いところだろう。後続を考えれば雅は好きそうだが、奈々が心配かな。ちなみにうちのパーティは心配無用。エフィルが攻撃の度、随所随所に巨大なキャンプファイヤーを作ってくれているからな。もう雰囲気など知ったことではない。

『あれ? 前が明るいよ?』

『マップによればこの先は大部屋だな。っと……』

部屋の直前で止まる。これまでのダークな趣とは打って変わって、行き着いたホール型の大部屋は隅々まで光が行き届いていた。壁や床の造りもまるで真上の大聖堂のように眩い。何よりも注目すべきは中央にある墓だ。普通の墓ではない。馬鹿みたいにでかい墓。階層の規模に合わせて墓までサイズを大きくしなくてもいいだろうに。ひょっとしたら、この部屋自体が何者かを安置する神殿代わりなんだろうか? 天使やらペガサスやら神聖そうな石像が天井近くに飾られ、その天井にも絵画が描かれている。ヨーロッパあたりの旅番組で、こんな光景を見た気がする。

『罠かな?』

『それっぽくもあるが…… アンジェ、どうだ?』

『んー、物理的・魔法的なトラップはなし。何かあるとすれば、あのお墓かな』

メルフィーナとジェラールは第7層に直接召喚したから、ここを通ってはいない。詰まりは完全に初見。こればかりは俺たちでクリアしなければならない。

『とりあえずエフィル、撃っちゃえ』

『承知致しました』

―――ドガァーン!

俺の指示からノータイムで矢を射るエフィル。爆破される墓。飛び散る破片と残骸。広がる塵埃。現れる竜。 ……現れる竜!?

「騒がしい、騒がしいぞ……」

塵埃の中からグンと長い首を上げ、俺らを睨みつけるのは確かに竜だった。しかも言葉を話す高等な個体だ。白の鱗はロザリアの竜形態を彷彿させるが、こちらは本当に純白、真っ白である。身の丈はダハクと同じくらいで結構なでかさだ。

「久方振りに目覚めたかと思えば貴様ら、この光竜王様の御前と知っての狼藉か? それほどまでに死を望むか?」

……竜が素敵な単語を言ったような気がするが、気のせいだろうか?