軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第234話 抱擁

―――ガウン・総合闘技場試合舞台

反転したアンジェがまたも無数のクナイを投擲してきた。いくら小ぶりなクナイだからって、その外装で内包できる量を明らかに超えているだろ。しかも、それだけではない。

―――カッ。

クナイの雨の中に閃光弾を混ぜて投げやがった。忘れた頃に何とやら。さっきは1本受けるだけで止まった投擲攻撃も、女神の指輪があるとはいえ今回は捌き切れない。右肩に、そしてアンジェのダガーで負った傷口に突き刺さることを許してしまった。正に傷口を抉る行為である。しかも毒付。私生活的な理由で痛みに耐性のある俺も、これには歯を食いしばる。気休め程度に即効発動できる解毒魔法を使ってみるも、あまり効果はないようで痛みが引かない。アンジェ、グロスティーナにその毒教えてやれよ。たぶん喜ぶぞ。しかし今日は毒を食らってばかりだな、俺。

『あなた様、少々不味いです。あなた様が毒を受けますと、『絶対共鳴』の影響で私まで毒状態になってしまいます。これではバール相手に先ほどまでのように戦況を優位に進めることができません』

おおっと、そうだった。メルフィーナは固有スキルで俺とステータスを共有している。俺に補助魔法がかかればメルにも施されるし、状態異常も然りだ。そのせいで獣王祭の試合中は裏で負担を強いてしまっていたのだが、あの時は終始食事タイムだった為に気にしていなかったらしい。しかし今は戦闘中、その影響がもろに出てしまう。

『やばいか?』

『今のところ互角、でしょうか。あなた様の置かれる状況が切迫する程私も不利になるとお思いください』

地上ではメルフィーナとバールの戦いが再開されていた。 氷女帝の荊(セルシウスブライア) で覆われた地面をお構いなしに踏み躙り、バールは流れるような蹴りを連発させている。あいつの能力は無効化系の何かか? 確かに毒が回っている分、このままでは時間と共にこちらが不利になっていく。

『グゥルゥ……』

ボガとムドファラクがやや遠方にいるが、ブレスで支援攻撃をしてもらうには俺とアンジェの距離が近過ぎる。アンジェは能力の通り抜けで回避できるが、俺まで巻き添えを食らってしまう。

『……いや、やるとすれば徹底的にやるしかないか。むしろ都合が良い』

どちらにせよ、次の一手で決着を付けなければジリ貧で負ける。なら、やることは1つだ。

『ボガ! ムドファラク! 俺に向かってブレスを可能な限り長く、広範囲に吐き続けろ!』

『ゴア!?』

『グォン!?』

『心配してくれるのは嬉しいが、いいからやってくれ。もうアンジェがそこまで迫ってる!』

俺の命令に従い、2体の古竜が全身全霊のブレスと放ち出した。ブレスがここに至るのとアンジェと俺が衝突するのは、おそらくは同時。

「あははっ! ケルヴィン、気でも狂ったの!?」

「至って正常、いつも通りだよっ!」

アンジェは通り抜けを持っている。だと言うのに、これまで攻撃自体を躱していたことが幾度かあった。そんな大層な力があるのなら、無駄な寄り道をせず一直線に来ればいいものを。なのに、避けた。 ―――通り抜けの力に制限があるな。回数か、時間制限か、MPの消費量の問題か…… 更にはアンジェは俺を攻撃する際、必ず能力の解除を行っている。さっきのすれ違いざまに僅かに指先で触れることができたからな。たぶん、いや、間違いない。通り抜けの効果範囲はアンジェの装備一式だろうから、ダガーナイフまでその状態では俺を斬り付けることなんてできないんだ。アンジェはずっと能力を使い続けているんじゃない。制限の中で戦っているんだ。

