作品タイトル不明
第284話 頂点の一角
―――英霊の地下墓地・第6層
「……なあ、おい。あんた、自分が竜王だとか何とか言わなかったか? 俺の聞き間違いか?」
念の為、聞き違いだとは思うがもう一度、眼前の白竜に俺は問う。いやいや、だってさ、こんな所に世界に8体しか存在しない竜族の王様がいる訳ないだろう。しかも墓からだぞ? 何の冗談だと笑ってしまうところだ。
「劣等種である人間如きが、崇高の権化たる我に同じ言葉を吐かそうと言うのか? 愚かな。だが崇高たる我の寛大さに感謝するのだな。もう一度宣言してやろう! 我は崇高なる光竜王! 神にも匹敵する力を持つ竜の頂点也!」
おお、ご丁寧に答えて下さった。それにしても崇高って言葉が好きなのか、あの台詞中に何度も言っていた気がする。だが、俺は冷静かつ疑い深い男。本人の自己申請など鼻から信用していない。
『ダハーク! 光竜王ってのは本当にあいつなのか!? 強いのか!?』
分からぬなら仲間に聞けば良いのだ。こういった知識はメルフィーナ先生に相談するものだが、今は取り込み中だからな。餅は餅屋。竜は竜に聞けば良い。デラミスでは容姿的に目立つドラゴンズ。今も俺の魔力内に留まっているので気兼ねなく聞いちゃう。
『テ、テンション高いッスね、兄貴……』
『何を言うか、とっても冷静だよ! それよか早く!』
『へ、へいっ! 俺の知る限りじゃあ、光属性を受け継ぐ竜王は大戦の時代に入れ替わってるッス』
『入れ替わる?』
『有り体に言やあ、自分の手下に勝負に負けたんスよ。古竜が竜王に進化する条件は、現竜王に敗北を認めさせることッスから。で、竜王が敗北を認めちまったら、もうそいつは王なんかじゃねぇ。文字通り王の名を剥奪されて、力を失っちまう。竜の世界は食うか食われるかの世界ってことッス!』
なるほど。ダハクやボガ、ムドファラクがいくらレベルを上げようとも進化しなかった理由はそこか。そりゃレベルを上げて進化しちゃったら竜王の大量生産ができてしまうからな。何処も彼処も王だらけになってしまう。
『えーと、確かそのタイマンの時に先代光竜王は命を落としたって親父の昔話で聞いたことがあるッス。何分俺にとっても遥か昔のことッスから、本当かどうかは分からねぇけど』
『死んだ者が生き返った。またこのパターンか……』
『……『鑑定眼』で見れば一発じゃないんスか?』
『『偽装』スキルの存在を知っちゃったからな。正直このレベルになると鑑定眼の情報は参考程度にしか見てない』
ってことはだ。この白竜は竜王の座から退いた前光竜王なのか。大昔にこいつを打ちのめした古竜が竜王として別にいると。どんな経緯でこの場所に墓が立ったのか、そして復活したのかは知らないが、僅かに落胆する気持ちが俺の中で生まれている。が、その一方で期待する気持ちもある。さっきは鑑定眼で得た情報は参考程度で重視しないと言ったが、奴のステータスにこう表記されているんだ。種族が 白竜(・・) ( 光竜王(・・・) )であると。
いかんな、興奮が冷めやらない。俺が今戦うべきは何だ? 古の勇者か? それとも神の使徒か? はたまた竜王か? ……一度整理して頭を冷やそう。
選択肢の1つ目。メルフィーナとジェラールが発見したという古の勇者。恐らくは刀哉らデラミスの勇者の完成形、過去の勇者パーティの誰かしらだとすれば、既にその代の魔王を打倒した実績があると言える。図らずも刀哉や雅の成長を待たずに勇者と戦えることになるだろう。それは美味しい、実に美味しい。
次に2つ目。最下層の第10層にて、『聖槍イクリプス』の奪還を企んでいると思われる神の使徒。これに関してはもうこの事件に関与しているのは明白。よって順調に降って行けば戦闘になる可能性も低くはない。戦闘力も総じてアンジェ以上と、これを逃す手はない。ないったらない。