「今っ、行く、ねっ!」

あり余るMPを使い散布させた牽制の魔法を潜り抜け、アンジェが迫る。あくまでこれは隙を作る為の牽制。本命の 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) による斬撃をあらん限り飛ばし続け、今のうちにすり抜けを使わせる。手を伸ばせばもうアンジェと触れ合いそうな距離、だがその前に飛来するものがある。竜ズによるブレス攻撃だ。この空間辺り一帯がカラフルなエネルギーに飲み込まれる。喜ばしいことにムドファラク達も強くなっているからな。俺の 螺旋護風壁(ヒーリックスバリア) がどこまで持ってくれるか……

「アンジェー!」

「あはっ! ケルヴィン!」

さあ、感動の再会だ。大振りの 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) を解除し、黒杖ディザスターを保管に投げ入れる。代わりに取り出すは黒剣アクラマ3代目。リオン用に2本作成した際についでに(こっそりと)自分用に作った自称業物だ。所謂おそろである。クライヴ君が負傷し禁止された以上、これで決めさせてもらう。

「―――っ」

ブレスが飛び交う最中、アンジェが一瞬ではあるがそれに触れた。しかしアンジェは顔を歪ませることもなく、再び体を透過させて突き進む。今のダメージは覚悟の上か。 螺旋護風壁(ヒーリックスバリア) を確実に通り抜ける為にワンクッション置いたのだろう。次に姿を実体化させるのは、俺の命を狙う瞬間。

「ハァ、ハァ…… 螺旋護風壁(ここ) なら、邪魔は入らないね」

「ああ、やっと2人っきりだな」

「っ! また、そんなこと言って!」

―――キィン!

アンジェのダガーナイフをアクラマで受け、刃の応酬を繰り返す。限界を超えたのか、動揺しているのか、アンジェは能力を発動してこない。

「何度でも言ってやるよ。俺はアンジェが好きなんだ」

肩に刺さっていたクナイを投げ返す。右太ももに当たる。

「くっ……! 私だって、そうだよ! 少しずつ、少しずつ、明確にっ!」

横っ腹にアンジェの蹴りを食らう。抉られるような激痛、靴底の爪先に仕込みナイフ。

「ガ、ハッ…… ならっ!」

蹴り付けられたアンジェの足をそのまま掴み、アクラマを突き刺す。

「う~っ……! でも、私は裏切ったんだ! 初めから任務だった! でも、でも―――」

両手構えから振り下ろされたダガーナイフが俺の左肩を串刺しにする。グリグリと、力が込められる。

「―――でも何だっ! 戦うのは良い。だけどな、俺はアンジェと 敵対(・・) はしたくないっ! 後は好きって感情、だけだっ!」

ダガーナイフを突き刺すことで前のめりになっていたアンジェの後頭部に手を添え、無理矢理に引っ張ってやる。そして―――

「……? ―――っ!??? えっ、あ、ふぇっ!?」

力任せに唇を重ね、キスしてやった。濃厚な血の味するが、微かに甘い。アンジェは一瞬体を硬直させ、狼狽するばかり。そんな可愛らしいアンジェを抱きしめてやる。

『クロト、頼んだ』

俺の 智慧の抱擁(アスタロトブレス) から待機していたクロトが飛び出し、アンジェを包み込むように拘束する。智慧の抱擁、ね。そんなものは名ばかりで、かなり力任せな抱擁になっちゃって悪いな、アンジェ。クロトが『吸収』を発動させる。

「あ、うっ…… ケル、ヴィ……」

「今はゆっくり休めよ、アンジェ。これからのことは、その後で話そう」

肩のダガーナイフから、腹の仕込みナイフから力が消える。後に残るは俺に体を預けるアンジェの心地良い体温のみだ。MP切れ、どうやらアンジェはこうなると睡魔に襲われてしまうらしい。コレットみたいな体質じゃなくて良かった。クロトにナイフを取り出してもらい、深呼吸しながら回復魔法を唱える。良い香りがするが、真面目に回復する。

『アンジェは無力化した! 後はバールだけだっ!』

俺がそう宣言すると周囲を囲っていた結界がバリンと音を立て、盛大に飛散した。何事っ!?

「やっと壊れたー! どれだけ血を使わせるのよ、もう! あ、ケルヴィン! 助けに来たわよ!」