最後は眼前の光竜王(仮)。本物であればこれ以上の獲物はいないが、所詮は自称だ。ダハクの話を吟味しても、竜王であった頃の力を失っている可能性が高い。今は別の光竜王がいるようだし。だが、万が一に奴が力を失っていなかったとしたら―――
「………」
「何だ、だんまりか? 少しはできるとも思うたが、さては我が竜王と知り怖じ気づいたか!」
「お静かに願います。ご主人様が潜考されていますので」
並列思考を用いて思慮を巡らす俺に代わり、エフィルが竜に対し警告する。
「貴様、高々使用人の分際で崇高たる我に意見する気―――」
「お静かに、願います……!」
警告の語尾が強まる。それと同時に、エフィルの持つ 火神の魔弓(ペナンブラ) からゴウッ! と炎が上がった。
「……う、うむ。少しだけだぞ。我は寛大だからな。少しだけ待ってやろう」
「ご理解頂き、ありがとうございます。主人に代わり感謝致します」
どうやらエフィルが交渉によりひと時の時間を勝ち取ってくれたようだ。それだけあれば考えるには十分。後でエフィルを愛でなければ。 ……関係ないがエフィルの炎が渦巻いた瞬間、奴の尻尾がビクリと跳ねたように見えたが、たぶん気のせいだろう。そういうことにしておく。
「……よし、待たせたな」
「もう良いか? 10秒も経ってないぞ?」
「ああ、お陰で考えが纏まったよ」
足を止めたのも含めれば数十秒も時間を消費してしまった。俺はすかさず念話を飛ばす。
『リオン、アンジェ。ここは俺たちが引き受ける。先に行ってメルフィーナ達と合流してくれ。下層への階段はもう直ぐそこだ』
『分かった、ケルにいも気をつけて』
『りょーかいっ! お先っ!』
轟く迅雷が駆け、暗殺者は足音もなく姿を消した。
「むうっ!?」
竜も反応しきれていない。二人とも難なく下層への階段へと向かえたようである。
「気にするなよ。 俺たち(・・・) が相手するからさ」
「我を相手に戦力を割く気か? ……何と傲慢な! その不徳が自らを滅ぼすと知るがいいっ!」
翼が広げられ、白竜から心地良いプレッシャーが放たれる。俺は黒杖ディザスターと愚聖剣クライヴを両手に構え、エフィルも爆炎を灯した 火神の魔弓(ペナンブラ) をその手に携えている。
「傲慢で結構。俺は俺のやりたいようにやる」
俺が竜王を選んだ最たる理由。それは竜王が必ずしも戦える訳ではないことにある。エフィルの母の仇である火竜王が相手であれば容赦する必要は全くないし、諸手を挙げて戦える。だがしかし、竜王の中には人間と友好を結ぶ者もいるし、必ずしも敵対しているということではないのだ。
属性は火・雷・風・土・水・氷・光・闇の8種類があるので、竜王も8体存在することとなる。この中の何体と戦えるかは分からない。対してエレアリスの使徒はアンジェを外して残り9名。メルフィーナとは明確に敵対してると言えるので、全員と戦闘になる可能性が非常に高い。よって単純に戦える機会の少ない竜王と戦うことにしたのだ。後は本物であることを祈るばかり。
……古の勇者? ああ、パーティ単位で考えれば脅威だと思うが、単体だとどうしても他の2択と見劣りしてしまうからな。その辺りは割り切って刹那達を育てることにします。古の勇者には大人しくメルフィーナに食べられてもらおう。
更に付け加えて、もうひとつ選んだ理由があるのだが―――
『ダハク、ボガ、ムドファラク!』
魔力内にいた竜ズを一括召喚する。ここまですれば、その理由も自ずと分かるだろう。
『光竜王を打倒して、その座を奪え』